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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2007年10月17日

新国立劇場演劇『たとえば野に咲く花のように-アンドロマケ-』10/17-11/04新国立劇場 中劇場

 ギリシャ悲劇を題材にした「三つの悲劇」三部作の第2弾。新国立劇場・新シーズンの第2弾でもあります。『アルゴス坂の白い家-クリュタイメストラ-』に続いて初日に伺いました。

 1951年の日本に舞台を置き換えた、いわばスタンダードなドラマでした。上演時間は約2時間10分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『たとえば野に咲く花のように

 ≪ものがたり≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。安満喜に「田」を追加。
 1951年夏、とある港町の寂れたダンスホール。戦争で失った婚約者を想いながら働く朝鮮人、安田満喜(七瀬なつみ)。そこへ先頃オープンしたライバル店を経営する安部康雄(永島敏行)が訪れる。戦地から還った経験から「生きる」ことへのわだかまりを抱いていた康雄は、「同じ目」をした満喜に夢中になり店に通い詰めるが、満喜は頑として受けつけない。一方、康雄の婚約者あかね(田畑智子)は、心変わりした康雄を憎悪しながらも、恋心を断ち切れずにいる。そんなあかねを、康雄を恩人と慕う直也(山内圭哉)が見守っていたのだが……。
 ≪ここまで≫ 

 味のある木造のダンスホールが客席に向かって斜めに建っていて、これは座る席によって見えるところが変わってくるなと思いました。なので座る前にぐるりと舞台を見てまわりました(すみません、迷惑な客で)。で、思い出したんですよ。これって『欲望という名の電車』の時と同じだ!って。ちょっと嬉しくなりながら自席につきました。

 日本は1945年に終戦を迎え、1950年に始まった朝鮮戦争で特需に・・・。歴史で勉強したので知識としては知っていました。でも、こうやってお芝居で観ることで何とも言えない、歯がゆい、情けない気持ちになり、涙がボロボロこぼれました。“韓流ブーム”まで到来した現在の日本だからこそ、50年前を描く意味も大きいのかもしれません。

 ただ、中盤以降はあまり楽しめなくなってしまいました。舞台を鑑賞する時に何を重視するのかが、私の中で明らかに変わってきているのが大きいのですが。役者さんが心から、本気で感じていないことを口にしたり、段取りだから動くというような演技を見つけてしまうと、サーーーーーーーーッと舞台から気持ちが遠のいてしまうのです。そうなるとセリフもストーリーも頭に入らなくなって、最初の姿勢を取り戻すのに時間がかかってしまいます。

 前半は私も探り探り観ていたので、演技自体に引っかかることは少なかったんですよね。でも後半は、登場人物のそれぞれの深いところに入っていくので、どうしても肌にしみるようなリアリティを欲してしまいます。全体としては納まりの良いホームドラマのようににも受け取れる脚本なので、役者さんの調子によって作品全体の印象が変わるのではないでしょうか。本日初日ですので、これからどんどん変化していくことと思います。

 具象美術に音響、照明が雄弁でした。照明は時間の経過を示す以外にも大きな演出効果があって面白かったです。でも音響(効果音)は、説明のために使われすぎているように感じました。飛行機、セミの声などはもうちょっと小出しにしてもらえたらいいなと、個人的には思いました。

 康雄の婚約者あかねのキャラ(設定)は相当面白いですよね。田畑智子さんはもっと爆発できると思うので、これからもっと、ワーっとはじけてくれたらいいですね~。

 ここからネタバレします。

 南方戦線の地獄、海面下に潜む機雷(きらい)、朝鮮特需のジレンマなどは、なんとなく知ってはいても腹の底からわかってはいなかったことばかり。

 アル中のかおる(田畑智子)が直也(山内圭哉)に、可愛さ余って憎さ百倍の康雄(永島敏行)のことを「殺して」とつめよるシーンは、照明がオレンジから徐々に赤に変わっていくのが面白かったです。戯画的で可笑しさもありました。

 最後はダンスホールの売春婦3人が妊娠してハッピーエンド。もちろんあっけらかんとハッピーにはならないんですけど。ホールの外に咲いた小さな花のことをおしゃべりして終幕でしたが、残念ながら取ってつけたように感じました。
 なぜギリシア悲劇なのか、アンドロマケなのかは、よくわかりませんでした。

「三つの悲劇」ギリシャからVol.2
出演=七瀬なつみ、田畑智子、三鴨絵里子、梅沢昌代、永島敏行、山内圭哉、大沢健、大石継太、池上リョヲマ、佐渡稔
作=鄭義信 演出=鈴木裕美 美術=島次郎 照明=原田保 音響=友部秋一 衣裳=宮本宣子 ヘアメイク=西川直子 振付=前田清実 殺陣指導=川原正嗣/前田悟 方言指導=明石良 演出助手=城田美樹 舞台監督=村田明 総合舞台監督=矢野森一
【休演日】10/22、29【発売日】2007/09/08 S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円 当日学生券=50%割引 ※「三つの悲劇」3作品特別割引通し券あり
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000033.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。ご了承下さい。
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Posted by shinobu at 2007年10月17日 23:40 | TrackBack (0)