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2008年02月12日

【写真レポート】東京ノーヴイ・レパートリーシアター「レオニード・アニシモフの俳優の為のマスタークラスvol.2」2007年10/16、11/06東京ノーヴイ・レパートリーシアター劇場

 昨年秋のことなのですが、東京ノーヴイ・レパートリーシアターの芸術監督レオニード・アニシモフさんのワークショップを見学させていただきました。※東京ノーヴイ・レパートリーシアターに関するレビュー⇒

 2008年4月にも「俳優の為のマスタークラスvol.3」が開催されます。ご興味ある方は公式サイトからお問い合わせ下さい。

 エコー劇場で2/2(土)に上演された『曽根崎心中』はとても好評で、都内のある演劇観賞会での上演が決まったそうです。

■マスタークラス第2クール初日の約3時間は、ほぼ全て座学(講義)でした。スタニスラフスキー・システム(ロシアの演出家スタニスラフスキーが提唱した演技理論の名称)についての怒涛の情報量に圧倒されました(写真はすべて10/16のものです)。
 このレポートでは導入部だけご紹介したいと思います。「(かぎかっこ内)」はすべてアニシモフさんの言葉です。会場風景↓
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★スタニスラフスキー・システムは潜在意識への道を開く方法論

 「全てのクリエイティブ(創造的)な活動は人間の潜在意識から生まれたものです。自分の知性だけで創造ができれば問題ないのですが、創造とは超意識と潜在意識が働いたものだと、既に科学的、学術的に実証されています。」

 「人の意識の範囲を100%とすると、有意識は10%、無意識(超意識)は90%の割合であるという研究結果が出ています。意識的にできる行動は意識全体の10%でしかないのです。たとえば内臓が勝手に動いているのも、夢を見るのも、人間としての安全性(反射など)も、自然治癒力も直感も予感も、潜在意識の範囲です。」

 「舞台の上で意識的に動いても、観客に自分の10%の力しか見せていないのが実情ですから、観客は面白くない。不満で当然ですよね。人間の能力については、もっといろんなものを要求できるのです。芸術の本質である創造活動のために、潜在意識が自然に、意識的に開かれるようにすることが大切です。」

 「潜在意識でもっとも重要なのは感情です。俳優も感情が一番大切です。生きた感情が出てくると、人間にとても大きな影響を及ぼします。唐突に誰かを『愛せ!』と言っても無理なように、意識的に感情を出すのは不可能です。だから舞台の上で感情が出てくる道を知らなければなりません。そのためには舞台の上でリアルに考えることが出来ないとだめです。おわかりのように、それは簡単なことではないのですが(笑)。」

 「スタニスラフスキーは、(創造活動に)重要なのは内面の動き、心の動きであると言いました。人間の感情とはいわばエネルギーの動きです。心が動き出すような道を知らなければならない。それを研究したのがスタニスラフスキー・システムです。発明ではなく45年近く重ねた研究結果です。スタニスラフスキーは自分の感情をうまく導き出す創造活動の法則を見つけたのです。」
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↑通訳の上世博及さんとアニシモフさん。上世さんの通訳はものすごく丁寧でわかりやすいです。

★3つの重要な法則

 「スタニスラフスキー・システムは法則(ルール)ですから、道路交通法のように守らなければならないものです。3つだけ重要なものを挙げますと↓
【1】行動の法則
【2】真実の法則(スタニスラフスキーが言うところの「もしも~だったらの法則」)
【3】交流(コミュニケーション)の法則
 これらは常にトレーニングを重ねることが必要です。」

 そして3つの法則について具体的な講義が始まりました。すごく論理的で納得できることばかり!

 「俳優にとって一番大切なのはイマジネーション(想像力)です。スタニスラフスキー・システムの具体的な目的は、俳優が自分のイマジネーションを使って戯曲の中で生きられるようにすることです。」

 「俳優が実際に考えて、実際に感じ取ることが大切です。人間は考えもせず、感じていなければ、生きていません。考えがなければ感情が生まれません。
 この場合の“感情”にはemotion(感傷的な状態など)は含まれません。emotionとは反射です。つまり考えなくでも体が反応することを指します。俳優的なemotionは危険です。スタニスラフスキーはそれを“体の震え”と呼びました。わざと盛り上げようとして生まれるemotionは、エネルギーが小さいし作用を起こしません。」

 「結局のところスタニスラフスキー・システムは、交流するためのメソッドであり、交流そのものこそ芸術なのです。これらは実践の中で体でわかっていけば良いものです。」

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即興劇

■写真は参加者(左)とアニシモフさん。「かもめ」のトレープレフとソーリンとして即興劇を披露されました。披露というよりも突然始まった感じでしたね。アニシモフさんはソーリン役で、トレープレフ役の参加者のことを自分の息子だと思って演じていたそうです。「もしも私がソーリンで、トレープレフ(息子)を目の前にしていたら」と考えたんですね(戯曲での関係は父子ではありませんが)。とても生々しくてスリリングな対話を見せていただきました。

■11/6にもう一度お邪魔して、実践の場も見学させていただいたところ、なるほど、百聞は一見にしかず!「やってみるとわかる」というのはこのことだと思いました。私は実践されるのを拝見しただけですが、参加された役者さんは実感を持って理解されたことと思います。

 色んな演出家および演技指導者の方々のワークショップを拝見してきてわかってきたのですが、指導者がどんな有名な演技手法を勉強されてきたかよりも、指導者自身の人柄や、実際に何を教えてくれるのかが重要(決め手)です。

 スタニスラフスキー・システムと言っても、教える人によって内容は変わってきます。何かしらの確立された演技手法を学びたいと思っている俳優の皆さんは、ブランド名に惑わされずに、信用できる方に相談したり、自分で体験してみたりして、自分が信じる道への手助けをしてくれる方を見極めていただきたいです。好みもありますしね♪

 つくづく感じます。こういった演劇ワークショップが学校教育として行われて欲しい!って。アニシモフさんのスタニスラフスキー・システムについての講義には、人間が生きるために必要なこともたくさんあったように思います。

 「人に無理強いをさせるのは一番いけないこと。自分に無理強いすると潜在意識が閉じます。自然に創造的なプロセスに入らなければいけません。だから“やらなきゃいけない”という風に考えるのは不自然です。そこから緊張や恐怖心が出てきます。」

 「俳優は学者ではないのだから(理論の)全てを知る必要はありません。実践的に活動して人々の心を癒すような医者になりましょう。」

 「重要なのは、自分に嘘をつかないこと。自分は何のために何をやっているのかを、常に考えてください。」

 「皆さんは生きている。それだけで貴重です。生きてる人以上に美しいものはないからです。」

『ロシア功労芸術家レオニード・アニシモフの俳優の為のマスタークラス』《才能は限りなく開く! vol.2 》
※メモを取って、ある程度理解できたものを掲載しています。意訳もしています。
講師:レオニード・アニシモフ 通訳:上世博及
期間: 第2クール 2007年 10月16日(火)~ 11月10日(土) 全16回
各クール:毎火水金土 時間:18:30~22:00(3時間30分)
参加費(1クール)68,000円 全クール通し120,000円 見学1日:3,500円(定員5名・要予約)
http://www.tokyo-novyi.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年02月12日 16:48 | TrackBack (0)