2006年03月12日
【ポストパフォーマンストーク】チェルフィッチュ『三月の5日間』03/11-21六本木Super Deluxe
初日はチェルフィッチュ主宰の岡田利規さんと批評家の佐々木敦さんのポストパフォーマンストークがありました。司会は岡田利規さんが兼任。レビューはこちら。
佐々木さんはHEADZという音楽レーベルを主宰されています。音楽批評、文芸批評もなさっているそうです。
メモって覚えている限りのことを書きます。
岡 田「まずご感想から(笑)。いかがでしたか?」
佐々木「DVDで観せていただいたことはありましたけど、チェルフィッチュを実際に観るのは今回が全くの初めてです。色んな意味で考えされられました。『こんなのがあったんだ!』というような。『演劇って、面白いね』みたいな(笑)。」
岡 田「それが狙いでもあります。演劇関係者じゃない方との機会を増やしたくて、こうして今日は音楽界の佐々木さんですし、明日は映画監督、あさっては文芸関係の方とトークをさせていただきます。」
岡 田「僕はHEADZが出しているトータスが好きで、同じくHEADSに所属しているサンガツというバンドの『5日間』という曲が、この作品のタイトルの由来になっています。初演では劇中で使ったんですが、今回は休憩の時に使いました。」
岡 田「ポスト・ロック(トータスやサンガツの音楽のジャンル)の『冷めているけれど、熱いところに行こうとしている』ところ。『イっちゃう』のじゃなくて、だけど熱くなることができる。それが僕は好きなんだなー。」
佐々木「モニタースピーカーの発達が音楽を変えたといわれています。演奏しながら自分の音が鮮やかに聞こえるようになりました。リスナー中心主義とも呼ばれていて、音を出している側も同時にリスナーである状態。聞くことから考え始めるということがあります。客観視を余儀なくされるんですね。多重化というか(云々)。」
岡 田「俳優の意識のコントロールの仕方も重要な問題で、モニタースピーカーのたとえが分かりやすいかもしれません。(僕の手法は)チャーリー・パーカー的 or ピンクフロイド的ではないんです。プログレ=アングラ、ポストロック(トータス)=今の演劇、というか。」
岡 田「ポスト・プロダクション(ライブ録音したものを人工的に加工する)というのは・・・(忘れました。ごめんなさい)、重要になってきています。自意識を消しやすい方向に進んでいる。」
佐々木「録音してから加工が出来る。つまり何でもできちゃうんですよね。ポスト・プロダクションはむしろav○xとかが『あまり上手くない歌手がすごく上手く歌ってるように聞こえるCD』を作ることに使われているんです(笑)。だから今ではライブ(生)の価値が再浮上しているとも言えます。」
岡 田「演劇でのポスト・プロダクションは、稽古でできるような気がしています。実は僕自身があまりわかっていないので上手くしゃべれないんですが。ナルシスティックな『ヤっちゃう感』は、僕は消すのが好きです。」
岡 田「ポスト・プロダクションの点で言うと、キーボードを使えるようになったことで、脚本をもっと推敲して、より精巧に作る(書く)ことができるようになっていると思います。」
佐々木「私が演劇を観たくなくなったのは、演劇には劇的な手法(クリシェ)があって(例えば無理やり盛り上げようと音楽がガンガンかかったり)、それにノれない自分がいたからです。チェルフィッチュにはそれがないですよね。なのに感動できるのが凄い。」
岡 田「(誰かに)盛り上げられるよりも『自分の中で自分が変わる』方が楽しいっていうか、いいですよね。そういう人が(僕以外にも)ある程度いると思うし。」
佐々木「一方で『ヤっちゃう感』の良さというのもありますよね。」
岡 田「初演は俳優の動きに即興は一切なくて、僕がすべて決めていました。でも今作では(僕が決める)比率が下がってきています。つまり『ヤっちゃった感』は増えています。」
岡 田「(稽古の)作業の頃からその可能性を感じていて、昨年の『目的地』ぐらいから始めました。全部僕が決めた形だと、何度も見ているとさすがに飽きちゃうんです。僕が飽きていると俳優も飽きています。今の方法だと僕も楽しいし、俳優も楽しいみたい。」
佐々木「それは俳優との信頼関係が新しい段階へと進んだということですよね?」
岡 田「そうですね。昔はジャズが全然理解できなかったんですが、今は(入門書を読んだこともあって)ジャズがやろうとしていることはすごいなって思います。」
【観客からの質問】
1.役者さんの演技について。具体的にどういった稽古をされていますか?
岡 田「セリフをしゃべるために、相手がしゃべることに対してイメージを決めていきます。この『イメージ』という言葉を他人と共有するのは難しいのですが、今、一緒に作業している俳優とは共有できているので、イメージという言葉を使っています。イメージが決まっていれば、そこからどんな動きが出てきても大丈夫というか。」
岡 田「イメージは基本的に俳優が出してきます。そこに僕が新たなイメージを足したりします。イメージはふくらんだ方が面白いので。イメージが小さいと動きが貧しくなります。」
岡 田「僕は、『戯曲の言葉から動きを出すこと』を否定しています。戯曲と動きとの関係は、普通の演劇では親子の関係であることが多いのだけれど、それは兄弟であるべきであり、同じ親(=イメージ)を持つふたりの子供であるべきだと思っているのです。」
2.ある種だらしなさともいえる動きがありますが、あれはダンス界では『こども身体』と呼ばれたりするものだと思うのですが・・・・(質問の意図は忘れました)
岡 田「ああいった言葉で脚本を書き始めたことから始まっています。この言葉にはどんな身体がいいのだろう、と考えました。あの言葉だから、あの身体になる、という必然(を探した?)。」
3.客席の騒音に対して俳優が反応されましたが、そういう指示を出してらっしゃるのですか?また、もし観客が話しかけてきたときは、どうするのかなど、準備をされていらっしゃいますか?
岡 田「音は実際に鳴ったわけで、それが聞こえているのだから、聞こえたという反応をするのだと思います。」
岡 田「観客から話しかけられることは昔はあったんですが、今はなくなってきています。昔というのは、たとえば俳優の友人とか、演劇を観る人ではない人が観客だったころ。おばさんが『うん、うん』とうなづいてくれてたりとかしたんですが、それがないのは寂しいですね(笑)。」
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チェルフィッチュ『三月の5日間』03/11-21六本木Super Deluxe
第49回岸田國士戯曲賞受賞作品の待望の再演で(初演のレビューはこちら)、しかも作品の舞台になったライブハウスでの上演です。私個人としては今年の上半期最大のお薦め!
若者の口語があふれつづける、しゃれた地下室で、ビールを飲みながら、観客の携帯着信音を楽しんだ時、私はあきらかに演劇ではないものを観て(体験して)いました。※ジャンルとしては明らかに演劇なのですが。
お好みが分かれるので(これはチェルフィッチュ作品の枕詞です)メルマガ号外は控えますが、個人的には可能な限り多くの人に観ていただきたい(体験していただきたい)と思った作品でした。
上演時間は100分(休憩20分を含む)です。ウェブ予約はこちら。当日券情報はこちら。
2006月12月に新作『エンジョイ』で新国立劇場進出が決定!(2006/03/13追記)
【これからご覧になる方へ】
ステージを凹型に囲む客席でした。センター・ブロックがお薦めです。私は開演の55分前に会場に到着しましたが、センターの良い席は満席でした(びっくり!)。なので、良い席をゲットしたい方は開場時間には会場に到着されることをお薦めします。
「ライブハウスで行われる何かを楽しみに来た」と思って、ぜひ開演前にビールやおつまみなど楽しんじゃってください。リラックスして、わいわい楽しんで、わいわい帰る。それがいいと思います。
【コアなファンの方へのアドバイス】
ミッフィーちゃん(松村翔子)を堪能したい方は、中央ブロック中央か、ちょい下手寄りがお薦め! 私は中央ブロック上手寄りだったため、佐藤さん(仮名)の陰になってミッフィーちゃんが見えませんでした(涙)。
※2度目は最前列桟敷席の中央で拝見しました。だけどやっぱり佐藤さん(仮名)の陰になっちゃってました(涙)! 全体を考えると中央ブロックがお薦めですが、ミッフィーちゃん目当てなら中央ブロックの一番下手ぐらいがいいのかも・・・。(2006/03/17追記)
私は初演を観て大感動しており、戯曲本も読んだしDVDも観ています。だから真っ白な気持ちで観たわけではないんですよね。でも脚本はほぼそのまま変わっていませんし、配役もおそらく変更がないので、作品の概要については初演のレビューと同じと言っても問題ないと思います。
初演と比べてどう変化したのかを感覚的に言うと、すごくおしゃれになって、洗練されていて、大人で、そして自由でした。
ここからネタバレします。
初演との違いは・・・まず会場ですよね。六本木のおしゃれ気な地下のライブハウスっていうだけでわくわくですし、開演前の熱気も休憩時間のざわざわ感も、とにかく新鮮でした。
そして衣装!超かっこよくなってました。やっぱり六本木にいる(行く)ような人ってことで、特に山縣太一さんと瀧川英次さんは全く別キャラになってるほど。初演は全員メガネだったけど、今作ではそういう縛りがなかったです。
米軍のイラク侵攻から3年、初演から2年経っていますので、時事的なことについて脚本は少々変更されていました。今にフィットした感覚がとても心地よかったです。ライブハウスのことを話すシーンでの「まあ場所はココなんすけどぉ(笑)」とか最高!
初演は2004年でしたので、イラク戦争についてものすごく身近に感じていたのですが、もう3年経って、自衛隊も派遣されて、今、撤退するとかしないとかの状態になっていて・・・イラク戦争というよりは、今、地球上で起こっている戦争などの人為的な不幸全体を想像しました。
初演に比べると照明がかなり大胆になっていました。色も派手です。かっこいいです。得にラストの短い暗転の後、ミノベ君(瀧川英次)が銀行のATMから戻ってきて、お金をユッキー(山崎ルキノ)に渡して、渋谷駅へ向かう時の、あの下手天井から横に差す白い照明。光る時も消える時もバシュっていう音が聞こえたような。
休憩後、上演中に携帯電話の着信音が鳴りました。かなり大きい、しかもマヌケな音が、私の後方から。私は瞬間的にムカっとして後ろを振り替えました。するとちょうど舞台でセリフをしゃべっていた山縣太一さんも、その携帯を鳴らしちゃったお客さんの方を観ていたのです。そしてまた2度目の携帯着信音!この時も山縣さんは鳴った方向(上手客席)を、セリフをしゃべりながらチラリと観たのです。「あ、今そこで鳴ったね~」みたいな雰囲気で(笑)。思わず私もクスっと笑ってしまい、すっかり楽しくなってしまいました。
その後、携帯は鳴りませんでしたが、ドリンクを飲むお客様が多くなっていたので、グラスの中の氷が揺れるカランという音が断続的に続きました。大きな音の時はステージ上の役者さんがちゃんと反応してくれて、私は他の観客の皆さんと、そして舞台上の役者さんと、まわりのスタッフさんたちと、つまりあの空間に居た人たち全員と、一緒に会話をしているように感じて、すごく幸せになりました。
私が初演の時に「2004年のベストラストシーンだ」と思った、あの、「山手線の音楽が鳴る長い暗転」が、ありませんでした!これは個人的に大衝撃でした(苦笑)。でも・・・今回の環境を考えると、つっぱなすように終わってくれて良かったです。劇場で上演される演劇だったらアリですが、ライブハウスで行われる演劇っぽいイベントでは、助長だし説明的になってかっこ悪かったことでしょう。あと、今回は音楽を使わない演出だったそうですので、その意味でもなくして正解だったと思います。
ちょっと寂しかったのはミノベ君(山縣太一)が言う「そういうことほんとみんな分かってたら、戦争とかも起こんないだろうねって思うんだよ」というセリフに感動できなかったこと。初演の時は無表情に近い顔で他人行儀に話されていたと思うのですが、今回はにこやかに、安堵したような嬉しそうな表情で明るく話されていました。なんか、サラっと通り過ぎてしまったんですよね・・・。後ほど役者さんの演技について書きますが、そのことと関係しているのかもしれません。
ポストパフォーマンストークで岡田さんがおっしゃっていましたが、音楽でいうジャズのように俳優の自由度をかなり上げたお稽古をされているそうで、それが如実に舞台に現れている気がしました。
やっぱりミッフィーちゃん(松村翔子)はすごいです。きらきらしてらっしゃいます。勉強部屋の窓の向こうに宇宙の景色が見えるように感じました。
そして、どうしても目が奪われたのが瀧川英次さん。衣装もお似合いで、すごくセクシーなんですよね。縦線状の赤い照明を浴びて下手の壁によりかかって座っているだけなのに、気になって仕方がなかったです(良い意味で)。
ただ、果たしてそんな風に俳優が目立つということが演出意図に叶っているのかどうかという点では、疑問が残りました。役者さんの存在感がかなりデコボコとしていたことは、私個人としては楽しいし歓迎なのですが、作品全体としてはどうだったんだろうな、と。
チェルフィッチュの作品ではだいたい山縣太一さんのことが一番印象に残っていたのですが、今回は存在感が少なくて、ステージの上手奥のすみっこでずーっと座っていた時などは、居らっしゃることをずっと忘れていました。いわば「壁」になっていらっしゃいました。だから、敢えて「目立たないように存在する」という演出がほどこされていたのかなぁ、と思ったりもして・・・つまり「完成度」という点で初日のステージは質が高かったのか低かったのかが、私には曖昧に終わりました。「完成度」という尺度が初演の時とは違うものに変わったのかもしれません。
でも、このことは特に考えなくてもいいのでしょう。役者さんの技術はある一定ラインをはるかに超えてらっしゃいますし、私が最高に楽しい3時間ぐらい(開場時間を含む)を体験したことには変わりありません。
第49回岸田國士戯曲賞受賞作品 Postmainstream Performing Arts Festival (PPAF) 2006
出演=山崎ルキノ/山縣太一/下西啓正/松村翔子/瀧川英次/東宮南北/村上聡一
作・演出=岡田利規 企画=小沢康夫 舞台監督=鈴木康郎 照明=大平智己 宣伝美術=good design company ウェブ=谷上周史 制作=中村茜 制作協力=プリコグ 主催=チェルフィッチュ 共催=Postmainstream 助成=財団法人東京都歴史文化財団
前売り開始 2/1(水)~ 全席自由/整理番号つき 前売:3200円 当日:3500円(お立見の可能性あり) 学生:2800円(要学生証/ウェブ予約のみ) セット券=サンガツ・ライブ(3/17)と「三月の5日間」(公演日よりお選び下さい)のセット券前売のみ4500円(ウェブ予約のみ)
公式=http://chelfitsch.net/sangatsu.html
★3/17だけ『サンガツ・ライブ』です。全席自由 前売:2200円(ウェブ予約のみ) 当日:2500円 企画協力: HEADZ
サンガツ=梶道人 (dr)、山脇豊土 (dr)、小泉篤宏 (g)、小島創太郎 (g)、磯木淳寛 (b) DJ Peaky (electronics)
トークショー=小泉篤宏(ミュージシャン/サンガツ)×岡田利規(チェルフィッチュ)
チェルフィッチュ=ショートパフォーマンス「ティッシュ」作=岡田利規 出演=松村翔子/端田新菜
サンガツ=http://sangatsu.com/
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