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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年06月06日

Studio Life『トーマの心臓』06/03-29紀伊國屋ホール

 Studio Lifeの代表作の3トリプル・キャスト公演です。1996年初演で今回が6演目(私は3度目)。メインキャストに新人が起用されてフレッシュな印象です。2003年のアートスフィア公演では残念な思いをしたのであまり期待せずに伺ったのですが、なんと、泣けてしまいました・・・。
 上演時間は約3時間10分(休憩10分を含む)。長いのはつらかったですが、あらためて『トーマの心臓』を知ることができた気がしています。
 ※Leben(レーベン) バージョンの初日ということで、終演後に特別ゲストとして新納慎也さん が登場しました。

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 ≪あらすじ≫ 劇場サイトより引用。(役者名)を追加。私が観たのはLeben(レーベン) バージョン。
 ドイツのギムナジウム(高等中学校)と寄宿舎生活を舞台にくり広げられる物語。冬の終わりの土曜日の朝、一人の少年が自殺した。彼の名はトーマ・ヴェルナー(三上俊)。そして月曜日、一通の手紙がユリスモール(奥田努)のもとへ配達される。「これが僕の愛、これが僕の心臓の音・・・」トーマからの遺書だった。その半月後に現れた転入生エーリク(三上俊)。彼はトーマに生き写しだった。人の心を弄ぶはずだった茶番劇。しかし、その裏側には思いがけない真実が秘されていた。
 ≪ここまで≫
 
 『トーマの心臓』は原作漫画も読んでいますし、舞台版も3度目なのでストーリーも演出もセリフさえもだいぶん頭に入っています。アヴェ・マリアが異常なほど繰り返されるのにも免疫ができました。
 前半は遠くから俯瞰する気持ちで観ていました。後半になると、ひとつずつ丁寧に積み上げられてきた少年たちの純な想いが、溢れて、ぶつかって、それぞれの未来へと流れ出します。
 主要登場人物(オスカー、ユーリ、エーリク)だけが目立つ美少年のラブストーリーではなく、恋愛を超えた人間愛や(神の)赦しをテーマにした群像劇だと受け止められたことが大きな収穫でした。萩尾望都さん、やっぱり凄い・・・。

 最近、私がバイブルにしている戯曲「出家とその弟子」を読み返したばかりなんですが、このお話に重なるところが多かったです。たとえば「他人を、相手を、そして自分のことを呪わない恋だけが、仏に祝福される(成就する)」という意味のことが書かれているんですが、これは恋愛だけではなく、生きる指針だと思っています。
 神にそむき、自分を裏切り、皆に嘘をついている自分をユーリは呪っていました。でもトーマはそんなユーリの全てを愛していたし、どんな人間も神に赦されていて、愛し愛されてもいいのだ、いや、そうあらなければならないのだと、自らの死をもって伝えたかったんですね。図書館の本に挟んであった恋文の意味がやっと理解できたような気がします。

 誰にもお勧めできる作品・・・ではないです。やっぱり“男優集団”ですので客席はリピーターの女性ファンでいっぱいです。ファンサービスとも取れる演技や演出もあります。少女漫画の世界観にどっぷり浸かることを前提に観に行かれると良いと思います。

 ここからネタバレします。

 今、「ウェブ進化論」という本を読んでます。だからオープンソースなどの世界観が私の頭にいつも浮かんでいるので、このお芝居の舞台である私立男子校を、ある閉鎖された世界として眺めることから始まりました。限られた人間同士がいつも同じ場所にいると、必ずヒエラルキーを作ろうとしますよね。情報戦略で誰かを陥れようとしたり、本来の姿とはかけはなれたところで不要な戦いが生まれたりします。どこもかしこも皆で隠して、勘ぐって・・・いつか大きな変化が訪れるんだろうな~・・・という想像をしながら前半は過ぎました。結果的に人物や設定を客観的に観られて良かったです。おかげで後半は感情移入できたと思います。

 男同士なのに「キスして」とか「好きだ」とか言っちゃうのって、普通は引きます。でも今回は男同士のラブシーン(と普段なら判断されるもの)に禁断の同性愛の色気などを全く感じずに観られました。役者さんが私立男子校という世界に無理なくフィットしていたからではないでしょうか。私の意識の変化かもしれませんが、恋ではなく愛の視点で『トーマの心臓』を味わえたのは大きな収穫でした。

 私は奥田努さんのユーリ役目当てでLeben(レーベン)初日に伺ったのですが、期待以上の演技を見せてくださいました。抑制しているのも、それが緩んだ時の笑顔も自然でした。
 エーリク(三上俊)も嘘がなかったように思います。トーマの両親やユーリの家族、義理の父親(甲斐政彦)などの外部の人間と触れ合うシーンで、学校内での彼との差がうまく表されていました。ちゃんと一人一人と新鮮な気持ちで出会っていたのだと思います。
 メインの場面じゃないんですけど、エーリク(三上俊)がユーリ(奥田努)の実家に泊めてもらうシーンが素晴らしかったですね。ユーリの本来の姿に触れたエーリクが、少しずつユーリに惹かれていく流れがスムーズでした。

 オスカー(曽世海児)を好きなあまりに色んな人に嫉妬してしまい、それをオスカー当人にもぶつけてしまうアンテ(吉田隆太)も本気が感じられて可愛かった。盗み癖のあるレドヴィ(林勇輔)がトーマの恋文に魅了されたのは、本当の愛に触れたからだろうなと感じ取れました。サイフリート(岩崎大)がユーリに対して屈折した愛情を持っていたことも伝わってきて、キワモノ的印象が残りがちのシーンが作品の一部として収まることができていました。オスカー(曽世海児)も後半は、バックグラウンド(『訪問者』で描かれています)が自然に感じ取られる演技でした。

≪東京、大阪≫
Seele(ゼーレ) 、Leben(レーベン) 、Flugel(フリューゲル) のトリプル・キャスト
出演(Leben)=奥田努/曽世海児/三上俊/林勇輔/吉田隆太/篠田仁志/岩崎大/下井顕太郎/寺岡哲/大沼亮吉/小野健太郎/荒木健太郎/仲原裕之/青木隆敏/関戸博一/藤原啓児/甲斐政彦/牧島進一/冨士亮太/舟見和利/牧島進一/石飛幸治/河内喜一朗
原作=萩尾望都(小学館文庫) 脚本・演出=倉田淳 美術=松野潤 照明=森田三郎 舞台監督=北条孝・土門眞哉(ニケステージワークス) 音響=竹下亮(OFFICE my on) ヘアメイク=角田和子 衣裳=竹原典子 アクション=渥美博 ステージング・アドバイザー=TAKASHI 美術助手=渡辺景子 演出助手=平河夏 宣伝美術=河合恭誌 菅原可奈(VIA BO, RINK) 宣伝写真=峯村隆三 宣伝ヘアメイク=角田和子・片山昌子 小道具=高津映画装飾 デスク=釣沢一衣 岡村和宏 揖斐圭子 制作=稲田佳雄 中川月人 赤城由美子 大野純也 制作協力=東容子 縄志津絵 宮澤有美 小泉裕子 八木美穂子 大田香織 上野俊一 鈴木一徳 企画・制作=Studio Life
一般/前売 4,800円 当日5,000円 4月26日発売
公式=http://www.studio-life.com/

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Posted by shinobu at 2006年06月06日 12:28 | TrackBack (0)