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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年11月14日

北九州芸術劇場/ホリプロ『錦鯉-にしきごい-』11/14-23天王洲銀河劇場

 『錦鯉』は土田英生さんが作・演出される劇団MONOで、2000年に初演された作品です。この作品で私は初めてMONOに出会ったんですよね~。2000年しのぶの観劇ベストテンの第2位でした。
 北九州劇術劇場とホリプロによるプロデュースでキャストは芸能人が勢ぞろいになりましたが、演出は土田さんご自身です。北九州、大阪公演を経た東京初日に伺いました。上演時間は約2時間5分。
 ⇒公演公式ページ
 ⇒ぴあのページで舞台写真が見られます。

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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 とある地方都市。
 普通のサラリーマンだった水野(鈴木一真)は、亡くなった赤星組の先代に見込まれて組長になることになった。フリーターだった親友の吉田(ヒロシ)もなぜか一緒だ。営業が身に付いたやたら腰の低い水野に拍子抜け気味の組員たち(笠原浩夫/たかお鷹)。水野は背中に彫った錦鯉の刺青を見せ、組長として頑張るつもりだと語りはするのだが、襲名披露もまだしておらず、傘下に入っている狭山組に挨拶にも行っていないという体たらく。
 そんなある日、狭山組が乗り込んで来る。
 狭山組の小田島(水沼健)の話によると、赤星組のある男が、狭山組のパチンコ屋で、香港マフィアに雇われてパチンコの「打ち子」をしているらしい。怒った狭山組の組長は、その男を見つけるように指示し、さらに、赤星組に香港マフィアをつぶせと命じてきた。それができなければ赤星組が狭山組につぶされる。打ち子をしている男は吉田に違いないと確信した水野は、吉田の恋人の安那(木南晴夏)から吉田の居所を聞き出そうとするが日本語がうまく通じない。
 ヤクザの組長として責任を突きつけられる水野。まるでゲームの駒のようにルールに翻弄される人々。追い詰められ、とうとうピストルを手に上半身裸で飛び出していった水野。意を決した彼の背中に皆が見たものは・・・?!
 そして1年後、刑期を終えて、組長としての仕種や目つきも堂に入ったものとなった水野が、意気揚々と組に帰ってみると・・・。
 ≪ここまで≫

 ふぬけたヤクザがいっぱい登場して、どこかが常にズレたままの滑稽な会話が交わされて・・・やっぱり『錦鯉』は大好きな作品だと思いました。方言もやわらかくて良いです。ただ、役者さんたちのやりとりは少々ぎこちなく、初演時に私が感じたような、静かだけれどお腹の底にぐぐっと迫ってくる感動はありませんでした。
 また、この作品に天王洲銀河劇場は大きすぎる気がしました。たとえばパルコ劇場とか本多劇場とかなら良かったのにな~と。

 カタギ、ヤクザ、カタギ、ヤクザ、カタギ・・・世の中には色んな職業の人間がいて、その世界独特の決まり(ルール)があります。端から見たら馬鹿馬鹿しい約束事でも、中にいる者にとっては命がけの真剣勝負なんですよね。でもそのルールは共有した者同士の間でしか通用しません。しかも知らないうちに勝手に変わっていたりするから手に負えない・・・。
 初演の時にはよくわからなかったラストシーンですが、今はちょっとわかった気がしました。私も少しは成長したかしら(苦笑)。

 ここからネタバレします。セリフは完全に正確ではありません。

 装置が豪華でしたね~。地中海風の水色を基調にした部屋から、可愛いクマさん印の中華料理店「一品香菜館(イーピンシャンツァイカン)」風への変化は鮮やかでした。トイレや玄関、階段を含む中2階部分がスライドして入れ替わるんですね~、ダイナミック!

 水野「爪の先まで感情でいっぱいにしたいんだわ。その可能性に賭けとるんだで。」
 サブタイトルにもなっているこのセリフがキーになっています。敵も味方もあるルールに一緒に乗っかって、その世界の“けじめをつける”ことに命を賭けるんですから、そりゃ~血沸き肉踊ることでしょう。スポーツや戦争も一緒かもしれません。「燃え尽きたい」っていう無鉄砲さをかっこいいと思ってしまいます。

 1年の刑期を終えた水野を迎えたのは、すっかりカタギになった組員たち。でも佐山組との抗争が突然再燃してしまいます。敵に囲まれて絶体絶命の危機。
 水野「考えたらあかんで。閉じて、閉じて、閉じて、閉じて、閉じて、信じ込むしかないで。」
 吉田「閉じることは悲しいで。」
 水野「でも閉じな、生きていけんでな。」
 吉田「閉じたら終わりだで。ヘンな思い込みは危険を招くだで。」

 すっかりカタギのビジネスマンになった幼なじみの吉田の言うことなど聞かず、水野も組員らの後を追って敵(佐山組)のもとに飛び込んでいってしまいます。
 水野「いっぱいだわ、爪の先まで。」
 一人だけ残っていた吉田も、やっぱり水野の後に続いて玉砕。
 吉田「こんなことならワチも、背中に錦鯉でも入れとけばよかったわ。」

 男たちが全員死んでしまって、残された吉田の彼女(木南晴夏)と水野の妻(田中美里)がオセロをしています。壊れていた有線が突然直って、音楽が鳴り始めました。
 水野の妻「ルールがわからんと悲しむこともできんで」「人生って何なの(セリフ憶えてません・・・)」

 あるルールにどっぷり浸かって、その世界で「爪の先まで感情をいっぱいにして」生きることは、人間の人生の美学だとも受け取れます。男たちのルールが理解できなかった妻は、彼らの死の意味がわからず、本気で悲しむことができません。
 同時に、ルールと言っても実はただの思い込みで、端からはただの馬鹿にしか見えなかったりします。さらにルールは、有線が勝手に壊れてなぜか直ってしまうように、自分達がコントロールできないこともあるんですよね。結局すべては一人一人の勝手な思い込みだと言ってしまえるでしょう。でも人間って誰しもそうですよね、自分が信じたルールを自分の世界だと決めて、その中で好きな生き方をするのです。それが滑稽だけれど可愛らしく、美しく見えてしまいます。

 終盤で水野と吉田が対立するシーンは、スーツ姿の美男子2人のうまい対比になっていました。特にヒロシさんがとってもキュートでした。

 ※あらすじについて補足。
 「水野は背中に彫った錦鯉の刺青を見せ」るシーンはありませんでした。
 「とうとうピストルを手に上半身裸で飛び出していった水野」とありますが、上半身裸ではありませんでした。

≪北九州、大阪、東京、愛知≫
出演=鈴木一真/田中美里/ヒロシ/笠原浩夫/木南晴夏/水沼健/有門正太郎/たかお鷹
作・演出=土田英生 舞台美術=奥村泰彦 照明=乳原一美(北九州芸術劇場) 音響=杉山聡(北九州芸術劇場) 衣裳=三大寺志保美 ヘアメイク=我妻淳子 舞台監督=鈴木田竜ニ テクニカル・マネージャー=渡部洋士(北九州芸術劇場) 宣伝美術=Coa Graphics 宣伝写真=小山裕良 宣伝スタイリスト=三大寺志保美 宣伝ヘアメイク=浜野正明(DONNA Inc.)/根津しずえ 宣伝衣裳協力=AQUA GRAZIE 主催=ホリプロ/天王洲銀河劇場 企画制作=北九州劇術劇場/ホリプロ
一般発売日 9月9日(土) 10:00AM S6000円 A4500円 学生3000円 ※未就学児童は入場不可。
劇場公式=http://www.gingeki.jp/index.html
公演公式=http://www.gingeki.jp/special/nishikigoi.html

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Posted by shinobu at 2006年11月14日 23:16 | TrackBack (0)