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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年02月14日

HAMMER-FISH『パイドラの愛』02/08-14サイスタジオコモネAスタジオ

 サンプル松井周さんがサラ・ケインを演出。文学座+青年団自主企画交流シリーズの最後を飾る作品です。かっこいいチラシですよね~。千秋楽前日にやっとうかがえました。

 あぁーもぉお~~ーっ!あまりに感動してぼったぼったと涙をこぼしたり、必死で笑いをこらえたり(だって笑う人が少ないんだもん!)、タブーと自由が凝縮された恍惚の約1時間40分でした。ちょー凄いッス!!

 明日2/14(木)14:00の回が千秋楽です。気になってる方はぜひ小竹向原へ!そもそもサラ・ケインが苦手な人もいると思うし、内容はR20かR25だと思う!でもオススメ!!(笑)

 ※サンプルの2008年8月公演の「ワークショップオーディション」(4/5-6、4/12-13)の参加者募集中です。3月30日(日)24:00 〆切り。

 ⇒東京劇場に舞台写真!
 ⇒CoRich舞台芸術!『パイドラの愛
 レビューをアップしました(2008/02/19)。

 プロセニアムでしか観たことが無かったサイスタジオコモネAスタジオが豹変。アーティスティックな白い空間でした。鉄パイプで組まれたキャットウォークと階段が、無機質でちょっと残酷な印象。白い粉で汚された鏡(いわば壁全体)もかっこいい。

 ≪あらすじ≫
 シーシアス王に嫁いだパイドラ(上田桃子)は、先妻の放蕩息子ヒッポリュトス(反田孝幸)を愛してしまった。パイドラの実の娘ストローフィ(添田園子)が、母を静止しようとするが…。
 ≪ここまで≫

 あーもード変態!・・・で、サイコー(笑)。観終わった後、“悪”そのものとも言うべき行動を取り続けるヒッポリュトス像から、ミルトンの『失楽園』(のSatan)、『ファウスト』(能祖将夫さん脚本)、映画『時計じかけのオレンジ』などが頭に浮かびました。

 そして、先日観たばかりの『リハーサルルーム』にも共通する視点があるように思いました。松井さんがパンフレットに書かれている「これは僕にとって一番近いイメージでいうとコスプレだ。真面目に言ってコスプレである。それが僕にとっての「生」のイメージだ。そんな風に僕たちは生きているように思う。」にそのままつながっている気がしたんですよね。私達は衣裳と仮面をかぶって生きていると思います。

 文学座の役者さんがここまでヤル(笑)とは思わなかったです。普段(の文学座公演)なら絶対にやらないようなことをやってらっしゃるから。上田桃子さんと反田孝幸さんの演技に特に惹きつけられました。
 パイドラの方が娘のストローフィよりも若く見える配役が絶妙でした。おかげで親子とか母娘とかのありきたりな設定を軽く超えて、抽象的・観念的な世界に飛ぶことが容易になったと思います。

 ドイツの現代演劇を観ているような気分になる瞬間がありました。30代の演出家はブッ飛んでる!日本演劇界の未来は明るい!「明るい」は「ヤバイ」に置き換え可能!(笑)

 私は勝手に大絶賛ですが、人によっては吐き気をもよおすほどの嫌悪感を呼び起こすシーンがあったかもしれない、ということは書き添えておきますね。
 ただ、こちらのブログにもありますように、原作にはもっと際どい描写があるみたいですよ。私も内容をチラっと聞きましたが、確かにそのまま上演するのは難しいと思います。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 ゴミとスナック菓子の袋で満杯の猫足バスタブに身を沈める、デブのヒッポリュトス。悪徳の化身のような彼に渾身の愛を捧げるパイドラ。

 ヒッポリュトス「(あなたの発言も行動も)全く論理的じゃない。」
 パイドラ「愛とはそういうものよ。」

 パイドラ「どうして私を嫌うの?」
 ヒッポリュトス「あんたが自分を嫌ってるから。」

 純粋に人間らしい恋愛感情(奔放すぎではありますが)でヒッポリュトスを崇めるパイドラを、ヒッポリュトスはけんもほろろに侮辱し続けます。(とてもここには書けない)陵辱行為の後、ヒッポリュトスはパイドラに「僕のこと嫌いになった?」と3回ぐらい尋ねます。
 2回までは「バッカじゃないっ?!エラそうにイキがってても、やっぱり他人の顔色伺ってるんだ!」って思って笑ってたんですが(すみません、残酷な人間で)、3度目は「あ、この男、本気で(パイドラを)試しているんだな。命を張って生きているんだな」とわかりました。

 お互いに正真正銘の真剣勝負で思いを伝えようとしているのに、絶望的に通じ合えない2人。まるで1次元と4次元に住んでいるかのごとく、2人の関係は平行線にすらなれません。その極限のディスコミュニケーションが生み出す、むせ返るような緊張状態に感動して落涙。「私もきっとあの人とこんな関係だったんだ」とプライベートなことも思い出しました。

 パイドラは「ヒッポリュトスにレイプされた」と言い残して首吊り自殺をします。ヒッポリュトスはそれを知って、パイドラの愛を信じることにしました。たった1人でも自分を本当に愛した人に出会えたことで、ヒッポリュトスは自分の存在を肯定するようになります。それはまさに覚醒。ヒッポリュトスは逃亡するように勧めるパイドラの娘(ヒッポリュトスの義姉?)を振り切って、近親相姦とレイプを認めて捕まります。
 漫画『トーマの心臓』(Wikipedia)にも似てますよね。『トーマ・・・』は愛された少年(ユーリ)が前向きに生きることを選ぶので、この作品とは違うタイプのハッピーエンドですが。

 妻パイドラの訃報を受けて帰ってきたシーシアス(神野崇)は、茫然自失の様相でパイドラの遺体を見つめます。静かに思いつめた表情をしていたかと思ったら、自らラジカセでフランク・シナトラの「My Way」を流します。最初のメロディーで爆笑しちゃいました(笑)。
 ナルシスティックにMy Wayに浸って、悦に入った状態で自分で自分の体を痛めつけて(←マゾ)、顔を紅潮させ、無理やり自分を興奮状態へと高めていった末に、妻をレイプしたヒッポリュトスへの復讐を誓う言葉を吐きます。もーアホ過ぎてめちゃくちゃ笑えました。聖書蹴るし(笑)。

 ヒッポリュトスは司祭(斉藤祐一)に悔い改めるように説得されますが、もちろん全く聞く耳を持ちません。それどころか司祭を完全に打ち負かし(誘惑し)てしまいます。「謝れば許されるとわかっていて罪を犯すような人間を、神が許すはずがない」というヒッポリュトスの発言は痛快です。
 司祭とヒッポリュトスの背徳(って言葉がちょっと照れるけどぴったりな)シーンを、死後のパイドラが見つめている構図が面白いです。パイドラの勝利!って気がしました。
 それにしても、ヒッポリュトスが取り付けタイプの男性器を足からはくのを司祭が手伝っちゃうのって、笑っていいのかどうか微妙でムズムズしたな~。まあ私はたぶん笑うタイプの人間ですが(笑)。

 王家のスキャンダルに色めき燃え立つ群集が、ヒッポリュトスに狂喜乱舞しながらリンチを加えます。司祭とパイドラを演じた役者が、呆けて熱狂する市民も演じているのが皮肉で良いですよね。
 シーシアスもそのバカ騒ぎ(祭り)に乗じて、ヒッポリュトスをかばう女をノリノリでレイプしてしまいます。でもそれは、自分の娘ストローフィでした。
 シーシアス「お前だと知っていたら私はこんなこと(レイプ)しなかった」
 よくもまぁぬけぬけと。残酷なシーンなのにあまりに情けなくて、笑えてしまいました。

 四角く広い空間に、ぽつんぽつんと存在する少人数の出演者。手のひらに乗るぐらい小さくて、ちゃちいティアラ。死体のように捨てられたテディ・ベア。舞台中央にわざと転がされた着脱式のニセ男性器。中途半端に肉襦袢を脱いで、異形のバケモノのようになったヒッポリュトス。

 リンチを受けてボロボロになって捨てられたヒッポリュトスが、少しずつ暗転していく中で、死を前にしてつぶやいた最後のセリフはこちら。
 「もっとこんな瞬間と出会えていたら」
 そして早い溶暗。シビれるっ!!

文学座+青年団自主企画交流シリーズ
出演:反田孝幸(文学座)/上田桃子(文学座)/添田園子(文学座)/仲俣雅章(青年団)/斉藤祐一(文学座)/神野崇(文学座)
作:サラ・ケイン 翻訳:添田園子(文学座) 演出:松井周(青年団/サンプル) 美術:杉山至+鴉屋 照明:西本彩 衣裳:小松陽佳留(une chrysantheme) 舞台監督:桜井秀峰 宣伝美術:京 制作:野村政之/Hammer-Fish 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 共催:文学座/青年団 協力:サイスタジオ 六尺堂
2500円(予約・当日共 / 日時指定・全席自由)
http://www.seinendan.org/jpn/bskoryu/phaedres_love.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年02月14日 00:09 | TrackBack (0)