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REVIEW

2006年03月20日

THE SHAMPOO HAT『恋の片道切符』03/17-26ザ・スズナリ

 THE SHAMPOO HATは赤堀雅秋さんが作・演出される劇団です。コント(みたいな作品)でしか拝見してなかった大堀こういちさんが出てらっしゃるのに惹かれて、早めに伺いました。
 いつものシャンプーハットの空間で、中盤まではちょっと退屈することもあったのですが、じりじりと胸に、体に迫ってくる傷みを実感しながら、最後にはやっぱり泣かされちゃいました。

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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 舞台はとあるパチンコ屋の2階の休憩所兼事務所。
 パチンコ屋店主である在日三世の金子(大堀こういち)達は、 週末の草野球の試合に備えミーティングに余念がない。
 隣の部屋からは交通事故で半身不髄になった妹の弾くたどたどしいピアノの音が聞こえて来る。
 その頃世間では自民党のホームページに小さく書き込まれた北朝鮮からの宣戦布告文で大騒ぎになっていた。
 ピッチャーの不在に悩むチームだったが、バイトの面接に男(野中隆光)が現れ…。
 ≪ここまで≫

 音楽が大きくなって暗転し、音が切れて明転した時には、そこに緊張がありました。THE SHAMPOO HATのこの感触がすっごく好きです。役者さんがしっかりとそこに居るから実現できていることですよね。

 人種差別、障害者、戦争、国家権力等の、真正面から向き合うことが非常につらく、厳しい社会的な問題を、平凡な人々のありきたりな日常生活の中の、等身大の視点から描いています。お説教くさくなったり奇をてらったりすることなく、淡々と進む会話からその背景をじんわりと沁み込むように舞台に表していきます。パチンコ店およびそこに集まる人々のことが少しずつわかってくるにつれて、彼らをいたたまれないと思う気持ちと、他人事ではないという自覚が私の中に生まれてきました。

 ただ、序盤はちょっと退屈してしまいました。セリフとセリフの間の間(ま)に必然性を感じなかったり、役者さんの演技に引き込まれなかったり。金子(大堀こういち)が登場してからガラっと空気が変わった気がして集中できました。
 
 ここからネタバレします。セリフは完全に正確ではありません。

 舞台は直近の未来である2008年でした。パチンコ店を経営している家族は在日三世の北朝鮮人なので、北朝鮮関係の政治的な事件が起こった時には、何かとマスコミがたかってきます。また、無礼千万な警官(赤堀雅秋)がわがもの顔で勝手に事務所に入ってきたりもして、すごく不愉快な思いを強いられています。さらにビルの上空には自衛隊の飛行機(ヘリ?)が頻繁に飛び、異常な騒音公害の被害をこうむっています。
 でも皆んな、「仕方が無い」という大人の気持ちで完全にその状況を受け入れています。あぁ・・・つらい。今の私達もそうですよね。「波風立てて余計なことをする(される)はめになりたくない」と思って、意見したり反発したりすることをあきらめがちです。いけないとは思いながらも、どうしても断念せざるを得ないことってありますし・・・(あぁ、言い訳だ・・・)。

 バイトの面接にやってきた佐々木(野中隆光)は、半身不随になった金子(大堀こういち)の妹の彼氏でした。彼が「たばこ買ってきて」という短い携帯メールで妹を呼び出し、そこに向かう途中で彼女は交通事故に遭ったのです。直接の原因は彼ではないのだけれど、金子やその弟(日比大介)は、佐々木のせいだと思っています。
 『雨が来る』でもたしか、女性(松田弘子)に怪我をさせた2人の青年(日比大介&福田暢秀)が、お詫びのためにその人の家に訪ねてきてましたよね。『事件』でも殺された人の家族と殺人犯が登場しました。被害者と加害者という、分かり合う(許しあう)ことが究極的に困難だけれども関係を絶つことは許されない、大きなジレンマとともにある人間関係を題材に選んでることがすごいと思います。
 
 「(妹が居る部屋に)入ったら、お前を殺すから」と金子に脅されながらも、とうとう佐々木は部屋に入ります。すると金子は佐々木を追ってその部屋に行き、ひとこと。
 「遅いよ。待ってたんだよ、トシ子。」
 びえ~~~~~ん・・・・もー涙ボーボーですよ~・・・・たまんないよ、もうっ・・・。こういう優しさに触れると無条件に泣いちゃいます。すみません、単純な人間で。大堀さんかっこえ~な~っ。

 舞台上で役者さんは暑い、暑いと連呼します。アイスキャンディーもみんなで食べるし(全員そろって食べるのが可愛い)。でもその「暑さ」がそれほどリアルに感じられなかったんですよね~。『蝿男』の「暑さ」が凄かったのでね、それと比べるとやっぱり。もしかすると照明のせいかも、と思います。その部屋だけがずっと停電している、という設定でしたが、そうは見えなかったですよね。「停電している」ということが判明したのは始まってからかなり後のことで、それを聞いた時に「え?そんな風には見えなかったぞ」と思ったんです。窓から洩れる光だけであれだけまんべんなく明るいっていうのは、ちょっと、ないんじゃないでしょうか。

 大堀こういちさん。コントでしか拝見したことがなかったので、あまりのかっこ良さに驚きました。大堀さんが登場してからグっと作品が変化したように感じ、そこから最後まで集中して観ることが出来ました。
 原金太郎さん。パチンコでその日の日当を全部使ってしまう平井役。小劇場作品には若い役者さんばかりが揃いがちですが、原さんのように年齢がちょっと上の(ように見える)方が出ていると、一気にリアリティが増しますよね。突然歌いだしたり大声で笑ったりするのは、空気がパっと変わって良いなーと思いましたが、ちょっとわざとらしさを感じてしまいました。

 はっぴーえんど(ですよね?)の曲で幕が開いて、そして下りたのが、私はすごく好きでした。日本語の歌詞が沁みました。

出演=大堀こういち/日比大介/児玉貴志/多門勝/野中隆光(野中孝光改め)/黒田大輔/赤堀雅秋/いけだしん(猫のホテル)/星耕介(Oi-SCALE)/原金太郎
作・演出=赤堀雅秋 舞台監督=高橋大輔+至福団 照明=杉本公亮 音響=田上篤志(atSound) 舞台美術=福田暢秀 舞台製作=F.A.T STUDIO 宣伝美術=斉藤いづみ チラシ写真=木奥惠三 宣伝PD:野中隆光 舞台写真=引地信彦 演出助手=岩堀美紀 大和貴 制作助手=相田英子 制作=HOT LIPS(三谷郁奈/相田英子) 企画製作=THE SHAMPOO HAT
発売日=1月29日(日) 14ステージ 指定席=前売3,300円/当日3,500円 自由席=前売3,000円/当日3,200円<※平日マチネ(3/23 14:00) 指定席=3,000円/当日3,200円 自由席=2,800円/当日3,000円>
公式=http://www33.ocn.ne.jp/~shampoohat/

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Posted by shinobu at 2006年03月20日 21:57 | TrackBack (0)