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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年12月09日

M&Oplaysプロデュース『マレーヒルの幻影』12/05-27本多劇場

 岩松了さんの新作で、麻生久美子さんとARATAさんが初舞台を踏まれます。上演時間は約3時間弱(途中15分の休憩を含む)。

 岩松さんのセリフはやはり美しいです。言葉が俳優の声によって発せられた瞬間に、その体からはがされていくような不思議な感触。そして直後の余韻もまた素早く去って行ってしまうのが切なくて。

 ⇒CoRich舞台芸術!『マレーヒルの幻影

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより一部抜粋。
 1929年、まさに恐慌前夜のニューヨークを舞台に、様々な事情で故国・日本を離れた日本人たちが織りなす人間ドラマ。
 ≪ここまで≫

 ニューヨークにある日本人コミュニティーが舞台。ロマンティックに、残酷に交差する恋愛物語でもありますが、金(経済)に翻弄され、急激に変わっていく人間関係も描かれています。

 岩松さんの演出は、役者さんの言葉と心と体が必ずしも一体ではないところが面白いと思います。言葉が体を置き去りにしてひとり歩きを始め、言葉に引き寄せられた体と心が、すぐにひきはがされてそれぞれに浮遊するような感覚。逆もあります。勝手に動き始めた体が、言葉の意味をぶち壊して、その場にあったものを上書きする新しい波を起こしてしまったり。常に生まれて、常に流れて消えていく。それでもなぜか、作品そのものの空気が、強く、ゆるぎなく存在する演劇。

 主に映画やテレビでご活躍されている初舞台のお2人については、演技のバリエーションが狭まっている気がしました。主役だから余計に気になったのもあるでしょう。私が拝見したのは初日なので、これからまた変わっていくことと思います。

 鉄柵や家具を移動させて転換するのは、何もない空間をどんどん変身させる意味で演劇的で面白いです。でも3時間のお芝居となると、同じような転換が続くのは少々退屈に感じることもあり。

 ここからネタバレします。

 外国を舞台にした芝居で本物の外国人が登場するため、リアルと偽のバランスが妙ちきりん(笑)。ふざけて遊んでいるような感覚から、突然深刻になったりするのが刺激的です。

 ソトオカ(ARATA)はかつて愛し合っていた恋人・三枝子(麻生久美子)が、今は誰かと結婚してアメリカにいると知りショックを受け、アメリカでがむしゃらに働いて一財をなします。
 自分が運転手として雇ったばかりのフジオ(松重豊)こそ、彼女の夫だったのだと判明するのが1幕の終わり。ソトオカはフジオの目の前で三枝子を連れ去りますが、彼女は家を出ませんでした。フジオは仕事を辞めないし、ソトオカもフジオを手放す気はありません。大人の奇妙な三角関係がスリリング。

 ソトオカはスージー(市川実和子)と寝たと誤解され、スージーの恋人タナカ(荒川良々)に銃で撃たれて死んでしまいます。スージーと関係を持ったのは本当はフジオなのに。タナカが致命的な早とちりをしたのは、フジオがスージーに売春の対価として金を渡す際、わざとソトオカの会社名が印刷された封筒に入れたからなんですよね。タナカはその封筒を見てソトオカに恨みを抱きます。つまりソトオカは、フジオに殺されたと言っていいのでしょう。フジオ自らが手を下したわけではないのが恐ろしい。

 選曲が面白かったです。歌詞が何語かわからなかったんだけど・・・スペイン語?物語にフィットしすぎず、かといって奇抜すぎず。最後は音楽の後に風の音だけが残る暗転でした。とても良かった。

≪東京、大阪≫
【出演】三枝子…麻生久美子 ソトオカ…ARATA キタ…三宅弘城 タナカ…荒川良々 スージー…市川実和子 フジオ…松重豊 マリア…カリン山田 バルデッツィ…サイラス・望・セスナ オブライエン…アンドリュー・ウォールナー
【スタッフ】作・演出:岩松了 照明:沢田祐二/美術:礒沼陽子/舞台監督:榎太郎/音響:高塩顕/衣裳:兼田サカエ/ヘアメイク:大和田一美(APREA)/照明オペレーター:渥美友宏/演出部:星野真紀、久保勲生、渡辺秀幸 衣裳助手:戸田京子/衣裳製作:金子通代、久保薗美鈴、山本満穂、西原宣子/稽古場音響オペレーター:原陽子 宣伝美術:坂本志保/宣伝写真:三浦憲治/宣伝スタイリスト:兼田サカエ/宣伝ヘアメイク:大和田一美/宣伝:宇津宮明美(る・ひまわり)/台本英訳:川本孝子、サイラス・望・セスナ/衣裳協力:ブルックスブラザース CABARET メイク協力:江原道㈱ 制作助手:土井さや佳、寺地友子、大島さつき/制作協力:(株)リトル・ジャイアンツ 制作&プロデューサー:大矢亜由美 主催・製作:(株)森崎事務所M&Oplays
全席指定6800円
http://www.morisk.com/plays/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年12月09日 17:50 | TrackBack (0)