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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2007年06月24日

劇団東京ミルクホール『ビンタン・スラバヤ~それいけ!星の演劇隊』06/20-24シアターVアカサカ

 劇団東京ミルクホールは佐野崇匡さんが作・演出される劇団です。旗揚げから4年目の第9回公演。私は初見です。

 男の子たちが何度も衣裳を着替えて、元気に踊るレビューがいっぱい。前説で観客を前方の席に移動させたり、上演中に大胆な客いじりがあったり、勇気あるな~と思いました。
 2時間30分休憩なしは長すぎます・・・。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ビンタン・スラバヤ

 ≪あらすじ≫ CoRich舞台芸術!より
 1942年3月、インドネシアのオランダ軍は日本軍に無条件降伏。オランダによる300年に及ぶインドネシア支配はここに終わりを告げた。
 インドネシアの人々は日本をオランダからの“解放者”とみなし熱烈に歓迎する。しかし日本もオランダ同様、植民地支配を目論む“征服者”であった。
 さぁて、困った! 困った! 支配するにはアメとムチ。強い軍隊みせつけたけど、日本が誇れる【文化】とは?
 ワビ? サビ? ギンザ? ナニワブシ? フジヤマ? モンペ? こりゃダメだ。ハリウッド映画で豊かな西洋文明を知っているインドネシア人には通用しない。
 どうする! どうする!
 それじゃあ、お芝居、演劇だ。歌に踊りにコントまで! 楽しいショーが始まれば、戦意昂揚、ニッポンバンザイ、キモノ、サムライ、隣組、なんでもかんでもゴチャ混ぜだ! その名も劇団「ビンタン・スラバヤ」(スラバヤの星)…それは希望の星…星の演劇隊!!
 かつて日本軍政・宣撫工作として、インドネシア人を集め旗揚げされ一世を風靡した劇団が存在した。その足跡を追った作家・猪俣良樹氏のノンフィクション『日本占領下・インドネシア旅芸人の記録』(めこん刊)をもとに描かれた話題作。
 2007年最初の劇団東京ミルクホール本公演は、<ゲイリー・キャバレスク・実録青春ロード演劇讃歌宣撫工作・ヒストリア>
 乞う御期待!!
 ≪ここまで≫

 猪俣良樹 著「日本占領下・インドネシア旅芸人の記録」を元にしたお話でした。猪俣さんとお話をして上演許可を取ったそうで、本に書かれていたのであろう主張は盛り込まれていたと思います。でも創作部分が大量にありましたので(笑)、果たして本の中身が伝わったかというと疑問です。でもそんなことは重要ではなかったのでしょうね。劇団東京ミルクホールの狙いはあくまでもエンタメですよね。

 日本の文化(の素晴らしさ)をインドネシア人に伝えるために、占領軍(日本軍)は現地人を集めて劇団を編成します。その劇団のお話なんですが、とりあえずボケてツッこんで、脱いで着替えて、踊って歌って、盛りだくさん。ストーリーははちゃめちゃで、全体の印象はテレビのバラエティ番組でよく見るオフィスもの、家族ものなどのコントに似た感じでした。私には楽しめませんでした。

 作・演出の佐野崇匡さんは長い客いじりも巧くこなして、ツっこみもお上手で、とても愛嬌のある器用な方だと思いました。でも他の出演者の中にはやりこなせていない方もいらっしゃいました。だから佐野さんの脚本は、“佐野さんだったら出来ること”が書かれているのではないかと思いました。

 柳生タカシさんの歌は声がとてもきれいでした。本当に女の子みたいな高い声ですね。ギターの弾き語りもされていました。
 日本舞踊シーンはちらりと花吹雪もあり、踊りもきれいでした。
 装置が貧相でした。例えば豆電球がつながった照明のコードの処理とか、もっと丁寧にしていただきたいですね。 

 ここからネタバレします。

 男闘呼組『DAY BREAK』、『とんちんかんちん一休さん』、『宇宙刑事ギャバン』という選曲は可愛かったですね。でも『一休さん』は振付的にも意味的にもいらなかったような。
 男性の生着替えって、私の目には嬉しくないですし笑えません。着替えタイムが必要なのはわかります。できればもっと他の演出で時間を作ってもらいたいですね。

 最後は傘の骨に金のモールを巻いたものを小道具に、タキシード姿で擬似カーテンコール。宝塚のパロディ※ですね。これも劇中劇の演出になるという凝った仕掛けでしたが、盛り込みすぎでしょう。そして2時間30分もの時間を拘束しているのに、さらに本物のカーテンコールでは出演者全員の紹介と告知などなどが続きました。
 ※宝塚のパロディーではなく国際劇場・SKD(Wikipedia)のパロディーだそうです。主催者よりご連絡をいただきました(2007/07/18加筆)。

 佐野さんが「旗揚げの時の劇場さんに『君たちは何がやりたいのかわからない』と言われました。今もまだわからない感じだと思います(笑)」というようなことをおっしゃいました。「自分が面白いと信じることを、とにかくやる」という、ただただ真っ直ぐに邁進する時期なのかもしれません。でも、「もしかしたら、これは面白くないのかもしれない」という疑いを持った時に、次のステージが始まるのではないでしょうか。

出演=哀原友則、北村直也、コースケ・ハラスメント、佐野崇匡、J.K.Goodman、浜本ゆたか、ヤギー蟇油、柳生タカシ、吉田十弾(五十音順)
作・演出=佐野崇匡 舞台監督=赤坂有紀子 高橋京子 照明=贅川明洋 音響=眞澤則子(s/SYSTEM) 別所ちふゆ(s/SYSTEM) 日舞振付=橘左梗 洋舞振付=NORIMITSU 殺陣=大山マスカク バリ舞踊振付=8ビート兄弟 ヘアメイク=山本由美子 舞監助手=伊藤智史 スチール=辺見真也 テーマ曲演奏=衛藤幸生 櫛野啓介 オープニング映像=永山始 宣伝美術・劇中画=平凡パイン 前説=本橋内閣 制作=遠藤理子(p/SYSTEM) 東京ミルクホール 題材=猪俣良樹 著「日本占領下・インドネシア旅芸人の記録」(めこん刊)
【発売日】2007/05/01 前売3,000円/当日3,500円(日時指定・全席自由・整理番号付
http://tokyomilkhall.com/

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Posted by shinobu at 22:36 | TrackBack

青年座『悔しい女』06/16-24紀伊國屋ホール

 2001年に高畑淳子さん主演で上演された、土田英生さん脚本、宮田慶子さん演出作品の再演です。主役の那須佐代子さんほか、キャストは一新されています。

 千秋楽に滑り込みました。初演も面白かったですが、今回の方が「悔しい」意味がよくわかって面白かったです。上演時間は約2時間20分(10分の休憩を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『悔しい女

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 日本のどこか…のどかな田舎
 あるのは動物園を持つエネルギー研究所(通称エネ研)と
 「おやじゼミ」が棲息するという森 そんな地方の町の喫茶店
 近所に住む絵本作家高田悟はその店に足繁く通う一人
 そんな彼のもとへ、美人で明るい笠原優子が嫁いでくる
 「お互いこれで最後にしよう」
 高田二度目、優子四度目の結婚生活が始まる
 誰にもある普通の生活
 夫と妻、店に集う顔見知りの人たちとの他愛の無いおしゃべり、昔ばなしに噂ばなし
 しかしそこに見え隠れする虚実のないまぜの会話に、反応し、突き詰めていく優子
 不倫の匂い、エネ研、「おやじゼミ」……
 ちょっとした言葉の食い違いに、高田と優子の間に小波がたつ
 やがてそれは喫茶店に集う人たちをも巻き込んで波紋を拡げていく
 ≪ここまで≫ 

 笑いがいっぱい生まれて、ほがらかなムードの客席でした。
 土田さんのブログにもありますが、まさに「アンサンブルを大事に」された演出だったと思います。特に高田(小林正寛)と優子(那須佐代子)は、役柄の人物として舞台の上でコミュニケーションを取ろうとしていました。だから「ヘンな」セリフを「ヘンだ」とわかって言うような、ネタを披露しあうような演技をするのではなく、その人物が心からそう思って言葉を発している状態を作っていました。これが素晴らしかったと思います。

 場面転換の時に流れる音楽が合ってないような気がしました。スピーカーや座席の位置で聞こえ方も違ったのかも知れませが、上から降って来る雰囲気良さげな曲は、舞台でちゃんと心を通じ合わせて自然な演技をしている人たちとは、全く別の世界で鳴っている音のように聞こえました。

 ここからネタバレします。

 「優子(那須佐代子)は、まさに私自身だよっ」と何度か感じました。だから胸が痛かった・・・(汗)。どうして浮気の心配をするのか、なぜそれを夫本人に確かめようとするのか・・・それはまず、自信の無さが発端になっているのだと思います。自信がない人間は誰かに認められたい、好かれたいという気持ちが強く、何かにつけ滅私奉公してしまうことが多いんですよね。この“滅私”というのが、悪循環の最初のマイナスの一歩のような気がします。
 「こんなに尽くしてるんだから、好かれて当然だ」と思っていたのに、実はそれほど役に立っていなかったとわかると、必要以上にがっかりしてしまいます。そのがっかりが失望、絶望、そして嫉妬、うらみなどに進化してしまうからやっかいなのです。次には八つ当たりが始まります。

 高田が書いた『寂しいライオン』という絵本にも出てきましたが(あらすじ:森でレストランを開店したライオンは、他の動物達に怖がられないようにキバを抜いたり、爪をはがしたりした。そして自分が何者なのかわからなくなった。)、優子も自分に自信がないから他人に好かれたいという思いが強すぎるんですね。だから誰かのために身を粉にして尽くします(例:町が有名になるように幻のセミを発見しようとする)。それが認められなかったり感謝されなかったりすると、ショックを受けるんですよね。そして自暴自棄な行動に出てしまいます。本人はあくまでも「あなたのために」「みんなのために」と思っているから、ずっとすれ違ってしまいます。

 優子が2回ほど「悔しい、悔しいぃ~」と本気で悔しがるシーンがありました。その気持ちがよくわかりました。いつも誰かに求められたいと思っているから、ほんのささいな社交辞令も真に受けて、それを実行し続けてしまうんです(例:毎日パンダのぬいぐるみを幼稚園の先生に見せに行った)。本人にとっては「あなたが言ったとおりに、私は行動しただけなのに、なぜ嫌われるの?悔しい!」と、なります。初演ではなぜ「悔しい女」なのかがわからなかったんですよね。今回はすっきりしました。

 幻のセミは発見されるし、互いにモーションかけあってた男女は不倫に走るし、高田は東京の出版社で本を出せるようになるし、実はすべてが優子の言ったとおりになるという、皮肉な結末が用意されていました。さすがは土田さんだな~と思いました。

青年座第189回公演
出演=那須佐代子/小林正寛/五十嵐明/若林久弥/遠藤好/片岡富枝/森脇由紀/田中耕二/川上英四郎
作=土田英生 演出=宮田慶子 装置=島次郎 照明=中川隆一 音響=高橋巖 衣裳=加納豊美 舞台監督=安藤太一 製作=森正敏
【発売日】2007/04/24[全席指定] 一般5,000円 ゴールデンシート(65歳以上)4,000円 ユニバシート(大学・各種学校生)3,500円 チェリーシート(高校生以下)2,500円  ※一般以外は劇団扱いのみ
http://www.seinenza.com/performance/public/189.html

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Posted by shinobu at 21:44 | TrackBack