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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年08月21日

劇団ぎゃ。『無題』08/19大博多ホール

 劇団ぎゃ。は中村雪絵さんが作・演出・出演される福岡の劇団です。藍色リストに続いて翌日に拝見しました。

 福岡ウインドアンサンブルという吹奏楽団との、たった1日2ステージだけの競演です。オーケストラと演劇とのコラボレーションは、先日のルームルーデンス『サロメ オーケストラ版』で拝見して以来ですが、生演奏の美しい音楽の贅沢だけでなく舞台装置としての効果も大きかったです。上演時間は1時間20分弱。

 ⇒CoRich舞台芸術!『無題

 ≪あらすじ≫
 絵画のオークション会場。ある画家が頭の中で想像した絵に値がついていく。
 ≪ここまで≫

 舞台の額縁全体を覆う紗幕が、舞台のおそらく中央付近にかかっています。紗幕の奥にはオーケストラがガツンと居て、役者さんは紗幕の手前で演技されます。装置は可動式の食卓とイス以外にはほぼ何も無かったですが、生演奏と楽器と奏者が居るだけで、豪華なオークション会場と画家の夢の中の世界が成立していました。

 受付や会場案内のスタッフも白いシャツに黒い蝶ネクタイという衣裳で揃えていましたし、生演奏と最初の「オークションへようこそ!」の導入にはわくわくしました。画家と対話するオークション主催者の言葉が、紗幕にスライド文字で映写されます。字幕操作の方と役者さんの息が合っていて、このやりとりが面白かったですね。日本語字幕の下(上?)になぜかフランス語のサブタイトルも入っていて(笑)、セレブな雰囲気がプラスされていました。
 画家が思い描いたことが舞台に現れて、それに(その状況を描いた絵画に)値がついていきます。頭の中が舞台にさらされるという構造が面白いし、演技も筋書きも自由自在なので楽しんで観られました。

 劇団ぎゃ。は笑いを積極的に取りにいく作風なんですね。ボケてツっ込むタイプの、いわばベタでサービス精神大盤振る舞いなギャグが連発され、会場には大きな笑いが何度も起こっていました。
 私は全くと言っていいほど笑いませんでしたが、笑えなかったことには不満も疑問もありません。客席で笑いが起こることで役者さんが安心したり、「笑ってる観客は面白いと思っている」と解釈するのは寂しいことだと思います。笑わなくても楽しんでいる人はいますし、笑っていても物足りさを感じて帰る人もいます。笑い(ウケ)を取るための言葉や展開に重点が置かれ、作品の核になる部分が曖昧になっている気がして残念でした。

 クライマックスからラストへの着地点がとても面白かったです。セリフがない空間で雄弁に劇世界を作り上げてくれていました。

 お値段は1000万円以上からで、「10000000円」「50000000円」などになります。桁区切りの「,(コンマ)」をつけて欲しかったですね~。

 ここからネタバレします。

 スクール水着を着た女性がいかにも“痛さ勝負”みたいに(笑)、ネタとして登場しました。その役者さんのことを知っている観客にとっては、「そこまでやるか!?」とか「あの人、またやってるよっ!」などと笑えるポイントになるのでしょう。でも初めての観客にとっては痛いだけの可能性もあり・・・。やるなら1人だけでもきちんと成立するぐらいの役作りをしてもらいたいですね(スクール水着キャラだけに限定した話ではありませんが)。

 大きな声でがっちり演技をしている時に、たまに素(す)の状態(を装って)でセリフを言うシーンがありました。笑いを取る意味で効果が出ていたこともありましたが、ひとつの手法(テクニック)として使うだけなのはもったいないと思います。ある役柄を徹底して演じて、そのプラスアルファとして使うぐらいのバランスにした方がいいのではないかと思いました。演技については全体的におぼつかなかったですね。

 何でも自分の思い通りになるので、画家は「俺は神だ!」と狂い始めます。想像上の人物ら(王様、お妃様、王子など)が無差別の殺し合いを始めて、舞台はすっかりデカダンなムードに染まり、画家もろとも破滅に向かいます。登場人物が皆んな死んでしまって誰も動かなくなった舞台に、ただオーケストラの音楽だけが響きました。このシーンで値段がどんどん上がって落札に至ったのは痛快でしたね。人間の範ちゅう(意味やことば、物語など)を超えて生まれたものにこそ価値があるという主張のようにも受け取れました。

出演=中村雪絵、堺雅記子、三坂恵美、木村佳南子(非・売れ線系ビーナス)、田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス)、富田文子、三原宏史((劇)池田商会)、矢ヶ部哲、福岡ウィンドアンサンブル有志
作・演出:中村雪絵 演出補助:古賀つばさ 舞台監督:栗原雅樹(万能グローブガラパゴスダイナモス) 舞台装置:三坂恵美 照明アドバイザー:糸山義則 照明プラン:下川綾 照明操作:永井辰弥 演奏:福岡ウインドアンサンブル 衣裳作成:古賀つばさ 後藤真郁子 選曲:中村雪絵 柳田智子 小道具・字幕:林良子(非・売れ線系ビーナス) 字幕操作:広瀬由依 中原智香 振付:富田文子 パンフレット・チラシデザイン:堺雅記子 チケットデザイン:児玉真名美 制作:古賀つばさ 上野藍 三坂恵美 広瀬由依
【発売日】2007/06/01 前売り1500円、当日2000円 ペアチケット(予約・前売りのみ)2400円 ぎゃ。グッドプライス券(劇団予約のみ) 中村雪絵の肖像画を持参された方 500円(油絵・サイズ指定有り・10号〔530×455mm〕)
http://gya01.fc2web.com/

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Posted by shinobu at 2007年08月21日 17:10 | TrackBack (0)