REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2010年06月15日

【レポート】芸団協2010「ラウンドテーブル『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』【5】」04/30-05/01芸能花伝舎1-1

20100430_gekijyohoRT_yamato3.JPG
劇場法(仮称)RT【5】

 『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』【5】は芸団協の大和滋さんの講義3です。
中継動画が全編こちらで見られますので、このエントリーでは私が特に重要だと思ったことをまとめました。⇒PowerPointのプレゼンテーション資料(PDF)も公開されています。

 ⇒劇場法(仮称)RT【全体のまとめページ

 ■なぜ実演芸術は経済的に成り立たないのか
 ■なぜ国が実演芸術を支援するのか・なぜ税金を使うのか
 ■なぜ国が劇場を支援するのか・地方自治体だけにまかせないのか

■なぜ実演芸術は経済的に成り立たないのか

 例えば自動車工場がオートメーション化して、1日に1台しか作れなかった車が1日に10台作れるようになり、同じ価値でそれらが売れたとすると、工場労働者の収入は10倍になる。しかし実演芸術はずっと同じことをやり続けて、同じ価値(お金)しか生まない。つまり実演芸術は生産性が変わらないので、当事者の所得不足が発生し、入場料収入だけでは賄えない。こういった議論が今世紀、特に戦後から世界的な通念になっている。
 
 「実演芸術は何らかの公的・社会的支援がないと、担い手の給料が低くなるか、入場料が高くしないと成りたたない産業になる」と、経済学的に詳しく分析して理論をたてた人がいて、1960年代にアメリカで確立された。それ以前までは王権、つまりパトロンが支援してきたという経緯があるが、近代社会になり政府が参与することの正当な理由の1つとなった。

 鑑賞者が高負担を強いられる、あるいは安い入場料だと担い手が食べていけなくなる、そして実演芸術の世界を目指す人が少なくなる、という循環は、「実演芸術の享受」という点から見ると社会的にマイナスになる。だから何らかの社会的な支援が必要である。

 アメリカは60年代まで国が直接芸術にお金を出すことはなかったが、60年代に入って連邦政府として、初めて芸術団体に助成をすることを始めた。ヨーロッパでは王権や諸侯が劇場をつくってオペラをやっていたので、そういった支援は必要だという基本的な考え方がある。


■なぜ国が実演芸術を支援するのか・なぜ税金を使うのか

 一方で、「産業自体が成り立たないのは、それは不要だからではないか。成り立たないものはつぶれていいのではないか」という意見もある。それに対して色んな考え方がある。

・「芸術が社会にはアプリオリ(⇒Wikipedia)に必要である」という考え。芸術そのものに存在価値があるから必要であるという考え。価値論。
・自分は観ないけれど社会には芸術が必要という考え。だから自分が観なくても国が支援することをよしとする。
・今は観ないが、いつか観たい時に観られるように、国の税金や誰かの寄付で支えていてもらうという考え。オプション価値と呼ばれる。

・自分は観たことがなくても、日本には能や歌舞伎があることを誇りに思うという意見がある。例えば海外に進出した企業経営者がよく言うことには、海外の社会的地位のある人が日本の芸術というと能や歌舞伎を知っていて褒めてくれる。それをなんとなく嬉しいと感じたり、日本に能や歌舞伎があることを誇りに思ったりする。そういったことを文化芸術はもたらしてくれるので、自分が直接観たり支援したりしなくても、税金を使っていいと思う。

・実演芸術を今の時代で途絶えないようにすることが大事。芸術文化が将来の世代に伝わる形で継承されるようにする。真善美といった審美性や、美しい良いもの、価値あるものを、きちんと次世代に教えていく教育的な価値がある。

・文化芸術に接することでクリエイティビティーや想像力が高まり、コミュニケーションが誘発される。人々の想像力を啓発していって、それが間接的に他の産業へも影響していく。
 芸術を観る人すべてが芸術家になるわけではない(芸術は、芸術の作り手だけのものではない)。観た人が想像力豊かになって、いい仕事をすれば、それが社会の発展につながる。そういう意味での教育的価値がある。子供手当のように直接お金を渡すのとは違う形で、国が芸術を支援することが社会全体に影響を与えていく。


■なぜ国が劇場を支援するのか・地方自治体だけにまかせないのか
 ※昨年の事業仕分けでの「国が芸術文化を支援する必要はない」といった意見への反証。

・日本でつくられた芸術の場合、まず言葉の問題がある(日本語は日本の言葉だから)。また、日本で伝統的に、独自に継承されてきた様々な芸術形態は、日本の国レベルで考えて振興していく必要性がある。

・劇場の場合、あるレベルになると、地域住民に対する公の施設でありつつも、行政圏域を越えていく。例えば世田谷パブリックシアターには、世田谷区民以外の観客も大勢訪れているだろう。公益享受の層が広がって社会全体に及んでいるから(地方自治体の枠だけにおさまらないので)、国からの支援があってもよい。

・東京都以外の地域の例として新潟のりゅーとぴあは、新潟市民による利用の割合が多いので、運営を市の税金だけで賄えばいいという考えもあるかもしれない。しかしながら、そこで作られている作品(例:レジデント・ダンス・カンパニーNoismの作品)は、新潟市だけにとどまるものではない。日本および世界に通用する価値がある。特に現場(劇場)があることで人材育成もしているから、その効果は全国におよんでいる。自治体だけにまかせるのではなく、国も一部を重複して支援しても良い。

・「劇場法(仮称)の提起」(⇒PDF)では国が文化芸術を支援する例として、イタリアとフランスなどを挙げた。
 イタリアは法律を作って、劇場(ミラノ・オペラ座など)を限定して支援している。劇場の理事会に市長が入るなども定めている。フランスは法律ではなく地方自治体、国、芸術監督が契約を結ぶ形態。アメリカは法律はなくNEA(全米芸術基金)が、組織(リージョナルシアターなど)を支援するのがほとんど。
 実演芸術の場合は、国と地方自治体が重層的に支援する構造になっている。(ドイツは連邦ではなく州政府なので例外だが)国が関与していない例はない。

・日本では、さまざまな分野で「地方に権限を」という議論が進んでいるが、実演芸術の振興には地方だけでなく国が関与しないと、ある専門性のレベルは保てないと考える。
 芸団協の提言においては、芸術監督等を任命するのは国ではなく、施設の理事会が指名するという提案をしている。


芸団協ラウンドテーブル「劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!」
主催:社団法人日本芸能実演家団体協議会
http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/04pro/manage/gekijo_rt100430html.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2010年06月15日 01:24 | TrackBack (0)