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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年11月08日

劇団青年座『3on3 Part2 喫茶店で起こる三つの物語』11/01-08青年座劇場

 (社)日本劇団協議会が主催する“次世代を担う演劇人育成公演”の中の1企画です。『3on3』は喫茶店を舞台にした短編3作のオムニバス。今回は第二弾です(2008年の第一弾は未見)。

 同じ喫茶店で起こった3つの出来事ではありますが、脚本・演出が全て違う人なので、それぞれに違う味わいでした。でも全体的に残念な出来。上演時間は約1時間40分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『3on3 Part2 喫茶店で起こる三つの物語

 こげ茶色の木としっくい、煉瓦で内層されたシックな喫茶店。コーヒーはサイフォンで淹れる本格派。家具や装飾品、小道具までがっつり具象の美術はいいですよね。気分も盛り上がります。

 それにしても・・・新劇の劇団っていつまでもこんな演技がスタンダードなのかなー。これで“次世代を担う演劇人育成”なんて言っていいのかしら。まあ役者だけじゃなく演出家も育成対象者なんですが、それも・・・。

 観客に「芝居はこういうものだ」というルールを当たり前のように押し付けている気がします。先月から刺激的なお芝居にたくさん出合っているので、ついつい辛口になってしまいました。


■『みぢかうた』
 作:本田誠人(ぺテカン)/演出:磯村純
 出演:名取幸政 宮寺智子 尾身美詞 荒川大三郎(演劇集団円) 古川龍太(クリオネ) 保可南(芹川事務所) 寒河江有似(オムプロモーション)

 ≪あらすじ≫
 店長(坂口進也)が旅行に出発し、アルバイト(古川龍太)が1人で切り盛りしている日。客はかしましい女子高生3人組(保可南 寒河江有似 尾身美詞)と、老カップル(名取幸政&宮寺智子)。突然停電になり・・・。
 ≪ここまで≫

 明るく楽しく元気に盛り上げてくれるのはいいのですが、会話に腑に落ちないやりとりが多く、疑問が頭にうずまきました。
 老カップルが深刻な話をしている時に、少し離れたテーブルで女子高生が静かにしてるのはなぜなのか(話を盗み聴きしてるのか、重要な会話を観客に伝えるためにわざと静かにしてるのか)が曖昧。演出の詰めが甘いんじゃないでしょうか。

 店を黙々と仕切るアルバイター役の古川龍太さんは、1人の人間としてちゃんと立っているように見えて良かったです。冷たそうに見えて実は気が利く“モテる男”であることにも納得。

 ここからネタバレします。

 ろうそくの光の中、見知らぬもの同士が身の上話をします。
 「俺は糖尿病のせいでもうすぐ失明するんだ」という元夫の告白(嘘なのですが)に対する、元妻の態度が・・・軽すぎる。元妻が踊り出すのに女子高生が付き合うのも不自然。演技や演出でなんとかなるはずだと思います。
 結局「袖振り合うも多生の縁」の境地に落ち着くのですが、短絡的すぎる印象。これも演出次第でどうにかできるんじゃないでしょうか。脚本も強引ですが。

 最後の最後に、女子高生(尾身美詞)がアルバイターに告白する場面で溶暗して終幕。これは可愛かったです。

■『青島先生』 ※★は育成対象者
 作:鈴木哲也/演出:須藤黄英★
 出演:桜木信介★ 若林久弥

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 たった一人の静かな店内。
 ため息をつき、やがて席を立とうとすると、
 「青島先生。僕です。井上です……」
 呼び出した男。呼び出された男。
 中学教師(若林久弥)とかつての教え子(桜木信介)、12年ぶりの"危険"な再会!
 ≪ここまで≫

 面白い脚本なのにもったいないなーと思ったまま終幕。セリフの解釈(発音や言い方、演技の選び方)が的外れな気が・・・。突然忍び寄よってくるはずの恐怖や、ドカンと来るはずの笑いどころをつぶしてしまってるように見えました。

 ここからネタバレします。

 教え子は無職になってしまい思いつめ、誰でもいいから殺して死刑になろうとしていました。中学教師は多額の借金をして女房にも逃げられ、死のうとしていたところでした。


■『はひふへほ』 ※★は育成対象者
作:長谷川孝治(弘前劇場)/演出:千田恵子
出演:嶋田翔平★ 原口優子 髙橋幸子 坂口進也(青年座映画放送) 土師孝也(青年座映画放送)

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 母が忽然と姿を消してから数年が経った。
 「今度、結婚することにした」父(土師孝也)からの報告に困惑する息子(嶋田翔平)。
 母の事はどうするつもりなのか……。
 新しい母(原口優子)と三人で会う日、
 父と息子の奇妙な関係が動き出す。
 ≪ここまで≫

 脚本の深みや、それゆえの苦い味わいが、演出でかき消されている印象。息子役は大役です。演じた方は“育成対象者”だから仕方ないのかもしれませんが・・・うーん。他の人もありきたりな言葉運びで、相手とコミュニケーションせず、1人でしゃべってるみたい。
 あらためて感じましたが、私は長谷川孝治さんの脚本が得意じゃないですね。やっぱり(2000年の『三日月堂書店』以来、弘前劇場は観てません)。

 ここからネタバレします。

 いきなり青森の話が続くのですが必要性が感じられず。吹雪のこととか名産品のこととか、全く実感が伝わってこない。

 新しく母親になる女性(原口優子)は美術教師ですが、デリヘル嬢もしており、元アル中だと告白したところから一気に面白くなりました。息子と関係を持っていたんですね。

 息子が電話で知人の死を伝えられるのですが、それはつまり失踪した母親のことでしょう。でもあんな演出(演技)だと観客には伝わりづらい気がします。

装置:阿部一郎 照明:中川隆一 音響:中島正人 衣裳:竹原典子 舞台監督:安藤太一 宣伝美術:早田二郎 制作:森正敏 監修:宮田慶子 平成21年度文化庁芸術団体人材育成支援事業 次世代を担う演劇人育成公演8 主催:(社)日本劇団協議会
全席指定 前売・当日4,000円 月曜割引3,500円
http://www.seinenza.com/performance/gekidankyo/091101.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年11月08日 01:12 | TrackBack (0)