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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年10月05日

わらび座『ミュージカル「小野小町」』04/14-01/03わらび劇場

 東京にもよくツアーに来て下さっているわらび座ですが、作品を観るのはこれが初めてでした。上演時間は約1時間50分休憩なし。

 秋田県は角館(かくのだて)のわらび劇場(710人収容)で、今年の4月中旬から来年1月初旬までの9ヶ月におよぶ長期公演中のミュージカルです。なんとシングルキャスト(1人1役で代役なし)!

 ⇒CoRich舞台芸術!『ミュージカル「小野小町」

 ≪あらすじ≫ チラシより引用。
 出羽国司、小野良実と村長の娘・大町子の間に生まれた小野小町は、祖父母と母の愛に包まれて美しく育つ。「13歳になったら上洛せよ」との父の言葉通り、小町は母とともに京に上るが、都には正室の萩とその娘紅葉がいた。不慣れな京での暮らしの中、数々のいじめに遭うが、小町はひるむことはない。次々とみやびな都の文化を身に着けていく。
 やがて、小町の美しさと和歌の才能は京中に知られるところとなる。17歳になり舞姫に選ばれた小町はついに仁明天皇の目に留まる。小町は、父良実や小野家にとってなくてはならない人間となり、萩と紅葉の心は穏やかではない。
 仁明天皇の更衣となり、輝くばかりに美しく、さらに磨かれた和歌を詠む小町に、狂おしいほどの思いを寄せている男がいた。紅葉の夫、仁明天皇の皇子である「深草少将」であった。天皇の子を宿し、絶頂を極める小町を陰謀と策略が襲う。虚飾にまみれた世界に翻弄されながら、小町は「生きる」ことの真実を見つけていく。
 ≪ここまで≫

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わらび劇場エントランス

 オープニングは客席後方から秋田音頭を歌い踊りながら役者さんが登場。お祭りの衣裳で男性も女性も元気いっぱいに開幕ムードを盛り上げてくれます。舞う手の動きがパキっと細かく静止するのが美しく、女性が叩く太鼓の音には軽やかながら堂々とした響きがありました。声も伸びと張りがあって気持ちよく聞いていられます。「あぁ、これは何年もお稽古を積み重ねて、身にしみこんだ動きだな」と思いました。稽古というより習慣と言った方が近いかもしれません。

 光沢のある真っ黒な回り舞台で優雅な衣裳を着た平安の世の人物たちが(美術・衣裳:朝倉摂)、素直な気持ちを言葉と歌にあらわしていきます。とてもわかりやすいストーリー展開で、時にはセリフ・歌がなくBGMと役者さんの演技だけで出来事を伝えることもあり、退屈することはありませんでした。

 秋田生まれの内館牧子さんが書かれた「小野小町」は、秋田に生まれ秋田に死んだ小町の「強いからこそ美しい女性像」が強く打ち出されていました。秋田県で観るからこそ楽しめる、地元ならではの題材も含まれていたように思います。福岡観劇の時にも感じましたが、舞台鑑賞というのは場所が変われば違う作品になるのだなと思います。まず観客は地元の方が多いですしね。秋田のわらび劇場で観る「小野小町」は、これしかないんですよね。東京で観たら全然違う感想を持つだろうと思います。

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終演後に役者さんと記念撮影できます

 ミュージカルを観るとたまに、役者さんが自分1人だけの世界を作って、歌いながら自分に酔っている状態を目にすることがあります。今作ではそういうことが全くありませんでした。役者さんはまっすぐに自分が演じる人物として作品の中に存在し、歌い、演じており、登場人物それぞれが関係を交えていくことで、1本の線がはっきりと見えてくるような、とても素直な作品でした。だから何度も涙が流れたのだと思います。
 また、セリフの間違いが1度もありませんでした。わざわざ書くことではないと思いつつも、やはり触れずには居られません。私が観たのが9/23ですから初日から5ヶ月経っているとはいえ、すっかり心身にやきついた演技を見せていただけたるのは嬉しいことです。プロフェッショナルだなと思いました。

 小野小町は学校の授業で必ず学習する歴史上の人物ですが、知らないことがいっぱいでした。彼女については「実在の、架空の人物」と言われるほど、たくさんの逸話が残っているようです。

 ここからネタバレします。

 小野小町の和歌です(パンフレットより)。
 1「花の色は 移りにけりな いたずらに 我が身世に降る 眺めせし間に」
 2「我死なば 焼くな埋(うず)むな 野にさらせ 痩せたる犬の 腹肥やせ」
 1は百人一首にも入っている有名なもので、学校でも必ず習いますよね。2には驚きました。内館さんは2から強いインスピレーションを受けたようです。

 小町と天皇、紅葉と深草少将の恋の四重唱が美しかった。でも歌詞は全体的にちょっと平凡すぎるように感じました。

 秋田の実家に帰ってきた小町を追って、深草少将も都を捨ててやってきました。毎日1本ずつシャクヤクを植えて100日目を迎えたら、小町が彼の愛を受け入れるという約束をするのですが、100日目を迎える直前に少将が死んでしまいます。ドラマティックに盛り上げすぎのような気もしましたが、そのエピソードも小野小町について語り継がれている逸話だそうです。

 とにかく目が離せなかったのが、藤原良房役の萬谷法英さん。どんなセリフも演技もちょっと大げさ目に、見るからに悪者らしく作ってらっしゃるのが面白くて、登場される度に笑っちゃいました。わらび座所属ではなくフリーの方なんですね。この公演のためのキャストなのかもしれません。

出演:椿千代、山名孝幸(ヴォーカル株式会社) 、さとう龍二(ヴォーカル株式会社)、萬谷法英(フリー)、尾樽部和大/阿部佐和子/三重野きよ子/飯野裕子/近藤いずみ/長掛憲司/菅原円/高田綾/遠藤浩子
作曲:深沢桂子 脚本:内館牧子 演出:栗城宏 音楽:深沢桂子 作詞:高橋亜子 振付:鎌田真由美 振付・所作:尾上菊見 美術・衣裳:朝倉摂 照明:塚本悟 音響・効果:栗城恭子 ヘアメイク:鎌田直樹 小道具:平野忍 音楽助手:紫竹ゆうこ 所作助手:安達真理 美術・衣裳助手:西村有加 演出助手:牧田さとみ 舞台監督:石井忍/仁しづか 演出アドバイザー:中村哮夫 制作:劇団わらび座
一般:指定3150円(3675円) 自由2625円(3150円) 小・中:指定2310円(2625円) 自由1785円(2100円) ※( )は当日券料金
http://www.warabi.jp/komachi/

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Posted by shinobu at 2007年10月05日 16:37 | TrackBack (0)