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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年07月06日

パルコ『SISTERS』07/05-08/03パルコ劇場

 長塚圭史さんが作・演出し、松たか子さんと鈴木杏さんという人気女優2人が出演するパルコ劇場のプロデュース公演です。プレビュー初日に伺いました。上演時間は約2時間15分、休憩なし。

 密度が濃くて重みのある、大人向けのスリリングな会話劇でした。選び抜かれた言葉を味わいました。前知識ゼロで観るのをお勧めします。開演前はパルコ劇場の緞帳も閉じていますし、何もかも真っ白な状態でぜひ! 

 CoRich舞台技術!⇒『SISTERS

 ≪あらすじ≫
 うらぶれたホテル。若いカップルがいとこを訪ねてやってきた。
 ≪ここまで≫

 文学的だけど口語としても聞きやすい言葉たち。海外の翻訳戯曲のような味わいで、でももちろん日本語でしかあり得ない日本語です。セリフの重み、深みが耳の後ろから背筋へとズシっと響いてくるようで、「一言も聞きもらしたくない」と集中し続けた2時間強でした。

 登場人物のバックグラウンドが明かされていく、その情報の出し方が巧妙。じわじわと少しずつ、決して満足はさせない程度に観客にヒントを与えていく。そしてスイスイと予想を裏切って展開していきます。
 “長塚さんらしい”という表現では、今や何も言い表せない気がします。新しい作家に出会ったような気持ちになりました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 馨(松たか子)はイタリア料理の人気シェフである夫・信助(田中哲司)と結婚したばかり。2人はヨーロッパの新婚旅行の帰りに、信助のいとこ・優治(中村まこと)が経営する古いホテルに立ち寄った。ホテルのシェフだった優治の妻・操子が1カ月前に亡くなったため、優治は自分が料理を教えてもらおうと信助を呼び寄せたのだ。
 ホテルはなぜか暗いムード。というのも操子の死因は首吊り自殺で、客足も遠のいており、操子と仲が良かった清掃員の稔子(梅沢昌代)は、そのショックのせいで奇異な行動をよく起こしている。稔子は、そのホテルに十年以上住み着いている操子の弟・礼二(吉田鋼太郎)とその愛娘・美鳥(鈴木杏)のことが、特に気に入らないようだ。礼二は子供向けの冒険小説を書いている作家で、美鳥は並々ならぬ愛情を父に注いでおり、どうやら2人の間には何らかの秘密がありそうで・・・。

 ナイフがあんなにたくさん出てくるのに、誰もナイフでは死なないのがかっこいい。心理サスペンス・ホラーのような緊張感がずっと保たれるのは、そういったモチーフが行き過ぎない程度に散りばめられているからでしょう。抑制が効いたエロスもかっこいい。

 父親から性的虐待を受けている美鳥(しかも妊娠している)を、馨は自分自身と今は亡き妹・ナツキに重ねていました。心中した礼二と美鳥の抱き合った遺体に向かって「お父さん、なぜ(お父さんが選んだのは)私じゃなくてナツキなの?」と涙ながらに問いかける馨。迎えに来た信助が「帰ろう、我が家へ」という呼びかけに対して、馨が素直に(?)「はい」と返事をして終幕。これを希望と取るか絶望と取るのかは、きっと観客それぞれなんじゃないかしら。私は「全く先が見えないままだけど、出口がないわけじゃない」ぐらいに受け取ったかも。

 馨たちの部屋と美鳥たちの部屋を、1つの部屋で表現。2つの異なる空間が混ざるのは目新しい仕掛けではないですが、入れ替わったり重なったりする演出が洗練されていて、細かいところが気にならないんです。うまく誘導してもらえました。
 バスルームの壁が照明で透けて、白い洗濯物がパっと見えるのが幻想的で美しい。残酷な童話の挿絵のような。
 ひび割れた壁の裂け目から吹き出す水。水浸しの床。足首まで満ちて、浸水する部屋。壁に反射する水の波紋。抜け出せない沼みたい。すでに溺れているみたい。

 馨(マゾの性癖あり)と信助(ノーマル)の間のエロティックなムードが、もっと盛り上がっても良いんじゃないかと思いました。あ、それって私の個人的趣味?(笑) 弱弱しい松さんがセクシー。田中さんは“普通”で居るのがすごくうまいなと思いました。

 二人のヒロインの衣装がとっても素敵。松さんが黒、鈴木さんが赤で対比も美しい。ぺったんこの靴がかわいいです。

≪東京、北九州、新潟、大阪≫
出演:松たか子 鈴木杏 田中哲司 中村まこと 梅沢昌代 吉田鋼太郎 堂ノ脇恭子
脚本・演出:長塚圭史 美術:二村周作 照明:小川幾雄 衣裳:伊賀大介 ヘアメイク:河村陽子 音響:加藤温 アクション:川原正嗣・前田悟 演出助手:山田美紀 舞台監督:菅野将機 宣伝美術:有山達也 宣伝写真:久家靖秀 宣伝PR:る・ひまわり プロデューサー:佐藤玄 毛利美咲 制作協力:伊藤達哉 製作:山崎浩一 企画製作:株式会社パルコ
【発売日】2008/05/24 8,400円 (7/5, 6 プレビュー 7,500円)
http://www.parco-play.com/web/page/information/sisters/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年07月06日 00:27 | TrackBack (1)