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2009年06月23日

【稽古場レポート】メジャーリーグ『ヘッダ・ガブラー』06/19都内某所

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『ヘッダ・ガブラー』チラシと台本

 メジャーリーグのイプセン・シリーズ第3弾は『ヘッダ・ガブラー』。初日まで約3週間となり、立ち稽古が始まった稽古場にお邪魔しました。
 これまでに庭劇団ペニノのタニノクロウさんの演出で『野鴨』と『ちっちゃなエイヨルフ』が上演されましたが、今回の演出は箱庭円舞曲の古川貴義さん。またもや若手劇作・演出家の大抜擢ですね!

 魔性の女ヘッダ役を演じる小沢真珠さんをはじめ、山本亨さんら魅力的なキャストが揃った、少数精鋭の5人芝居です。1890年に書かれた古典戯曲ですが、現代的でピリリと刺激のある、軽快なストレート・プレイに仕上がりそうな予感♪ 客席数173席の“大人の小劇場赤坂RED/THEATERにぴったりの、知的でシックなお芝居になりそうです。

 ■メジャーリーグ『ヘッダ・ガブラー』⇒公式サイト
  2009年7/8(水)~14(火)@赤坂RED/THEATER
  ⇒CoRich舞台芸術!『ヘッダ・ガブラー

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより一部抜粋。(役者名)を追加。⇒人物相関図
 舞台は、ガブラー将軍の娘ヘッダ(小沢真珠)とその夫、学者のテスマン(伊達暁)の新居。
 新婚旅行から帰ったばかりの二人のもとを訪れてきたのは
 ヘッダに思いを寄せ、その微妙な関係を楽しんでいるブラック判事(山本亨)。
 そしてテスマンのライバルであり、ヘッダが唯一特別な感情を抱いた、レェーヴボルク(小野哲史)。
 そのレェーヴボルクを追いかけてやってきた、かつての友人、エルヴステード夫人(町田マリー)。
 彼らはみな、自分の思うがままに奔放に生きるヘッダにその運命を振り回されることになる。
 ≪ここまで≫ 

【写真↓】左から、ヘッダ(小沢真珠)とエルヴステード夫人(町田マリー)
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 充実した静けさと緊張感は常にあるものの、全体としてはゆるりとリラックスした雰囲気で、さわやかな風も感じられる、肌に心地よい稽古場でした。
 まずは第1幕を通して短いフィードバック(ダメ出し)。次に第2幕をザっと通した後、2幕のはじめからシーンを細かく止めて、丹念に繰り返していきました。指揮を執るのは演出の古川さんですが、役者さんの方から「次はこのシーンをやりたい」「先に動きを決めていった方がいいんじゃないか」等の意見もスムーズに出ています。

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演出の古川貴義さん

 古川「制作会社のプロデュース公演に参加するのは初めてですが、役者さんとのコミュニケーションを楽しんで取れていると思います。役者さんから意見が出るのも、自分の劇団での稽古と同じですね。稽古開始から1週間ぐらいは、徹底的に読み合わせをしました。作品全体や個々のシーンの意図について議論し、質問し合ったので、相互に作っていけていると思います。」

 笹部博司さんによる上演台本は伸び伸びとした現代の日本語で書かれており、海外戯曲の香りはほんのりと漂うものの、一読した時は約120年前に書かれた古典という印象は全くありませんでした。
 古川「衣裳も装置もクラシックな感じにはしたくなくて。時代考証に重きは置かず、抽象的にするつもりです。」

 この日、稽古が綿密に繰り返されたのは、欲望のまま直情的に生きる軍人の娘ヘッダ(小沢真珠)と、彼女に夢中で何やら企みを秘めていそうなブラック判事(山本亨)が、2人っきりで話すシーン。【写真↓】
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 ヘッダが本音を吐露する長いセリフの間に、短いセリフの小気味よいやりとりが挟まれ、リズミカルに進みます。圧倒的な主導権を握っているのはヘッダですが、ブラック判事が自分の下心を意図的に見え隠れさせて彼女を誘導するので、2人の関係は危うい均衡性を保ちつつ、シーソーのように上下します。プラトニックではあるものの、官能のムードを露骨に漂わせる駆け引きに、ニヒヒと笑えてきちゃったりも(笑)。
 古川「そこはじとっと見合って、2人だけの空気を作ってください。ヘッダの『お話をね』というセリフは、『を』の音を下げて、語尾の『ね』は上げて。・・・そう!エロいっすね~(笑)。いやらしい感じでお願いします。」
 古川「亨さんは、前に言ってた“下半身がもぞもぞする感じ”を(笑)、ぜひそこでやってください。」

 『ヘッダ・ガブラー』は読めば読むほど、探れば探るほど、人間関係の裏にあるものを多彩に想像できる戯曲のようです。稽古終盤に、古川さんと役者さんが意見を出し合って議論をする時間がありました。昔は恋人同士だったテスマン(伊達暁)とエルヴステード夫人(町田マリー)の距離感についてや、噂の的となっている謎の人物レェーヴボルク(小野哲史)とブラック判事との、戯曲には明示されていない対立についてなど。どこまで具体的に表すのか、それとも匂わす程度にするのか、むしろ別の解釈で作り直すか・・・。

【写真↓】左から、レェーヴボルク(小野哲史)とテスマン(伊達暁)
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 古川「イプセンは“関係”を描いた人だと思います。だから登場人物の距離感を大事にしたい。それぞれの表情(を個別に成立させるの)ではなく、空気が動く感じにしたい。5人の順列組み合わせから色んな空気が匂いたち、うごめくさまを見たい(見せたい)です。
 ヘッダは自分の興味でしか動きません。『ちょっと面白いかも!』と思ったら、その場の感情ですぐに行動に移してしまう、2メートル先の楽しみしか考えていない人物。『ヘッダ・ガブラー』はその結果が自分に降りかかってくる悲劇であり、喜劇だと思います。」

【写真↓】左から小沢真珠さん、山本亨さん。右手前に座るのは演出の古川貴義さん。
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 小沢さん演じるヘッダは次々ととんでもないことをしでかす、非常に迷惑な女性です(笑)。でも、彼女には嘘がありません。欲望があけすけに行動に出てしまっているのが、なんとも愛らしいのです。

 古川さんの「2メートル先の楽しみしか考えていない」という言葉が、今回の上演のキーになる気がしました。私たちは長期的な展望を持って計画的に、用意周到に生きることが理想(そして無難)であるかのように思いがちですが、そもそも人間は“今”にしか幸せを感じることができません。ヘッダは本能的にそれを知っていて、無心に幸せだけを求めたのではないかしら・・・。もちろんヘッダのような生き方は誰にもお勧めできるものではないんですけれど。 

 24時間休みなく情報の洪水にさらされて、私たち現代人は不安と不機嫌に溺れて暮らさざるを得なくなっているような気がします。人間がどのように幸せを求め、手に入れようとしたのか。120年前の登場人物が悩みに悩んでじたばたする姿に、そのヒントが隠されている気がします。

 古川「イプセン作品では、『話を聞かせて』と問いかけて、誰かの本音を聞き出そうとする展開が多いんです。この作品ではヘッダが基本的にそのポジション。彼女は相手の気持ちを引き出すのを楽しみながら、周囲を振り回していきます。」

 つま先から頭のてっぺんまで生き生きと躍動する俳優の体を介して、5人の登場人物たちの本音が聞けるのを、楽しみに待ちたいと思います。

出演:小沢真珠 伊達暁 町田マリー 小野哲史 山本亨
作:ヘンリック・イプセン 上演台本:笹部博司 演出:古川貴義 美術:伊藤雅子 照明:工藤雅弘 音響:岡田悠 衣裳:友好まり子 ヘアメイク:大宝みゆき 演出部:須貝英/栗山佳代子 舞台監督:大島明子 宣伝写真:松本のりこ 宣伝デザイン:今城加奈子 WEB:新藤健/今城加奈子 制作助手:時田曜子 制作:斎藤努 プロデュース:伊藤達哉 主催/企画/製作:メジャーリーグ 後援:TBSラジオ/NACK5 提携:赤坂RED/THEATER 制作:ゴーチ・ブラザーズ
2009年5月23日(土)チケット一般発売開始 前売 4,500円(税込・全席指定)
http://www.hedda-gabler.net/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年06月23日 06:02 | TrackBack (0)