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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年08月14日

トム・プロジェクト『骨唄…骨、咲キ乱レテ風車…』08/05-15吉祥寺シアター

 劇団桟敷童子の東憲司さんが作・演出される三人芝居。高橋長英さん、新妻聖子さん、冨樫真さんという豪華キャストです。観に行った知り合い2人からお薦めがあったので、急遽観に行くことにしました。
 私はアングラが苦手なので、東さんの作・演出というだけで予定に入れていなかったのですが、脚本がとても面白く、観に行ってよかったです。ただ、やっぱり演出は苦手でしたが・・・。

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 ≪あらすじ≫ エミュウの解説はパンフレットより。
 九州のどこか、古くからの土着の風習が残る村。登場するのは死者の骨に飾り彫りを施す職人の父親(高橋長英)とその娘、薫(冨樫真)と栞(新妻聖子)。
 薫が12歳の時に母親が死んでから、娘たちは親戚にばらばらに預けられ、家族は別々に暮らしてきた。18年経ってサラリーマンになった薫は、保育士として働いていた栞が突然に失踪したと聞き、栞を探すために二度と戻らないと思っていたふるさとに帰ってきた。
 薫の予想どおり、栞は父が一人で暮らす実家に帰ってきており、村おこしのために作られたエミュウ(ダチョウに似た鳥、オーストラリアに生息する世界で二番目に大きな鳥…日本、アメリカ、アジアなどで食肉として飼育される。オーストリアでは国鳥に指定されている。)の飼育場で働いていた。薫は栞を説得して連れて帰ろうとするのだが、栞は父の後を継ぎ、骨細工の職人になると言う。
 一見明るく元気な栞だが、話している内に薫は栞の様子がおかしくなることに気がついた。栞は母親の葬儀で転んだ際に、風車の持ち手が耳に刺さり、脳に外傷を受けた。完治したと思っていたが、その後遺症がまだ残っていたらしい。あることをきっかけに栞は強い発作を起こし、その間の記憶が消えてしまうのだ。
 ≪ここまで≫

 会場に入るなり、舞台では無数の白い風車が、風でぐるぐる回りながらカラカラと音を立てていました。この時点で「あぁ、やっぱり・・・私には耐えられないかも(涙)」と思い、しっかりと構えた観劇姿勢に入りました。おかげでダメージは受けることなく、苦手なものは苦手なのだと受け流しつつ、胸に届いてくるセリフとその意味を考えながら観ることが出来ました。また、三人の役者さんの個性がものすごく強く、しかもばらばらだったため、それも個別に味わえました。人間、学習しますねっ!!(笑)

 ここからネタバレします。

 栞は幼稚園で飼育していたうさぎを全部逃がして、失踪しました。実家では“エミュウの里”で働きながら、エミュウを逃がしていました。発作が起こった時に常軌を逸した行動をし、発作が治まるとその間の記憶が消えてしまうのです。発作はある種の幻覚のような症状で、その時の栞のセリフに環境問題や過疎化、地方都市の混迷した政策(土地柄に合わない村おこし)など、現代社会の矛盾が映し出されます。

 前にしか進めない(後退できない)習性で、見かけはとても愛らしく、心優しいけど臆病で、寂しがりやのエミュウという動物は、まさに栞自身のことでした(この解釈は友人から教えてもらいました)。オーストラリアの鳥であることは、栞が村のよそ者であることとも一致します。
 栞はエミュウを献身的に世話して、可愛がりますが、その肉を食べなければなりません。そして、風車を倒して食べてしまうエミュウは敵でもあるのです。普段はエミュウの可愛さを自慢するように話す栞ですが、発作が起こると父と薫にエミュウを殺すように命じます。自分の愛するものが、同時に敵なんですね。しかもそれを食べて自分の肉にしなければならない・・・。矛盾だらけの人間存在を表しています。

 父親は、1000本の風車を海の見える山に並べたら蜃気楼が生じ、その蜃気楼を見ればあらゆる悲しみ、苦しみから解き放たれる・・・という言い伝えを信じています。それを栞に見せるために、家族三人でどんどん風車を作っていくことになりました。伝統、風習、言い伝え、迷信・・・色んな言葉がありますが、人間は現代社会において論理的には全く通用しそうにないことを信じ、叶いそうにない漠然とした夢のために一心不乱になることがありますよね。そしてその姿は、滑稽だけれど、愛らしく美しいものだなと思いました。たとえ人生において間違った方向に進んでいようとも。

 栞はエミュウの里を追い出され、絶望のふちに立った時に蜃気楼を見ます。自分はそこ(蜃気楼の世界)でしか生きて行けないけれど、そんな桃源郷は存在しないと知っているので、栞は高い台から飛び降りて死んでしまいます。意味は違いますが、「かもめ」のトレープレフの死と同様に、栞の死は必然だったと思いました。

 アングラ・テイストの演出が苦手な私には、やっぱり照明、音響、音楽が・・・つらかったですね。哀愁を誘う音楽の繰り返しとか、いかにもな瞬間にドドーンっ!という効果音+白い風車へのサス、とか・・・。最後は大量の白い花吹雪、舞台奥の黒幕がバサっと落ちて一面の風車、でした。予想どおりというか、もうお馴染みですよね。形式美になっているのだと思います。私は苦手ですが(くどいですね、すみません)。

 パンフレットによると、この戯曲は三人の役者さんへの宛て書きだったようです。見事だなと思いました。
 新妻聖子さん。声もきれいだしものすごく強い存在感です。びかびか光ってます。あたかも天と交信しているかのような演技でした。だから目の前の人とコミュニケーションしないんですよね(笑)。
 高橋長英さん。職人の役、多いですよね(笑)。しっかりと地に根ざした頑固さが体中から出ていて、説得力がありました。ただ、長英さんもやっぱりコミュニケーションはあまりされてなかったような。まあ頑固職人だからでしょうけど。
 冨樫真さん。真面目で不器用で優しい人なのかな~と思いました。その意味でも薫役にぴったり。父親にも妹にも本気で関わっていくのに、無視されるんですよね(笑)。かなり好感を持ちました。

≪東京(吉祥寺、亀有)、兵庫、福岡≫
出演=高橋長英/新妻聖子/冨樫真
作・演出=東憲司(劇団桟敷童子) 美術=東憲司 照明=相良浩司 音響=藤田赤目 舞台監督=根岸利彦 宣伝写真=塩谷安弘 宣伝美術=立川明 プロデューサー=岡田潔 企画制作=トム・プロジェクト
全席指定 一般=前売¥4,300/当日¥4,800 学生=¥3.300 シニア(60歳以上)=¥3.800(学生・シニア券はトム・プロジェクトのみの販売)
公式=http://www.tomproject.com/peformance/honeuta.html

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Posted by shinobu at 2006年08月14日 09:44 | TrackBack (0)