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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年04月23日

文学座アトリエの会『ダウト~疑いをめぐる寓話~』04/12-22吉祥寺シアター

 文学座アトリエの会の作品は、演出が実験的だったり難解な戯曲を扱われることがあるので、私は好んでよく観に行きます。信濃町のアトリエが工事に入るそうで、しばらくは吉祥寺シアターで上演されるようです。

 ジャン・パトリック・シャンリィの戯曲目当てで、すっかり満足。ロビーで販売されていた戯曲本も買いました。上演時間は約1時間45分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ダウト~疑いをめぐる寓話~

 【一観客のわがままなつぶやき】
 新劇の老舗劇団の公演ではお約束というか、もう半分あきらめてはいるんですが、上演中のおしゃべりなどの騒音が多いんですよね。年配のお客様はなぜかそういうところに無頓着。今日は客席でお食事されている女性もいました。私はキャンディーの包み紙を開ける音が特に気になるタイプなんです。

 後ろの席の人に何度か注意の視線を送ったんですが、全然気づいてはくれず。「カチャカチャ、カチャカチャ」と、上演中にずーっと包み紙を触ってるんです。後半は私の左隣の人もキャンディーを取り出す始末(涙)。私と私の右隣の人は、後ろと横に何度か“不快ですメッセージ”を送ったんだけど伝わらないんですよね。そりゃそうだ、お芝居観てるんだしね(面白かったし)。

 そこで、わがままな提案を考えてみたんですけど・・・携帯電話の注意と一緒にキャンディーの包み紙を開ける行為についても、開演前にひとことお話してくれたら嬉しいです。劇場内は乾燥するので、キャンディーを舐めるのは仕方がないと思います(咳き込む可能性もありますし)。だけど包み紙を触られると音が鳴るので迷惑なんです。開演前に口に入れておいてもらうとか、音が鳴らない入れ物に入れて持ってきていただくとか、工夫をしていただきたいと思っています。
 【ここまで】

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。
  時は1964年。ニューヨークのブロンクス地区にあるカトリック系の教会学校セント・ニコラス・スクール。その校長のアロイシスは、生徒への様々な指導法を新人シスターのジェームスに熱心に語るのであった。話しは倫理的、宗教的で正当、校長の思いがよく伝わってくるのであるが、また一方では、一筋縄ではいかない彼女の頑固な一面も垣間見ることができた。
 ある日ジェームスは、アロイシス校長に、学校初の黒人の生徒ドナルドがフリン神父に二人きりで礼拝堂へと連れて行かれたことがあると話した。アロイシス校長の心の中に、ある「疑い」が生まれた。物語は、その「疑い」から始まるのである。
 ≪ここまで≫

 重厚な言葉をじっくり味わいながら、自分が生きる現実の世界のことを何度も振り返ることができました。でも堅苦しいばかりではなく、ユーモアもたっぷりで飽きさせません。4人芝居なんですが、たった4人だとは思えない厚みが感じられました。

 厳格なシスター・アロイシス校長役の寺田路恵さんが大迫力。ガチっと決まった演技がかっこよかったです。
 新人シスター・ジェームズ役の渋谷はるかさん。何度か拝見して素敵だなって思ってます。これからも観ていきたい女優さんですね。

 ※ここから少々ネタバレします。セリフは正確ではありません。作品の内容についてはあまり書いていません。

 「純粋であることは罪悪」等と断言されると、基本的に“純粋バンザイ”な私は少々戸惑いも感じました。でも大人になるというのは、そういうことだと思います。このお芝居はそのことを冷静に再考する機会になりました。

 私がごく身近な人々に対して深くて堅い、真っ黒な「疑い」を感じたのは、たぶん5~6年前。それまでは純朴バカに生きてきたと思います。それはそれで大層幸福な人生だったのでしょう。でも本当の疑いを胸に抱いた(と気づいた)瞬間から、世界は全く違う顔を見せるようになり、その時に初めて“恐ろしい、抜き差しならない、冷酷な現実”“永遠にはっきりとは姿を現さない真実”と向き合ったのだと思います。人間が堂々と自立して生きていくためには、その自覚が必要です。その意味でこの戯曲に描かれていたことには共感しました。

 アロイシス「悪を追い出すためには、神から一歩遠ざからなければならない。」

 シャンリィは「疑うこと」の必要性を説いているとも思いますが(戯曲本にもそのようなことが書かれています)、だったら、「疑うこと」をし始めたとして、その先はどうやって生きていけばいいのでしょうか。世界を疑い始めたら、シスター・ジェームズと同じように心の平穏と決別しなければならなくなります。それはつらいことです。

 現時点での私の結論は、これは最近の私の中の流行(いわゆるマイブーム・笑)なのですが、自分を信じて、自分が納得する生き方をすること。それしかない気がします。誰にも頼れないし、何が本当のなのかもわからないのだから、疑ったり絶望したりした後に残るのは自分自身だけなんじゃないでしょうか。もちろん、未熟で身勝手でとんでもなく情けない存在である自分を信じるには、勇気が必要ですし責任も伴います。それを引き受けて、一人で地上に立つことを目指して、毎日間違いながらも、生きていく・・・のかな、と。

 最近のニュースから↓
 桑田真澄「他人の評価や成績、お金ではなく自分の気持ちが大切だった。燃え尽きることができたのだから後悔はありません。」

出演:清水明彦、寺田路恵、渋谷はるか、山本道子
作:ジョン・パトリック・シャンリィ 翻訳:鈴木小百合・井澤眞知子 演出:望月純吉 作:ジョン・パトリック・シャンリィ 翻訳:鈴木小百合・井澤眞知子 演出:望月純吉 美術・衣裳:朝倉摂 照明:沢田祐二 音響効果:望月勲 舞台監督:寺田修 制作:伊藤正道 票券:最首志麻子 チラシ写真デザイン:田野倉義規 企画協力:初見正弘(On Time) 主催:文学座 財団法人 武蔵野文化事業団
【発売日】2008/03/10 前売・電話予約:4000円 当日:4300円 ユースチケット:2500円(25歳以下/取り扱い文学座のみ) アルテ友の会会員:3600円(武蔵野文化事業団のみ取扱。前売のみ)
http://www.bungakuza.com/doubt08/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年04月23日 00:49 | TrackBack (0)