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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年10月14日

劇団、本谷有希子『遭難、』10/12-19青山円形劇場

 演劇界でも文芸界でも旬の人、本谷有希子さんの新作です(過去レビュー⇒)。メルマガ9月号のお薦め前売り情報でもお伝えしておりました。前売りは完売ですが、当日券は開演1時間前から劇場で販売されます。
 『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』は映画化が決定したそうです(2007年7月公開予定)。DVDも発売中。

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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 放課後の職員室。
 教師達が談笑しているところへ一人の保護者(佐藤真弓)がやってくる。その保護者の息子は数週間前に自殺未遂をはかり今も意識不明の生徒で、母親はそれを担任の責任だと言い張り、こうして毎日学校に乗り込んでくるのだった。
 「息子が書いた相談の手紙を隠蔽したはず」とつめ寄られ、本当に知らないと泣き出してしまう担任(つぐみ)をかばうもう一人の教師(松永玲子)だったが、実は人格者と評判の彼女こそ、誰にも知られてはならない秘密を隠しているのだった……。
 裏を持つ人間がどんどんと状況に遭難していくさまを描くシリアスコメディ。
 ≪ここまで≫

 登場人物5人全員が、胸に秘めた思いを赤裸々に公表せざるを得ない状況におとしいれられ、自分の保身のために他人を裏切り、利用しまくります。敢えて可笑しく描かれるので笑って観ていられますが、起こっていることの実体は目も当てられない、耳にも入れたくない、人間の醜態です。
 自分の罪を隠したり、それを他人になすりつけたり、悪事が世間にバレることを恐れたり(ばらすぞと脅したり)することは、この舞台のように露わになっていないだけで、そこら中で常に行われているのでしょう。その実体を敢えて舞台というまな板の上に乗せて、どう料理されるのかを見せてくださったのだと思います。シミュレーション・ゲームのような展開が面白かったです。

 「ここまで説明してもらっていいのかしら?」と思うぐらい、人の気持ちを丁寧に描写した脚本だったと思います。私は言葉や行為ではないところから何かを感じ取れるような演出が、もうちょっと多い方が好みかもしれません。

 舞台は中学校の職員室。装置と照明のコンビネーション(って言うのかな)が繊細できれいでした。オープニングの照明&音響も、エンディングの効果音もかっこ良かったですね。

 ここからネタバレします。

 里見(松永玲子)は自分が起こした悪事すべてを、中学時代の先生(佐藤真弓)に言われた一言(=トラウマ)のせいにして、それを言い訳に自分を支えています。だから石原(吉本菜穂子)から「トラウマをなくしなさいよ」と言われると、即座に「私から理由を奪わないで」と反発・懇願します。そういう里見の気持ちにはちょっと共感しました。自分じゃなくて誰か(何か)のせいにしたいですよね、できることなら。まあ、できないんですけど。
 里見の感情をセリフで説明しすぎな気もしました。

 「他人の気持ちなんてわかるわけない」のだから、わかる努力もしないし、わかってもらおうとも思わない、というのは、言葉の意味だけだと正論ですよね。でも、だったら何のために言葉があるのか、何のために人は一緒に生きるのかという疑問にぶつかります。
 「他人の気持ちはわからない」ということを知り、それを認めて、そこから「わかり合いたい」という気持ちを否定しないで関わり合えばいいんじゃないかしら。徒労に終わることも多いけれど(もしかしたら絶望しかないかもしれないけれど)、でも、生きてる時点で一人じゃないわけだし、その絶望のことは後回しにしながら、勝手に希望を抱いて他人とつながりたいと思ってもいいんじゃないかな~。これは、最後の最後にあくびをしちゃった里美を見て、フフっと笑えた気持ちから出た、私の勝手な結論です。

出演=松永玲子(ナイロン100℃)/つぐみ/佐藤真弓(猫のホテル)/吉本菜穂子/反田孝幸(文学座)
作・演出=本谷有希子 舞台監督=宇野圭一/川上大二郎 舞台美術=中根聡子 照明=中山仁(ライトスタッフ) 音響=秋山多恵子 音響操作=藤森直樹(サウンドバスターズ) 衣裳=山本有子(ミシンロックス) 衣裳製作=上原泰子 演出部=スズキサオリ/秦真祐子/長谷川ちえ 小道具製作=堀越春美 演出助手=福本朝子 大道具製作=C-COM舞台装置 小道具=高津映画装飾株式会社 宣伝美術=佐々木暁 イラスト=瀧波ユカリ 宣伝写真=引地信彦 宣伝衣裳協力=NIBROLL About Street WEB担当=関谷耕一 制作助手=嶋口春香 制作協力=(有)ヴィレッヂ 制作=寺本真美 企画・製作=劇団、本谷有希子 主催=社団法人日本劇団協議会・創作劇奨励公演
2006年9月2日(土)発売 全席指定 前売:3,800円 当日:4,000円 
公式=http://www.motoyayukiko.com/index.shtml

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Posted by shinobu at 2006年10月14日 23:33 | TrackBack (0)