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しのぶの演劇レビュー
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2009年05月08日

こまつ座・ホリプロ『きらめく星座 ~昭和オデオン堂物語~』05/06-24天王洲 銀河劇場

 何度も再演されている井上ひさしさんの戯曲を、栗山民也さんが演出されます(⇒関連レビュー)。
 “井上&栗山”という作・演出のペアはこまつ座でも新国立劇場でもお馴染みですが、『きらめく星座 』については、栗山さんは初演出になるんですね。最初は井上ひさしさん、次は木村光一さんが演出されていたそうです。

 前半は全体的に元気がなさそうな雰囲気でしたが、後半にぐっと盛り上がって、名ゼリフに身を浸しました。やっぱりハンカチなしには観られません。上演時間は約3時間5分(途中休憩15分を含む)。

きらめく星座―昭和オデオン堂物語
井上 ひさし
集英社
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 ⇒CoRich舞台芸術!『きらめく星座

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 昭和15年の浅草。小さな小さなレコード店に、4人の家族(愛華みれ&久保酎吉&阿部力&前田亜季)と、2人の間借人(木場勝己&後藤浩明)が仲良く暮らしていた。しかしこの平和なオデオン堂に大事件が起こる。  
 陸軍に入隊していた長男の正一(阿部力)が、脱走したというのだ。「敵前逃亡」は重罰。すぐさま追手がかかって、憲兵伍長「蝮の権藤」(八十田勇一)がオデオン堂に乗り込んできた。  
 さらにもう1人、堅物の愛国主義者が家族に加わる。長女みさを(前田亜季)が「ハガキの束から選んだ」夫、源次郎(相島一之)。この家の住人たちのジャズがかった音楽好きが、傷痍軍人の源次郎にはどうしても許しがたい。 
 こうしてオデオン堂には、ときならぬ大嵐がふきあれることとなる。
 ≪ここまで≫

 前半はいつものこまつ座っぽくないような、どことなくよそよそしい感じがして入り込みにくかったのですが、傷痍軍人・源次郎役の相島一之さんが登場してからは、スっといつもの晴れやかな、素直な気持ちになって鑑賞できました。相島さんの演技は怪演ともいえるような迫力があり(笑)、コミカルでありながら感情の変化も細やかに表現されていて、いつも目を奪われました。

 昭和15年(1940年)から翌16年のお話ですので、日本の戦況は悪くなる一方。オデオン堂に暮らす人々の生活もますます厳しくなっていきます。そんな中でも感謝を忘れず、皆で歌って、笑って、前向きな気持ちで生きていく姿は、微笑ましいと同時にうらやましくもありました。家族の誰もが知ってるヒット曲なんて、今の日本にはないですしね。
 でも、元気で明るいコメディーの裏には、不穏な空気や恐怖の真っ暗闇が常に忍んでおり、その表裏は頻繁に入れ替わって、観客を戦慄させます。戦争の当事者であった登場人物のことを私自身に置き換えて、一緒に楽しんで、怒って、恐怖して観ることができました。

 舞台は畳の居間。中央にはちゃぶ台、ひもを引っ張って点灯させる電灯、ふすま、木製の勉強机とイスなど。昭和の日本家屋の装置は今もお芝居ではよくあるものですが、観る度に、懐かしさよりもめずらしさを強く感じている自分がいます。私が幼い頃は、まだご近所・親戚の家でもよく見たものですが、今の日常生活で全く目にしなくなったんですよね。
 祖母が数年前に亡くなって、我が家では軍歌を歌う人がいなくなりました。だからなのか、劇中に出てくる流行歌を聴く感覚も、私の中では変化していました。懐かしいのではなく、新曲を聴いているような気持ちだったんです。

 今が昔になり、現実が思い出になり、確かにそこにあったものの輪郭は、淡くぼやけて消えていくのですね。記憶の風化からは逃れられません。井上ひさしさんの演劇を観て、昔を思い出して自分の変化を自覚しながら、感じたままを新たに記憶していきたいと思います。

 お母さん役の愛華みれさんの、明るく大らかな母親像は新鮮でした。度胸があって太っ腹で魅力的でした。
 脱走兵となった長男役の阿部力さんのセリフが少々聞こえづらかったのは残念。きびきびと動かれるし、はつらつとしたさわやかな印象もあるので、もったいないなと思いました。

 ここからネタバレします。

 きらめく星空の中、ロマンティックに幕が開いたかと思うと、防毒マスクを被った人々がズラリ。ちょっと不気味なムードでお話は始まり、最後もまた、防毒マスクで終わりました。

 オデオン堂は国の政策で取り潰しになり、店舗・家屋ともに国に召し上げられてしまいます。一体なんの権利があってそんなことができるのか、今の感覚では全く理解不能ですが、それがまかり通ったのが戦時中の日本なんですよね。
 ※掲示板にご意見をいただきましたので、リンクを追加します。
  ⇒「防衛大臣が攻撃を予想しただけで土地や人、物の強制収用が可能」(Wikipedia「有事法制」より)
   つまり、今の日本でも起こり得るということです(2009/05/10)。

 小笠原夫妻(愛華みれ&久保酎吉)は妻の実家の長崎に行くことになり、源次郎(相島一之)は吹き飛んだ右手が痛むので再入院し、竹田(木場勝己)は大連へ渡り、最後は皆ちりじりになってしまいます。防毒マスクのエンディングは彼らの行く末を暗示しているのでしょう。恐ろしい演出でした。

 卵1個をどう調理して食べようか、みんなで相談するシーンがとっても楽しかった。卵かけご飯、湯でたまご、目玉焼きが、目に見えないのにあんなに美味しそうだと感じるなんて。

 源次郎(相島一之)が「日本の道義を疑うようになったきっかけ」を語るシーンは圧巻。彼の、銃後(守るべき人々)を思う熱い気持ちが伝わってきたおかげで、戦地へ赴く兵隊の気持ちが少しわかった気がしました。
 コピーライターの竹田(木場勝己)が語る「人間は奇跡そのもの。」というセリフは、やはり涙なしには聞けません。満天の星空に1つだけ際立って大きく光る星がありました。誰もがあの星のように輝く奇跡なのだと、信じることができました。

≪東京、宮城、大阪≫
出演:愛華みれ 阿部力 前田亜季 久保酎吉 八十田勇一 後藤浩明(ピアノ) 相島一之 木場勝己 古川龍太 阿川雄輔
脚本:井上ひさし 演出:栗山民也 音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:服部基 音響:泰大介 振付:謝珠栄 衣裳:中村洋一 歌唱指導:伊藤和美 宣伝美術:和田誠 演出助手:田中麻衣子 舞台監督:木崎宏司 主催:ホリプロ/銀河劇場/テレビ朝日/こまつ座
【発売日】2009/02/14 S席:7,350円 A席:6,300円 学生席:4,200円(全席指定・税込)
http://www.gingeki.jp/special/seiza.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年05月08日 16:24 | TrackBack (0)