2009年02月09日
【シンポジウム】フェスティバル/トーキョー プレ・オープニング 国際シンポジウム『今日の文化を再考する-米国・フランス・日本の文化システムを巡って』02/04東京芸術劇場中ホール
東京芸術劇場前
いよいよ2/26(木)から開幕する「フェスティバル/トーキョー(F/T) 」の、プレ・オープニング国際シンポジウムに伺いました。平日昼間の4時間強という時間帯でしたが、ホールが満席(約800人)という大盛況。
元フランス文化大臣ジャック・ラングさん、作家・ジャーナリストのフレデリック・マルテルさん(『超大国アメリカの文化力』著者)をフランスから迎え、とても充実した内容でした。
⇒「グローバル化時代の文化 仏の社会学者 フレデリック・マルテル氏に聞く」(朝日新聞)
⇒書籍「超大国アメリカの文化力―仏文化外交官による全米踏査レポート」(岩波書店のサイトから購入可能)
※英語訳の前に日本語訳が完成・発売。5年に及ぶ取材でのインタビュー人数は700人以上。
「文化は生活に必要である」ということを、言葉で伝える努力をしなければと思いました。今さらですけど、楽しいとか面白いとか好きだとか、それだけじゃ説得力がないですよね。
下記は、特に印象に残ったことです。私がメモしたことなので公式な内容ではありません。
■フレデリック・マルテル氏基調公演
マルテル「フランスでは、映画のチケットの10%がフランス映画製作費の支援金になる。日本映画でもアメリカ映画でも、観ればフランス映画を支えることになる。今やフランス映画はアメリカ映画についで世界2位。※経済面でのランキングだと思います。」
マルテル「フランスはアメリカのように、もっと多様性に好意的になっていい。フランスの人口の10%は移民(アラブ人、ベルベル人等)なのだから。私はボーイング機で来日したが、エアバスもある。日本の皆さんには自分が乗りやすい飛行機(文化政策)を選んでもらいたい。」
■ジャック・ラング氏基調公演
ラング氏「日本人は日本文化を過小評価していると思う。映画、建築、演劇など(著名な日本人アーティストの名前を挙げる。⇒博識な方だと思いました)、私は日本人の皆さんに敬愛の念を抱いている。」
ラング「文化・教育は資本の面でも良い投資である。文化の重要性を訴えたい。文化は必要であり、(?の)要請である。ニーチェが悲劇についての書物で語っていた。『ブルジョワのエリートにとって文化は飾りだろう。でも文化は、国民の魂であり、1つのシステムの基礎。社会の基盤である。』と」
ラング「1985年から始まった経済危機の時に、私は文化予算を倍増させた。そして毎年ゆっくり確実に1%ずつ増やしていくことも約束した。特に困難な時代にこそ、そうすべきだ。クリエイティビティーを奨励し、地方分権化し、遺産を守ること。国全土で民主的な文化活動を奨励すること。危機だからこそ文化の重要性を信じる必要がある。若者、アーティスト、研究者の支援をすべき。芸術、文化、教育に最も良い地位を与えなければならない。」
■パネル・ディスカッション
パネリスト(客席から向かって左より):根本長兵衛/外岡秀俊/ジャック・ラング/辻井喬/フレデリック・マルテル/平田オリザ
辻井「日本はテレビ局、新聞社、デパートが文化を支えてきた。日本の政府と財界は世界的に見ると特殊。」
平田「日本には2000を越える劇場がある。おそらく数は世界一(でも劇場らしい機能はしていない)。大阪大学の生徒は4万人もいるのに、心を鍛えたり豊かにする場所(劇場、コンサートホールなど)がない。公共ホールは芸術の知識がない人が管理・運営している(つまりうまく機能していない)。大学の方から劇場にアプローチして、劇場を機能させてはどうか。優秀な学生を公共の劇場に派遣するとか。日本は後発であることの利点を用い、他国に謙虚に学ぶべき。」
平田「『トウキョウソナタ』という映画について。主人公はリストラされたサラリーマン。製造業の部門にいて、コミュニケーション能力に長けていないため、再就職ができない。日本人は7割がサービス業に従事するようになったのに、想像力、柔軟性を鍛え、コミュニケーション能力を高める教育を受けてこなかった。これは国の失政だろう。社会全体が考え方を変えなければならない時ではないか。大阪大学医学部では近い将来、演劇の授業を必修にすることを考えている。演劇ができないと医者になれないという時代が、もうすぐ来るかもしれない。」
平田「アーティストが貧しいのはどこも同じ。ロンドンでも俳優の8割が俳優以外の仕事もしている。ただ、アメリカ、フランスにはそれぞれのシステムがあるけれど、日本にはシステム自体がない。日本が文化についての新たなシステムを構築するために、必要なことは2つあると思う。まずは政権交代。アーティストがなぜ芸術が必要なのかを具体的に語ってこなかったのも悪かったと思う。そうでないと税金も協力も得られなくて当然。そして地方分権にすること。文化教育の判断は各地域にゆだねること。」
ラング「文化・教育こそ経済の鍵である。将来100倍になって社会に還元される。文化は生活に必需である。」
平田「日本の公共事業といえば道路、橋、ダムだった。道路を音楽に、橋を演劇に、ダムを絵画に変えたらいい。費用だって道路や橋の10分の1、100分の1で済む。」
平田「給付金用の資金2兆円の10分の1をまわせば、日本の文化予算は倍増しますよ(笑)。」
ラング「オバマ大統領は政策に“芸術教育への再投資”を掲げている(関連ページ⇒1、2)。チリの劇作家アリエル・ドーフマンが先日(どこかの新聞に)書いていた。『オバマは詩人の大統領である』と。社会の中の波紋を十分にキャッチして、人種・宗教の違いを超越して、州の違いも超越する、魔術師のような人物だ。彼は偉大なリーダーだ。」。
マルテル「オバマ氏は自分の過ちを自分で正すことができるリーダー。今までにそんな米大統領がいたでしょうか(いないはず)。アメリカ人は(自分が何らかの間違いを犯したら)自分から間違ったと言い、自分で自分を正せるようになるだろう。」
根本「平日昼間に大勢の方に集まっていただいた。文化に感心がある人がこれだけ多くいるのに、政治に結びつかないのはメディアのせいではないか。」
司会は朝日新聞社編集委員の外岡秀俊さんでした。パネリストの方々にまんべんなく話を振って、重要な話題を引き出してくださいました。
外岡「スロベニアの哲学者と話をした。彼いわく『1989年にベルリンの壁が崩壊して、世界は、これからは金融資本主義と自由主義の時代だと信じていた。しかしながら金融資本主義(←2008年10月)も自由主義(←2001年9/11)も崩れ去った。今はその空白を埋める価値観が求められている』とのことだった。」
日時:2009年2月4日(水)14時~18時過ぎ
日本語/仏語 同時通訳つき 入場無料・要予約 *別途、同時通訳イヤホン使用料(1000円)がかかります。
基調公演:フレデリック・マルテル(作家・ジャーナリスト、『超大国アメリカの文化力―仏文化外交官による全米踏査レポート』著者)
パネリスト:ジャック・ラング(政治家・元フランス文化大臣)、辻井喬(詩人・作家)※、外岡秀俊(朝日新聞社編集委員)、平田オリザ(劇作家・演出家)、コーディネータ:根本長兵衛(本企画コーディネータ) ※「辻」はしんにょうの「、」が2つあるもの。
http://festival-tokyo.jp/event/sympo.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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【書籍】阿部和重著「グランド・フィナーレ」(講談社)
『キラリ☆ふじみで創る芝居「大恋愛」』の頃に読んだのですが、『グランド・フィナーレ』TALKバトルにそなえてもう一度サラっと読み直しました。
途中から、主人公の視点になって読み進められなくなるのは面白いです。登場人物で共感できる人、いなかった気がするな~。
どうやって舞台化するのか想像つかないし、しかも音楽劇らしいので(笑)、なおさら楽しみです♪
⇒CoRich舞台芸術!『グランド・フィナーレ』
オリガト・プラスティコ『しとやかな獣(けだもの)』01/29-02/08紀伊國屋ホール
川島雄三監督の同名映画(1962年公開)をケラリーノ・サンドロヴィッチさんが演出されます。オリガト・プラスティコはケラさんと広岡由里子さんのユニットです。
紀伊國屋ホールで観るのにとてもしっくりくるお芝居でした。上演時間は約1時間50分。
⇒CoRich舞台芸術!『しとやかな獣』
≪作品紹介≫ 公式サイトより。改行を一部変更。
強欲な一家としたたかな悪女の壮絶バトル- 川島雄三監督の名作に鬼才・KERAが挑戦!
オリガト・プラスティコは私と広岡由里子のユニットであり、この度とりあげる「しとやかな獣」は、1962年の正月映画として公開され、大コケした、川島雄三監督最後から二番目の超傑作映画である。これまでに(私が知っているだけでも)二度ほど舞台化されている。団地の一室を舞台に、呆れるにも程がある四人家族と、彼らを取り巻くクズ人間どもが織り成す真性ブラック・コメディ。既にこんなにも面白い脚本が用意され、加えてキャストがご覧の通りとくれば、公演の成功はこれ、約束されたも同じじゃないか。 (演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ)
≪ここまで≫
昭和の団地の1室であることがよくわかる美術でした。舞台の中心になるのは居間で、その上部に灰色の外壁や、廊下が建てられています。
脚本は新藤兼人さん(wikipedia)が書かれたもので、しっとりと懐かしい日本語でした。「わたくしは~~~ですのよ」とか。衣裳もレトロなムードでちょっとタイムスリップした気分。妹役のすほうれいこさんの赤いドレスが可愛かった~!
東京公演は終わっていますが新潟、大阪公演があります。映画を観てからでも(内容を知っていても)問題なさそうですが、何も知らなくてもストーリーは楽しめるのではないでしょうか。
残念ながら私は役者さんの演技に硬さを感じて少々退屈で、存分に楽しめたとは言えないのですが。近藤公園さんが面白かったです。
ここからネタバレします。
メインとなる四人家族(父・母・長男・長女)は詐欺師集団でした。でも長男(近藤公園)が肉体関係を持った勤め先の会計係の女(緒川たまき)は、どろぼう一家よりも一枚上手のようで・・・。
上手のふすまが照明で透けて、向こうの部屋にいる役者さん(盗み聞きしている妹など)が見えたり、「そんなところには普通はカーテンなんかないよ!(笑)」って突っ込みたくなる位置にある、大きなカーテンを使った演出が楽しかった。照明を暗くした独白シーンも演劇らしかったです。上手上部に作られた階段部分(飛び降り自殺しようとする税務署員の演技などが見られる)も良かった。
≪東京、新潟、大阪≫
出演(役…役者):浅前田時造…浅野和之 前田よしの…広岡由里子 香取一郎(芸能プロ社長)…佐藤誓 三谷幸枝…緒川たまき ピノサク…山本剛史 前田実・‥近藤公園 前田友子…すほうれいこ 吉沢駿太郎(作家)…大河内浩 ゆき(パーのママ)…吉添文子 神谷栄作(税務署員)…玉置孝匡
脚本:進藤兼人 演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ 美術:中根聡子/照明:漬水利恭/音響:藤田赤目/衣裳:前田文子/舞台監督:久保勲生/ヘアメイク:大和田一美(APREA)/演出助手:相田剛志/音響オペレーター:富田聡/衣裳助手:山本有子、森田恵美子(東京衣裳㈱)/映像:荒川ヒロキ(&FICTI0N!)/振付:金崎敬江(picoLoop%) 大道具:C-COM舞台装置/小道具:高津映画装飾 宣伝美術:坂本志保/宣伝写真:三浦憲治/宣伝スタイリスト:兼田サカエ/宣伝ヘアメイク:大和田一美(APREA)、倉田正樹 制作助手:岩波信江、寺地友子/制作・プロデューサー:大矢亜由美 主催・製作:(株)森崎事務所M&Oplays
http://www.morisk.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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