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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年05月11日

TBS/アトリエ・ダンカン『血の婚礼』05/03-20東京グローブ座

 『血の婚礼』はスペインの詩人ロルカの3大悲劇のひとつです。私はtptの公演で一度拝見しました。白井晃さんが台本と演出を手がけられています。主演は森山未來さん。
 上演時間は約1時間50分。短い上演時間にギュっと凝縮されたアーティスティックな空間でした。

 ⇒森山未來さんのメッセージ動画(イープラス)
 ⇒CoRich舞台芸術!『血の婚礼

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 婚礼の日、花嫁(ソニン)がかつての恋人(森山未來)と逃げ出した。
 花嫁と一緒に逃げた男は、花婿(岡田浩暉)の父親と兄を殺した一族の人間だった。
 この因縁めいた出来事は、宿命なのか。
 ≪ここまで≫ 

 なだらかな斜面の八百屋舞台が、客席の方へ大きく張り出しています。舞台上には何も置かれていません。舞台正面奥に壁のようにスクリーンが垂らされており、天井からステージへときれいにつながっています。そのスクリーンやステージに照明や映像を当てて、シンプルな舞台をさまざまな色合いに変化させていました。干からびた地面や広がっていく血の映像などは特に効果的でした。

 ギターの生演奏(渡辺香津美)に合わせて、役者さんは歌ったり踊ったりされます。もちろん森山未來さんは華麗なフラメンコを披露してくださいました。役者さんがステージを歩いてまわって関係性を示したりするのは、『ルル~破滅の微笑み~』に似た感じです。衣裳の色使いがクールでおしゃれだし、白井さんの美意識が前面に出た演出だったと思います。

 「さすが白井さんだわ~♪」と思う反面、だったらもっと密度の高いものになって欲しいなとも思いました。役者さんの在り方がそれぞれにバラバラで、対話もまだ浅い感じがしたんですよね。白井さんの作品はどこかに理想の頂点があって、全体(全員)がそこに向かって静かに突進していくような、そんな力強いパワーが感じられる時にものすごく感動します。今日の段階ではそういうのは感じられませんでした。 

 でも『血の婚礼』が表す意味は、前に観た時よりも少しはよくわかったような気がします。人間は心や身体の衝動につき動かされることがあります。でもそんな奔放さがいつも許されるわけではないのがこの世の中。ダメだとわかっていながら捨て身で突き進んでしまう姿のせつなさが、どうしようもなく美しく見えてしまいます。それが“血”の意味なのでしょう。でも、そうなると行動の原因は意志だけではなく、血筋・血統のせいだとも考えられるんですよね。
 先日の『三文オペラ』には「だけど仕組みが許さない」という歌詞がありました。うーん、おとといは『藪原検校』だったし・・・なんだか私の中で同じテーマが続いてるな~。

 ここからネタバレします。

 蜘蛛の巣のような模様が広がる大きな赤黒い布を吊って場面転換するのが、ロマンティックで美しいです。そういえばtpt版でも布を使う演出がありましたね。
 にぎやかな結婚式のシーンの裏では“死”(新納慎也)がダンスを踊っていて、常に暗い運命の影を感じさせます。こういう、何かをうっすらと匂わせるような演出が、白井作品の素晴らしいところだと思います。

 良心の呵責にさいなまれながらも、互いを求めずにいられないレオナルドと花嫁は、矛盾を抱えたまま抱き合ってキスしたり、離れようともがいたりします。あのシーンは熱くて良かったな~。ただ、情熱的なソニンさんに比べて森山さんは爽やかさの方が前に出ていた気がします。もっと野太い声とか聞きたかったですね。

 片足が不自由な女の子(尾上紫)が“月”の独白をしたのは妙案ですよね。彼女もまた望んでかたわになったわけではないなのに、そういう運命の中で生きていかざるを得ません。“月”が“死”(新納慎也)に犯されるシーンは男女や生死、欲望と理性など二項対立するテーマがいっぱい重なって、見ごたえがありました。

≪東京、長野、富山、大阪、名古屋、広島、福岡≫
出演=森山未來(レオナルド)/ソニン(花嫁)/浅見れいな(レオナルドの妻)/岡田浩暉(花婿)/新納慎也(死)/尾上紫(月)/池谷のぶえ(花嫁の乳母?)/陰山泰(花嫁の父)/根岸季衣(レオナルドの姑)/江波杏子(花婿の母)/渡辺香津美(ギター演奏)
脚本=フェデリコ・ガルシア・ロルカ 台本・演出=白井晃 音楽=渡辺香津美 美術=二村周作 照明=高見和義 音響=山本浩一 衣装=太田雅公 ヘアメイク=宮内宏明 振付=斉藤克己 演出助手=豊田めぐみ 技術協力=堀内真人 舞台監督=安田武司 宣伝美術=フライ はたはた 宣伝写真=田中まこと 宣伝スタイリスト=濱里ルカ 宣伝=る・ひまわり 制作=大迫久美子 吉本麻子 関口真由美 制作統括=桑原啓子 プロデューサー=池田道彦
S席9,000円/A席7,800円/B席6,800円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
http://www.duncan.co.jp/web/stage/bloodwedding/index.html

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Posted by shinobu at 2007年05月11日 00:47 | TrackBack (0)