REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2006年06月05日

燐光群『民衆の敵』05/26-06/04俳優座劇場

 イプセンの戯曲を坂手洋二さんが現代日本バージョンに。主役は大浦みずきさんです(渡辺美佐子さんは体調不良により降板し、声のみの出演。)
 前半はどたばたしていて不安になっちゃったのですが、後半から一気に面白くなり、ラストシーンの美しさに魅せられました。
 できれば俳優座劇場よりもザ・スズナリで観たかったですね~。

 ★人気ブログランキングはこちら♪

 燐光群といえば“fringeが選ぶ2004年小劇場制作10大ニュース”の第2位になった名古屋市文化振興事業団による燐光群共催取り消し問題(⇒対象作品のレビュー)のことも記憶に新しいです。私は燐光群の活動が演劇界の言論の自由を守ってくれている気がしていて、燐光群および坂手洋二さんの作品には出来るかぎり足を運ぶようにしています。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより引用。(役者名)を追加。彼を彼女に変更。兄を姉に変更。
 ある地方の温泉街の専任医師(大浦みずき)が、その温泉が皮工場の廃棄物によって汚染され、人体に影響を与えることを知り、温泉の配管を工事し直すことを提案するが、温泉につぎ込んだ予算を無駄にせずにまた再工事の費用を掛けたくないと考えてその事実を隠蔽しようとする彼女の姉である町長(中山マリ)を初め、印刷所の社長、家主組合の会長(社長兼会長役=鴨川てんし)、権力におもねる人々によって攻撃される。彼女は孤立するが、家族(夫役=猪熊恒和)と共にたたかい、ついには、町の人間全体が集まる諮問会に於いて、こうした事態に対して大勢に従ってしまう人民=民衆こそが問題なのだと告げ、町から排斥される。しかし彼は毅然として自らの自説を曲げない。
 ≪ここまで≫

 シンプルな木製の丸いステージが舞台中央にあって、周囲は黒幕です。全体としてはシンプルなのですが、実はそのステージは回り舞台になっていて段差もあるので、かなり印象が変わる場面転換が観られました。
 状況説明に近いセリフが大量に行き交うのは燐光群らしいですが、役者さんの演技は少し大げさにデフォルメされ、現代日本の社会問題を随所にちりばめながらも寓話のように仕上げられていました。

 “絶対多数”。この言葉に含まれる矛盾に胸がもやもや、頭がむずむずしました。多数決で決議する国会の体制や、アクセス数の多さで存在意義が計られるウェブサイトの世界など、私たちは数が多いかどうかで無意識にさまざまなことを判断しています。「多くの人間が支持すること=正しいこと」だとは言い切れないということに、もっと用心深くならなければと思いました。

 ここからネタバレします。

 後半は医師(大浦みずき)が汚染実態を伝えるための講演会から開幕します。客席から野次を飛ばす民衆が大勢登場し、なぜか司会=議長(鴨川てんし)が選出され、講演会のはずが町長(中山マリ)と医師が対決する裁判のようになってしまうのです。誰かが意見を述べてそれを聴く場が、いつの間にか特定の誰かをつるし上げて弾劾する魔女裁判のようになってしまう・・・こういうこと、たぶん私の小学校や中学校時代にもありました。人間はいつも白黒つけたがるんですよね、その方が楽だから。でもそれには犠牲が伴います。だって灰色の人だってピンクの人だっていますものね。

 チラシのキャッチコピーにもなっている「この世で一番強いのは、たった一人で立っている人間だ。」というセリフは、「二足歩行しているから人間は強い」という意味ではなく、「たった一人で立っていることができる人間こそが、あらゆる人間の中で一番強い」という意味でした。チラシのビジュアルが猫なのは「長靴をはいた猫」かしら。
 自分ひとりで立っていることって、勇気がいりますよね。私自身は・・・恥ずかしながら全く出来ていないと思います。まずは、誰か・何かに頼ったり依存したりすることで、とてつもなく大きなことを失うということを自覚して、「たった一人で立つこと」を少しずつでも自分の日常に生かして行きたいです。

 ラストは暗転中に渡辺美佐子さんの声がイプセンの言葉を語り始め、一列に並べられた誰も座っていないイスがじんわりと照らし出されます。いろんな人がいろんなことを声高に主張し続けたけれど、最後のこの無人の舞台がもっとも雄弁でした。

≪東京、足利、松本≫
出演=大浦みずき/中山マリ/鴨川てんし/川中健次郎/猪熊恒和/大西孝洋/宮島千栄/江口敦子/樋尾麻衣子/内海常葉/ペ優宇/久保島隆/杉山英之/小金井篤/工藤清美/桐畑理佳/阿諏訪麻子/安仁屋美峰/樋口史/渡辺美佐子※渡辺美佐子は体調不良による入院のため、声の出演。
原作=ヘンリック・イプセン 脚本・演出=坂手洋二 美術=島次郎 照明=竹林功(龍前正夫舞台照明研究所) 音響=島猛(ステージオフィス) 舞台監督=大津留千博 衣裳=宮本宣子 演出助手=吉田智久・坂田恵 文芸助手=清水弥生・久保志乃ぶ 舞台協力=森下紀彦 協力=Carla Valverde 高津映画装飾株式会社 俳優座劇場舞台美術 俳優座劇場 宣伝意匠=高崎勝也 制作=古元道広・近藤順子・小池陽子 Company Staff=向井孝成・高地寛 イラスト=石坂啓
前売開始=4月16日(日) 指定席 前売¥4,200 当日¥4,500 ペア¥7,600(前売・予約のみ)学生=大学・専門学校生¥3,800 高校生以下¥3,000(学生は前売・当日共通料金 劇団扱いのみ 受付にて要学生証提示)5/26はプレビュー公演。一律¥3,800(劇団扱いのみ)
燐光群=http://www.alles.or.jp/~rinkogun/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
●●●人気blogランキングに参加中!ポチっとクリックしていただけると嬉しいです。●●●
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。

メルマガを発行しております。過去ログはこちら
 毎月1日にお薦めお芝居10本をご紹介し、面白い作品に出会った時には号外も発行いたします。
 ぜひご登録ください♪
 『今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台』(ID:0000134861)

↓↓↓メールアドレスを入力してボタンを押すと登録・解除できます。


登録フォーム






解除フォーム




まぐまぐ


『まぐまぐ!』から発行しています。

Posted by shinobu at 2006年06月05日 16:26 | TrackBack (0)