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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年12月06日

燐光群『戦争と市民』11/21-12/07ザ・スズナリ

 坂手洋二さんが作・演出される燐光群の新作は、主演に渡辺美佐子さんを迎えた約2時間半(休憩なし)の大作です。でも、長いとは思いませんでした。

 観ている時も観た後(今)も、私自身の今の生活と関連づけて考え続けました。
 12/7(日)14時の回は前売り完売。当日券あり(立ち見の可能性あり)。

 ⇒劇評:朝日新聞毎日新聞読売新聞
 ⇒CoRich舞台芸術!『戦争と市民

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 第二次世界大戦のさい、空襲を受けた街に残っていた防空壕跡。土地開発のための工事の過程で、戦時中に崩れていたと思われていたその場所が発見されました。戦時中、そこで過ごしたことのある女性が、その防空壕跡に居着くようになります。彼女は自分自身の「使命」に目覚めます。その場所を拠点に、活動を始めようと決意します。彼女は次の市長選に出馬することを決めたのです。
 ≪ここまで≫

 私は、勝手に戦争とかけ離れた人生を送ってきました。どんなに戦争に関する映画やお芝居を観ても、「あぁ当時は大変だったんだな、戦争はいけないな」と他人事のように受け取り、あつかましい同情の涙を流していたと思います。でもここ数年でやっと、自分のことだと思えるようになってきました。

 そのように私が自分自身から部外者であったのは、私が受けたわが国の教育のメカニズムのせいなんじゃないかと、赤坂真理著「モテたい理由」を読んでからはっきりと考えるようになりました。子供は学校で教えてもらうことを始めから嘘だとは疑いません。何らかのきっかけがなければ、その洗脳に気づくことは難しいと思います。
 例えば私の場合、『花よりタンゴ』(再演)を観た時にやっと、国に私有財産を取り上げられることが不当だと感じました。それまでは「みんなそうなんだから仕方ない」などとぼやかしていました。「みんな」という実は恐ろしい言葉については、多田淳之介さんの12/1のブログに丁寧に書かれています。

 「モテたい理由」にも書かれているように、私たちはまず先の戦争を知らなければ、今、私たちが実は関わらせられている戦争について考えられないし、日常で当たり前のように享受していることの本当の意味が、ずっとわからないままだと思います。この作品の主人公ヒサコ(渡辺美佐子)が自分が取って食べる鯨のことを考えたように、私たち個人々々が目の前にある食べ物のことを考えなければ。

 タイトル中の『市民』とは私たち一人ひとりのことで、個人が自分の力に気づき、行動を始める姿が描かれていました。永井愛さん、野田秀樹さんが出演されたシンポジウム「殺人社会と演劇」でも、個人の文化力を養うことが、幸せな人生をつかむ方法ではないかと提案されていました(永井さんの発言より)。

 “余剰”がもたらす傲慢とそれが生む悲劇について、はっきりと理解することができました。住みたい街に住み、食べたいものを食べ、したいことをして、好きな人と暮らす。でも身の丈にあった範囲で。これはアニメ映画『河童のクゥと夏休み』のメッセージでもあったと思います。
 言葉巧みにルールを変えることで、事実がどんどんゆがめられ、金がどこかに流れていく。スポーツのルールみたいだと思いました。

 カットアウトの暗転と大音量の音楽がスピード感を増してくれて、長い上演時間もリズムに乗って拝見することが出来ました。大量の情報を浴びるように頭に入れながら、舞台で起こることがまとまって私と同化していくように感じ、圧倒されました。

 ここからネタバレします。

 舞台は黒い木造の防空壕。捕鯨船の形もしています。私も同じ船に乗っているのだと思いました。

 冒頭、ヒサコとその妹(田岡美也子)、漁師(田岡美也子)の3人は、発見された防空壕におそるおそる入っていきます。ヒサコが防空頭巾にもんぺ姿の少女(=昔の自分)と出会ったところで、心をわしづかみにされました。実際に防空壕で空襲の夜を過ごした経験のある渡辺さんが、当時の彼女に出会ったとも受け取りましたので、まさに63年の月日がぎゅっと縮まり、重なりました。

 1945年3月の東京大空襲の様子を、大勢の役者さんが全身で表現してくださって、舞台ならではの臨場感と迫力がありました。つらかった。

 チラシに書かれていることでもありますが、人間は「殺されることを拒否する権利」を有しており、それを主張することは恥ずかしくないし、むしろ堂々と主張していいんだなと思いました。

≪東京、宮城、岩手、愛知、福岡、兵庫≫
出演:渡辺美佐子 田岡美也子 児玉泰次 吉村直 河野しずか 佐古真弓 中山マリ 鴨川てんし 川中健次郎 猪熊恒和 大西孝洋 樋尾麻衣子 杉山英之 小金井篤 安仁屋美峰 阿諏訪麻子 伊勢谷能宣 いずかしゆうすけ 秋葉ヨリエ 桐畑理佳 西川大輔 吉成淳一 武山尚史 鈴木陽介
脚本・演出:坂手洋二 美術:加藤ちか 照明:竹林功(龍前正夫舞台照明研究所) 音響:島猛(ステージオフィス) 衣裳:小原敏博 音楽協力:PANTA 舞台監督:森下紀彦 演出助手:城田美樹 進行助手:清水弥生 文芸助手:久保志乃ぶ 題字・イラスト:石坂啓 宣伝意匠:高崎勝也 制作:古元道広・近藤順子
【発売日】2008/10/11 全席指定 前売3,600円 ペア6,600円(前売・予約のみ) 当日4,000円 大学・専門学校生3,000円 高校生以下2,000円 (学生券は前売・当日共通料金 劇団扱いのみ 要学生証提示)
http://www.alles.or.jp/~rinkogun/sensoutoshimin.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年12月06日 01:16 | TrackBack (0)