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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年04月24日

青年団『東京ノート』04/19-05/14こまばアゴラ劇場

 平田オリザさんが作・演出される青年団の代表作の再演です。初演は1994年、第39回岸田國士戯曲賞受賞作品です。やっぱり傑作だと思いました。上演時間は約1時間45分。
 追加公演決定!
 5月3日(木)19:00~と5月5日(土)19:00~

 メルマガでもご紹介しましたとおり、なんと8ヶ国語の字幕付き公演!(1回の公演で観られる字幕は1言語です) 私はイタリア語の回にお邪魔しました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『東京ノート

 ≪あらすじ≫ 
 舞台は2014年の東京。フェルメール展が開かれている近代的な美術館のロビー。ヨーロッパで大きな戦争が起こっていて、名画がアジアへと避難してきている。反戦運動を辞めた学芸員(大塚洋)、武器を作る会社で働くサラリーマン(山内健司)、相続した高価な絵画を美術館に寄贈しようとする若い女(辻美奈子)、卒論の資料収集に来た女子大生(荻野友里)などが行き交う。遠くの戦争の影響を少なからず受けながら、ありきたりな日常も流れている。
 ≪ここまで≫

 こまばアゴラ劇場を横長に使った美術です。『ソウルノート』の時とはまた違った美術館になっていました。嬉しいですね~。下手奥の壁の色がピンクだったのは個人的には少々いただけないな~と思いましたが、まあ好みの問題ですね。※『ソウルノート』の美術はこのページの舞台写真に近かったと思います。
 舞台に向かって少し右上に設置された大きなディスプレイに字幕が表示されます。イタリア語なんて全くわからないんですが、読んでるつもりになって遠くの国々とのつながりを意識しながら観劇しました。とても面白い体験だと思います。これから予約される方には字幕のある回をお薦めしたいです。

 絵画鑑賞という観点から、ものごとを見るという行為について深く考えさせられます。舞台が美術館である必然性も感じました。
 セリフにも出てきましたが、人間は望遠鏡と顕微鏡の機能を身体にそなえていますよね。その能力を磨いて使いこなすことは、今の私でも努力すればきるんじゃないかと思いました。ひとつのこと・ものを、一方向からではなく様々な側面から眺めて、遠くからも近くからも全力で観察して、それについて思考すること。そこからスタートすれば、ちゃんと世界とつながっていけるのではないでしょうか。

 ここからネタバレします。

 今、この瞬間に、地球上のどこかで大量殺人が起こっているのに、のんびり絵画鑑賞をしている私たちがいる・・・。残酷な現実が無言の空間に満ちて、のどもとまで苦しさがこみ上げました。

 “平和維持軍”や“守るための武器”など、言葉自体に矛盾をはらんでいるセリフのひとつひとつに重みがあります。そして「しょうがない」という言葉。「戦争、反対~」と叫んだ男(秋山建一)に対して、平和維持軍に志願する男(大竹直)が言ったセリフです。きわめて政治的で日本人らしい響きがあると、私は思います。個人的に、人生で一番避けて通りたい言葉なんですよね。だからこのシーンが一番鋭く胸にささった気がします。

 男女の恋愛関係についての会話になると、なぜか退屈しました。たぶんエロティックじゃなかったからじゃないかな・・・。過剰ないかがわしさや肥大した欲望など、もっと赤裸々で汚れたものも感じたかったですね。たとえば松井周さんが演じる弁護士には、なぜかおどろおどろしいほど巨大な性欲があるように感じたんです。私だけの妄想かしら(笑)? 松井さんはささいな言葉の中に意味を多重に凝縮させ、それを簡潔な演技で表現されていたように思います。露悪的とも取れる生々しさが良かったです。彼が激昂するシーンではピンと張り詰めた空気の中に粘りや湿度も感じられて、刺激的でした。

 離婚する女(山村崇子)が両親の世話をしている女(松田弘子)に向かって「私の絵を描いてください。ちゃんと私を見て」と言いました。「ちゃんと見る」ってことの重みが届いて涙がこぼれました。
 『ソウルノート』とは違って、最後は音楽が一切ないまま溶暗して終幕でした。こっちの方がずっといいなと思いました。

~第39回岸田國士戯曲賞受賞作品~ 青年団第53回公演
出演=山内健司 ひらたよーこ 松田弘子 足立誠 山村崇子 根本江理子 辻美奈子 小河原康二 秋山建一 小林智 川隅奈保子 松井周 能島瑞穂* 大塚洋 鈴木智香子 大竹直 高橋智子* 荻野友里 河村竜也 長野海 堀夏子
*=ダブルキャストでの出演。下記日程は高橋智子が出演(4月23日(月)、30日(月)、5月7日(月)、11日(金)~14日(月))私が拝見したのは能島瑞穂さんです。
作・演出:平田オリザ 舞台美術=杉山至+鴉屋 照明=岩城保 字幕操作=西本彩 衣裳=有賀千鶴 宣伝美術=工藤規雄+村上和子 太田裕子 宣伝写真=佐藤孝仁 宣伝美術スタイリスト=山口友里 制作=西山葉子 協力=(有)あるく (株)栄光舎 (株)富士通ゼネラル 企画制作=青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 主催=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
★オンデマンド字幕付き上演:8カ国語(英語、フランス語、イタリア語、韓国語、中国語、タイ語、マレー語、インドネシア語)の上演字幕を準備。公演各回の7日前までに申し込み必要。
チケット発売開始 2007年2月10日(土)前売・予約・当日共一般=3,500円/学生・シニア=2,500円/高校生以下=1,500円(日時指定・全席自由席・整理番号付き)
http://www.seinendan.org/

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Posted by shinobu at 2007年04月24日 23:20 | TrackBack (0)