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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年07月24日

アトリエ・センターフォワード『一条家サロン アラブルカゼニクツオトガタカナル』07/23-29シアター風姿花伝

 矢内文章さんが作・演出(出演も)されるアトリエ・センターフォワードの第2回公演です。矢内さんはTPT公演などに頻繁に出演される俳優さんなので、脚本・演出もされる方だとは知りませんでした。

 青年座、文学座などの新劇老舗劇団で人気の役者さんが出演されており、客席の年齢層は高い目。衣裳、美術などもガツンと豪華なストレート・プレイでした。上演時間は約2時間。

 ⇒CoRich舞台芸術!『一条家サロン

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。改行を変更。
 昭和十年末。
 政商の父親を満州で亡くした三人姉妹は傷心を癒すべく東京の屋敷に。
 だがそこは放蕩三昧の長男とその友人たちがたむろするサロンと化していた。
 軍人も民間人も、はては屋敷の女中までが享楽をともにする一条家サロン。
 軍国主義が高まるなか、人々はそれぞれに「痛み」を抱えながら
 必死で自らの未来を描こうとするが…。
 ≪ここまで≫

 登場するのはエレガントなスーツ、ワンピース、そして軍服に身を包んだ人々。下手にはいい感じに汚しの入ったガラス窓のある壁。中央奥には頑丈なドア。上手奥には階段が少し。クラシックな西洋家具がぽつんぽつんと並んでいます。布製カーテンが緞帳にも舞台奥の壁にもなっており、材質が半透明なので、照明の加減で奥が透けて見えるようになっています。シアター風姿花伝でこんなシックな作品を観られるとは。

 古典戯曲をもとに、舞台を昭和11年頃の東京に置き換えた物語でした。名作の勘所をしっかり心得て引用されていることに感心しつつも、できれば矢内さんの完全オリジナル作を観たいと思いました。第1回公演がそうだったようなので、見逃したのは残念。

 ここからネタバレします。

 主にチェーホフの『三人姉妹』と『桜の園』を下地にしたストーリーでした。チラシにもちゃんとそのように告知されています(チェーホフを下地に戦争前夜を懸命に生きた名もなき若者たちの群像劇)。

 4人姉弟の父親が一代で財を築いたのは、中国でのアヘンの流通を独占していたから。そして父親は関東軍による中国人の人体実験にも援助をしていました。そのおかげで自分たちが贅沢に暮らしてきたことを知っていた長男(矢内文章)は、放蕩することで財産をわざとゼロにしたのです。だから谷水(五十嵐明)の「屋敷をビルヂングにして貸し出す」という提案を受け入れませんでした(屋敷を競売にかけられるままにした)。
 このことを知らなかったのは末っ子の涼子(佐藤麻衣子)だけ。だから長男はもちろん、長女・松子(椿真由美)は頭痛が治らないし、次女・光子(立原麻衣)は何についても投げやりな様子だったんですね。

 一条家につどっていた人々は皆ちりじりになり、自ら選んだ道とはいえ、さらに困難な人生を歩むことになってしまいます。「それでも生きていく」ことが描かれるのは『三人姉妹』ですが、この作品には、日本(日本人)が戦争中にした起こした事件・行為をクローズアップし、人間の責任を厳しく見つめる視点がありました。それが素晴らしいと思いました。せめて忘れないで、生きていかなければ。

アトリエ・センターフォワード第2回公演
出演:椿真由美 立原麻衣 佐藤麻衣子 矢内文章 五十嵐明 原扶貴子 眞藤ヒロシ 井上裕朗 高松潤 吉田智則
作・演出:矢内文章 演出助手:カトウシンスケ 高本愛子 美術:宇野奈津子 美術協力:松岡泉 照明:深瀬元喜 音響:上野雅 音響操作:野中裕里 ヘアメイク:梅澤裕子 ヘアメイクアドバイザー:鎌田直樹 衣裳:本多あゆみ(東京衣裳) 衣裳協力:砂田悠香里 舞台監督:鈴木暗香 制作:松本恵美子 プロデューサー:冨士山和夫 主催:アトリエ・センターフォワード OPTLAND ENTERTAINMENT JAPAN
【発売日】2009/06/16 全席指定 前売3800円/当日4000円
http://www.centerfw.net

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年07月24日 14:46 | TrackBack (0)