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2006年05月07日

王子小劇場企画「筆に覚えあり」リーディング公演『夕鶴~生きづらさAとハイスコアB~』05/06-07王子小劇場

 王子小劇場の「筆に覚えあり」新作戯曲選考に初めて選ばれた戯曲のリーディング公演です。
 「風俗のお店で 若い女の子が だらだら喋るおはなし」で上演時間は約45分。脚本は小沢哲人さん、演出はスロウライダーの山中隆次郎さんです。

 役者さんがとっても良かったし演出の工夫も楽しめました。小劇場の若手演劇人の底力を見せていただけたように思います。ポストパフォーマンストークでも若手の作・演出家らが登場し、王子小劇場が作り手と一緒に独自のスタイルを立ち上げ、育てていこうとしている熱気を感じました。

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 ≪あらすじ・脚本紹介≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。改行を変更。
 舞台は風俗店。女の子たち(松浦和香子、内山奈々、山口奈緒子)の控え室。店長(板倉チヒロ)が売上を持って失踪してしまったのを機に、業務整理が行われることになり、給料が減らされる。息子(板倉チヒロ)を心配する母親(稲川実代子)、急に店長になってしまったボーイ(數間優一)。新人の女の子、慣れてしまった女の子たち。いつもどおりの風景、いつもどおりの対話。そのなかに潜み、うつろう心の揺れを、鮮やかに描く作品。
 ≪ここまで≫ 

 公式サイトでは上演台本が読めますし、脚本家と演出家の対談もあって充実しています。私は前情報がない方が好きなので、脚本もあらすじも全く読まないで拝見しました。

 ここからネタバレします。

 舞台手前中央に控え室のセットがあります。ぶっきらぼうなテーブルとイス。テーブルの上にはペットボトルや灰皿、雑誌など。舞台奥に並べられたイス5脚(手前に3脚、その奥に2脚)には、風俗店で働く女の子3人と新店長役の役者さんが座って朗読します。上手には小さなカウンター・テーブルがあり、ト書きと店長役の板倉チヒロさんが脚本をそのテーブルに置いて、ふらふらとリラックスして立っています。板倉さんは時々たばこを吸ったりして、全般的に素行の悪そうな振る舞い。イスに座って朗読する女の子たちはそれぞれ一役を読むのではなく、次々と役を変わっていきます。一人ずつ控え室の方に座って、本は読まずに演技をすることもあります。照明の演出もちゃんとあって(退場した人物のサスを消したり、柱にピンク色の明かりを当てたり)劇空間としても退屈しませんでした。

 くぐもった音のJ-POPが流れ続ける中、金をもらって性的奉仕をする若い女の子たちの、頼りない言葉たちがつぶやかれます。店の売り上げを持ち逃げした店長が一度だけ姿を現すのですが、それ以外は淡々と過ぎる風俗店の日常。
 失踪した店長の母親は毎日、店に様子を見に来ます(登場は一度だけ)。母親役の稲川実代子さんは役の実年齢に近い役者さんで、唯一台本を持たずに演技をする人物でした。控え室のイスに腰掛けて、誰も座っていない席に向かって話をします。素晴らしい存在感でしたね。地に足をつけて人生を生きている人と、体を売って(体を売るのをあっせんして)浮遊している女の子・男の子たちとの対比が鮮やかでした。 

 イスは合計5脚並んでいますが、使う役者さんは4人(女の子3人と新店長)なので、下手奥のイスだけは最初から最後まで誰も座らないままです。最後は3人いる女の子の内の1人(山口奈緒子)が退場してしまい、影マイクでセリフを読んでいました。影マイクで人間関係の希薄さやディスコミュニケーションを描き、空っぽのイスで、体があっても心はそこにない、のっぺらぼうな日常を表しているのかなと思いました。後からお話を伺ったら、あれはいなくなった店長の席だったそうです。面白いですね。

 脚本にそれほど強烈な個性や魅力は感じなかったですが、もし舞台化されるなら、たとえば青年団での短編2本上演(例→)のイメージにハマるかなと思いました。上演時間がとても短いですしね。重要なことがト書きに書かれていることが多い脚本で、リーディング上演ではどうしてもうまく表現しきれない部分があるようです。そういう意味でも舞台化できればいいですね。


 ≪ポストパフォーマンストーク≫
 出演者=玉山悟(劇場職員)/小沢哲人(今作の脚本家)/ブラジリィー・アン・山田(ブラジル)/名執健太郎(smartball)
 
 小沢哲人さんは演劇関係の人とはちょっと異質というか、ギラギラしてなくて素朴な感じの方でした。トークの舞台上にいながら計算とかは全くしていない雰囲気で(笑)、若いな~と思いました。

 名執健太郎さんとブラジリィー・アン・山田さんは今年の秋に開催される佐藤佐吉演劇祭に参加されるそうで、その公演についての意気込みも話されました。私の胸に残った一言↓(言葉は正確ではありません)
 名執健太郎さん「観た人が死にたくなるような芝居を作りたい。」
 ブラジリィー・アン・山田さん「絶望の中の小さな希望、本当のことを書きたい。」

 終演後に演出の山中隆次郎さんとお話する機会が得られました。俳優の身体、生理についてしっかり考えたお稽古をされたそうで、ドラマ・リーディング公演という作品形態についても深く考えていらっしゃいました。女優さんは山中さんがお選びになったそうで、その人選は大成功していたと思います。

出演=松浦和香子(ベターポーヅ)/内山奈々(チャリT企画)/山口奈緒子(明日図鑑)/板倉チヒロ(クロムモリブデン)/數間優一(スロウライダー)/稲川実代子(菅間馬鈴薯堂)
作=小沢哲人 演出=山中隆次郎(スロウライダー) 照明=吉村愛子(fantasista?ish) 音響=平井隆史(末広寿司)
ポストパフォーマンストークあり 5月6日(土)20時=小沢哲人 + ブラジリィー・アン・山田(ブラジル) + 名執健太郎(smartball) 5月7日(日)15時=小沢哲人 + 山中隆次郎(スロウライダー) + 土屋亮一(シベリア少女鉄道)
前売1500円 当日2000円(前売当日とも上演台本付き)
公式=http://www.en-geki.com/
公演公式=http://www.en-geki.com/yuzuru.html

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Posted by shinobu at 2006年05月07日 14:28 | TrackBack (0)