2008年10月12日
青山円劇カウンシル#2 ~Relation~ONEOR8プロデュース『思い出トランプ』10/10-19青山円形劇場
故・向田邦子の短編小説集『思い出トランプ』を、ONEOR8の田村孝裕さんが1つの物語へと脚本化し、演出されます。主演はデビュー10周年を迎えて今回初舞台を踏む田中麗奈さん。
上演時間は約1時間50分。カーテンコールが2回。観客の私も勝手に心温まってしまった、良い初日でした。
⇒田中麗奈さんにインタビューさせていただきました。
⇒原作本のご紹介
⇒CoRich舞台芸術!『思い出トランプ』
≪あらすじ≫
英子(田中麗奈)は6歳の息子をもつ主婦。姑(根岸季衣)と夫(野本光一郎)と子供との4人暮らしだが、ある事故をきっかけに実家へと帰ることになる。実家では、急な病気で弱気になっている父(山口良一)と、今も昔も変わらずマイペースで元気な母(阿知波悟美)が暮らしており、英子の姉(和田ひろこ)がよく出入りしている。家族ぐるみで付き合いのある今里夫妻(八十田勇一&宮地雅子)の間には、近ごろすきま風が吹いているらしい。
≪ここまで≫
円形劇場の中央部分と、客席のおよそ4分の1が舞台として使用されていました(形としては前方後円墳のような)。主な演技スペースはたたみの部屋、台所、洋間の3つ。その中央にすべてをつなぐ廊下があり、周囲には家の縁側と庭があります。壁や戸は枠だけで透けていますので、見通しがとても良いです。
『思い出トランプ』の中から「大根の月」「だらだら坂」「花の名前」「かわうそ」の4作品が主に取り上げられているそうです(Weeklyぴあ10/16号より)。よくもこんなに上手く組み合わさったものだと感心しきり。微笑ましいギャグも挟みつつ、たわいない日常会話から人々の心の揺れを丁寧に描きます。装置のトリックに驚かされたり、じっくり考える時間も持てました。充実の観劇でした。
原作を読んだ時の第一の感想が「この本は・・・怖いっ!」だったので(笑)、もっと怖くてもいいんじゃないかと思うシーンがチラホラありました。例えばもっと怒る演技があってもいいんじゃないか、とか。個人的な感覚ですけどね。
ここからネタバレします。
冒頭から驚かされました。まさか英子の息子・健太(恩田隆一)が登場するとは思ってもみませんでしたから。健太は無事に大人になり(人差し指の先はありませんが)、妻(冨田直美)もいます。祖母(つまり英子の姑)の通夜から始まり、健太の回想として「大根の月」のエピソード(英子の話)が始まったのは、非常にスムーズな導入でした。“昭和の昔話”というパッケージを外側から楽しむのではなく、観客は現在の視点のままで物語に入り込んで味わうことができました。30歳の健太が6歳の健太を演じるのも効果的でした。
異なるエピソードで場所を共有する演出は、舞台ならではの楽しみです。ひとつの部屋が、使う人によって違う空間になります。別のシーンに出ているはずの役者さんが、廊下で自然にすれ違うのはスリリング。姑同士がたたみの居間でにらみ合うシーンは、英子の嫁ぎ先なのか実家なのかがしばらくわからなくて、どきどきしました(衣装をよく見たらわかりました)。
英子の母が手土産の芋ようかん(ですよね?)を、渡さずに持ち帰ってしまったのには笑いました。
登場人物全員が舞台に同時に出て、音楽に合わせて演技をしながら歩き回るシーンは良いアクセントになりました。バラバラと動き回っていた人々が突然静止し、一人ずつにスポットライトが当たるのもリズミカル。群像劇として観る準備もできました。
主役の英子を演じられた田中麗奈さんは、そこに本当に存在することを大事にされているように感じました。小さな背中から怒りや悲しみが伝わってきたのが良かったです。
今里の妻(宮地雅子)がすごくセクシー!宮地さんのエレガントな大人の色香は、舞台では初めて拝見したかも。
今里の愛人つわ子(中島愛子)が着ていた、だらりと無防備に胸元が開いたV襟のニットには、泥臭さ漂うエロスがあり、つわ子が暴れる度に可笑しいやら悲しいやら。
ラストは現在の通夜のシーンでした。昼の(大根の)月は空に浮かんでおり、英子は「一番大切で、一番おぞましい」健太のもとに戻ったという、オリジナルの結末になっていました。健太が「子供を作ろうと思う」という決意をしたことで、時代は変わっても“家族(血族)”は未来へと続いていくという、時間の広がりを感じられました。
出演:田中麗奈 根岸季衣 八十田勇一 宮地雅子 弘中麻紀 中島愛子 野本光一郎 恩田隆一 和田ひろこ 冨田直美 阿知波悟美 山口良一
原作:向田邦子(新潮社刊) 脚本・演出:田村孝裕(ONEOR8) 舞台美術:香坂奈奈 音響:今西工 照明:伊藤孝(ART CORE design)衣裳:遠藤百合子 ヘアメイク:山本成栄 舞台監督:村岡晋 演出助手:城野健 照明操作:西山真由美 音響操作:飯嶋智 演出部:高嶋伶奈(らくだエ務店) 伊藤俊輔(ONEOR8) 熊木進 衣裳部:福田千亜紀 大道具製作:夢工房 小道具:高津映画装飾 美術協力:C-COM舞台装置 J.Flower Market 植吉 運搬:帯瀬運送 宣伝美術:美香(Pri-graphics) 宣伝美術協力:檜本マリコ 印刷:多田印刷 舞台写真:山本圭二 制作助手:斉藤友紀子 制作補:安元千恵 制作:岡本愛子 プロデューサ一:高田雅士 椎名浩子 エグゼクティププロデューサー:志茂聰明 松田誠 特別協力:向田和子 企画協力:Bunko 企画・制作:ONEOR8 主催:こどもの城青山円形劇場 ネルケプランニング
【発売日】2008/09/13 前売5,500円、当日6,000円(全席指定・税込)
http://www.oneor8.com
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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東宝『私生活~Private Lives~』10/03-31シアタークリエ
内野聖陽さん、寺島しのぶさんらによる4人芝居。1930年代の戯曲なんですね。華やかなスターの競演を、休日の日比谷でのんびり楽しみました。上演時間は約2時間45分(途中20分の休憩を含む)。
※最近だと2006年に『プライベート・ライヴズ』というタイトルでパルコ劇場で上演されていますね。私は残念ながら観られず。
⇒CoRich舞台芸術!『私生活』
≪あらすじ≫
エリオット(内野聖陽)は年下の妻シビル(中嶋朋子)とフランスの避暑地・ドーヴィルに新婚旅行に出かけた。リゾート・ホテルの隣りの部屋にいたのはなんと、エリオットの前妻アマンダ(寺島しのぶ)。アマンダもまた新しい夫ビクター(橋本じゅん)との新婚旅行中だったのだ。
≪あらすじ≫
酸いも甘いも知り尽くしたはずの大人の男女が、またもや恋愛に振り回されるコメディー。大ゲンカをしたかと思ったら、すぐに甘いキスを交わす愛らしい男女を見て、人の感情はほんの一瞬間で変化するものだな~と再確認。自分も上手に気持ちをコントロールしたいなと思いました。恋心を無くすなどは無理でも、なんとなくふさいだ気持ちを明るくすることはできるんじゃないかしら。
衣裳が美しかった~・・・・着こなしも見事で、特に女優2人のドレス姿にはうっとりです。
客席数600の大きな劇場ですが、舞台上に2人っきりのシーンでも全然広く感じませんでした。
ここからネタバレします。
エリオットとアマンダは出会った途端に愛を再燃させて逃亡。2人はアマンダが持つパリのアパルトマンにしけこみます。ホテルのバルコニーからシックな内装のアパルトマンへと装置が変わるのは、高価なお芝居ならではで嬉しい。
エリオットとアマンダはケンカになるのを避けるために、「クリストファー・コロンブス(省略するとクリーブス)」という合言葉を言えば2分間沈黙するというルールを作ります。その休戦の間にコロっと気持が変わるのです。歌や音楽の効果も絶大(クリーブスを何度も繰り返すと効果がなくなってくるのですが・・・)。
内野聖陽さんと寺島しのぶさんのデュエットは、お2人の個性があまりにはっきりと鮮やかなので溶け合わず(笑)、それはそれで非常に聴きごたえがありました。息が合っていても歌声は共鳴しない。これはエリオットとアマンダの関係とも重なるような・・・ってこじつけ過ぎかしら(笑)。
アパルトマンで鉢合わせした4人は、コーヒーを飲んで当たり障りのない話をしようとしますが、結局は大ゲンカに。でもエリオットとアマンダではなく、ビクターとシビルがののしり合いを始めるのです。最後はエリオットとアマンダが部屋から抜け出し、ビクターとシビルが熱いキスをして終幕・・・なんてこった(笑)。そうなるだろうとは予想していましたが、実際に熱演(ケンカ&キス)するお2人を見て、じんわりと暖かい気持ちになりました。
アマンダが終盤に着ていた白いスーツとファー付きコート(襟、袖、裾に毛皮が豪華に付いている)が素晴らしかったです。
たぶんエリオットが30歳、シビラが23歳、ビクターが35歳だったかな。アマンダはそうなると28歳ぐらいかしら。
出演:内野聖陽 寺島しのぶ 中嶋朋子 橋本じゅん 中澤聖子(アマンダのアパルトマンの召使ルイーズ役)
脚本:ノエル・カワード 演出:ジョン・ケアード 翻訳:松岡和子 美術:二村周作 照明:中川隆一 音響:本間俊哉 衣裳:小峰リリー ヘアメイク :宮内宏明 ファイティング:渥美博 演出助手:鈴木ひがし 舞台監督:八須賀俊恵 通訳:鈴木なお 製作助手:竹岸実夏 プロデューサー:小林香 スーパーヴァイザー:田口豪孝
【発売日】2008/07/12 10,500円 ※未就学児の入場不可
http://www.tohostage.com/private/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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