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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年07月19日

パルコ『The Last Laugh(ラスト・ラフ)』07/11-22パルコ劇場

 三谷幸喜さんの二人芝居『笑の大学』(1996年読売演劇大賞“最優秀作品賞”受賞)の、英語プロダクションです。ロンドンのウエスト・エンドのロングランに先駆けた来日公演ということで、英国人キャストによる充実の2時間強(休憩15分を含む)。

 チケット代は8,400円と高いですが、観に行ってよかったと思える贅沢な作品でした。すごい脚本だと思います。喜劇って何なのか、劇場ってどんな場所なのかを、はっきりと言葉で教えてもらえました。

 ⇒CoRich舞台芸術『ラスト・ラフ
 レビューをアップしました(2007/07/21)。

 ≪あらすじ≫
 戦時下の国にて。劇団で喜劇を上演したい劇作家が、自作戯曲の検閲を受ける。ガチガチの軍人が担当になってしまったから、さあ大変。
 ≪ここまで≫

 三谷幸喜さん作品ならではのドタバタな笑いも、ウィットに富んだかっこいいジョークも、英国人紳士2人がエレガントに披露してくれました。最前列の端の席だったので字幕を追いかけるのがちょっと大変でしたが、幸せな2時間だったな~・・・。

 私が観た回の観客には外国人(英語を母国語とする方々)が多かったのか、笑い声が大きめだし、中盤は暗転の度に拍手が起こって、いつもと違ったパルコ劇場でした。
 暗転(薄暗い)する場面転換の回数が多くて、集中が途切れることがありましたが、それはそれで役者さんと一緒に休憩しつつ、気持ちを入れ替えて次のシーンのための心の準備をする気分にもなれたので、新鮮な楽しみ方ができたように思います。

 検閲官役のロジャー・ロイド・パックさんがものすごくキュートでした。

 ここからネタバレします。

 左手が義手になっている検閲官は、最初は劇作家をけんもほろろに扱いますが、徐々に喜劇の毒にあたって(笑)、自ら演技をするようになっていきます。“検閲”が行われるはずが、2人が協力しあって戯曲がブラッシュアップされていくという、本末転倒ぐあいが楽しいです。
 笑いを作る方法から発展して、笑いとは何か、演劇とは何かという深いテーマまでも、作品を通じて知ることができます。登場人物が実際にやって見せて、語って教えてくれて、そしてこの作品自体も“喜劇”なんですよね。ものすごくうまくできた脚本です(私なんぞが言うまでもないですが)。

 笑いは一瞬でも現実を忘れさせてくれる・・・。その笑いが自由に生まれるのが劇場なんですよね。劇場に集まった人々は、「嘘の世界にいる」という約束をみんなで共有している間、その嘘(夢)の中で生きることができます。現実世界でどんなに過酷な、悲惨な環境に生きていても、お芝居という嘘のもとで人は心を自由にできるのです。そこでは笑えるし、泣ける。人の悪口も言える、政府にたてつくこともできる。だってお芝居(嘘)なんだから。

 統合前の東ドイツの劇場の話を思い出しました。家族同士で互いを見張る(スパイする)ような言論の自由がない社会で、人々は劇場の中でだけ、感じたままに笑ったり泣いたりできたそうです。

 戦況が悪くなっていくことが装置や音響で表現されます。窓の外に徐々に高くつまれていく土のう。大きくなる爆音。最後には古くて立派なシャンデリアも爆破の衝撃で揺れて、天井からはチリが振り落ちてきます。そんな絶対絶命の状況で、検閲官は作家が書いた戯曲を読みながら静かに笑います。シニカルでスマートなエンディングでした。

≪The Theater Royal Windsor、Everyman Theater,Cheltenham、Milton Keynes Theater,Milton Keynes、Richmond Theater,Outer London、Theater Royal,Newcastle upon Tyne、東京、大阪、2008年1月、LONDONウエスト・エンドでオープニング予定≫
出演=作家:マーティン・フリーマン(Martin Freeman)/検閲官:ロジャー・ロイド・パック(Roger Lloyd Pack)/
脚本=三谷幸喜 演出=ボブ・トムソン(Bob Tomson) 脚色=リチャード・ハリス(Richard Harris)、プロデューサー=ビル・ケンライト(Bill Kenwright)
【発売日】2007/06/09 8,400円(全席指定・税込)
http://www.parco-play.com/web/page/information/lastlaugh/
http://www.parco-mitanikoki.com/web/last_laugh/

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Posted by shinobu at 2007年07月19日 18:26 | TrackBack (0)