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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2006年10月07日

ハイバイ『無外流、津川吾郎』10/05-15渋谷ギャラリー LE DECO

 岩井秀人さんが作・演出されるハイバイSTUDIO VOICEに紹介されたり、岩井さんが今年11月の劇団ゲキハロ旗揚げ公演『江戸から着信!?~タイムスリップto圏外!~』(瞬殺で完売だったそうです)の演出を手がけられたり、今注目の小劇場劇団です(過去レビュー⇒)。

 私はオープニングから肩を震わせて爆笑!いろいろ不謹慎と受け取る方もいらっしゃるかもしれませんので、作品全体についてのお好みは分かれるところでしょう。私はお薦めしたいです。
 追加公演⇒10/9(月祝)19時~(2000円)&10/13(金) 15時~(2500円)
 プレビュー公演の感想&そのお返事が公開されています⇒「無外流、津川吾郎」ご感想ページ!

 公演前半のポスト・パフォーマンス・トークのゲストが充実してまして、特に“岩井秀人と岩井通子さん(岩井秀人のお母さん)”っていうのは・・・(笑)。トークだけでも行きたいなっ。

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 ≪あらすじ≫
 定年退職した内田(今井勝法)は公民館の碁会所で津川吾郎なる老人(餅松亮)と出会う。本人曰く、無外流(むがいりゅう)という剣術の名人らしい。サラリーマン生活を終えて抜け殻のようになり、これからの人生をどう生きようか悩み始めたばかりの内田は、齢90を超えながらも若者のように奔放に生きる津川に、ついてまわるようになる。
 一方、内田の息子・信治(金子岳憲)はいわばニートの若者で、自分を溺愛する母親(北村延子)とリタイアした内田との三人暮らし。劇団員活動をしながら実家に居座り続けている。
 ある偶然の出会いから、内田と信治の生きる世界が接点を持ち始め・・・。
 ≪ここまで≫

 現代口語演劇の部類に入ると思います。舞台も現代日本で、衣裳も今の日本人の普段着です。役者さんは日常会話にごく近い話し方をします。ただ、老人役の役者さんが大げさすぎてギャグとしか思えない“シワ”メイクをしたりすることで、「これは劇ですよ」という断りをしています。

 劇団活動を描くのは、ハイバイ作品ではよくあることのようです(私が観た過去作品は1作品のみ)。劇団ネタが苦手な私ですが、ハイバイは例外!めっちゃくちゃ面白いです。演じることや劇団という集団活動について常に客観的な視点から描いており、人間のコミュニケーション・ギャップを明快に示して笑えるところまで作り上げています。役者さんも周到な演技ができていて、狙いの鋭さに唸ります。そして、爆笑・苦笑させてもらえます。

 “劇団”と同様に作品共通のテーマは“ひきこもり”のようです。ニートの信治が社会と触れ合っていないことは、彼の生活態度から一目瞭然ですが、実はサラリーマンだった内田も、自分自身と向き合って来なかった実質上の“ひきこもり”なのではないかと、今、回想しています。

 ここからネタバレします。

 オープニングの映像および生掛け声(ニセ大向こう)に爆笑しました。「津川!」とか「ムガイリュウ!!」とかは納得ですが、「老人!」て!「人殺し!」て!!ただ語尾を追ってるだけなのに、あんなに大威張りに声を張り上げるんですから、たまりません(笑)。
 笑いのセンスもすっかり私のツボを刺激しまくってくれましたが、照明の微妙な変化のみで場面転換するシンプルさもかっこいいし、テレビ・モニターを使った夢・回想シーンも面白かったです。 
 今回、私が一番好きだった演出は、暗転です。特に最後から二番目の。ラストシーン(津川が信治と戦い、無外流の奥儀を披露することになる)も冷静なユルさが痛快でした。 

 内田家の向かいに住んでいる“身体障害者”のダイゴ君(松本裕亮)が登場したのはすごく怖かったです。妻のミエが暴力を振るわれているのに、内田がしばらく居間に隠れているのが許せなかった。「何やってんだよっ、家族を守れよっ!」って思った。でも、彼は怖かったんですよね。どうしたらいいのかわからなかったのでしょう。いつの間にか気づかない内に、そういう人間になってしまった悲しみがありました。

 ダイゴ君に襲われて鼻血を出し、よれよれになった内田(父親)と、同じくダイゴ君にセクハラされてひどく傷ついたのに、バカなことを言って自分をごまかす母親に対して感じたことを、信治が観客に向かって独白します。
 「・・・何を感じたらいいのか、結局わからないんだ。」
 これは信治だけでなく内田についても、そして現代の日本人についても当てはまることではないかと思いました(もちろん私自身のことも含む)。


 ■ポスト・パフォーマンス・トーク
  出演=前川知大(イキウメ)/岩井秀人(ハイバイ)

 「180度作風が違う」(前川さん談)という二人の劇作家・演出家同士の、率直なトークが聞けました。お二人とも1974年生まれの同い年だそうです。ハイバイの作品について「笑いながら、冷やっとする瞬間がある」という前川さんのご感想に、私も共感でした。

 前川「最後のシーンは、脚本ではどうなってるんだろうと思ったら『二人(信治と津川)ゆるくからみ合う』としか書いてなくって(客席から笑いが起こる)。何も解決しないのに、納得させられてしまう(そこがハイバイの凄いところ)。」

 前川「・・・それで、伝えたいことは何?」
 岩井「怒(いか)ってる、怒(おこ)ってる部分で書いている、と思います。」

 トークの後に聞いた話ですが、9月のプレビュー公演を観た観客からの意見を取り入れ、いろんなところで改善を試みたそうです。特にオープニングの映像はプレビュー時点にはなかったそうで、「前半が長すぎる」という意見をふまえた新たな演出です。あれは・・・爆笑でした。ほんと凄い。
 また、演出の岩井さんが劇団の主宰役として出演されていましたが、本公演では田中伸一さんに変わっていました。

 ※岩井秀人(ハイバイ)/前川知大(イキウメ)/板垣雄亮(殿様ランチ)/瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)の4人で“贅(ぜい)”というユニットを結成したそうです。楽しみですね。

出演=金子岳憲/餅松亮/今井勝法(幹生)/チャン・リーメイ/浜田信也(イキウメ)/永井若葉/松本裕亮/三浦俊輔/田中伸一(開店花火)/北村延子(蜻蛉玉) 
作・演出=岩井秀人 照明=松本大介(enjin light) 照明オペ=崎野怜子  美術=土岐研一 宣伝美術=池田泰幸/西村美博(サン・アド) 制作=大久保亜美 (mon)
5日~9日 前売り2000円 当日2500円 11日~15日 前売り2500円 当日3000円
公式=http://hi-bye.hp.infoseek.co.jp/

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Posted by shinobu at 2006年10月07日 13:58 | TrackBack (0)