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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年09月01日

劇団昴ザ・サード・ステージ『イノセント・ピープル』08/25-29シアターグリーンBIG TREE THEATER

 畑澤聖悟さんが劇団昴に新作戯曲を書き下ろされました(過去レビュー⇒)。『親の顔が見たい』は第12回鶴屋南北戯曲賞にノミネートされています。

 原爆を開発した米国科学者とその家族の65年間を描いた凄い戯曲でした・・・。上演時間は2時間でしたが、もっと長くてもいいんじゃないかと思いました。もっと詳しく知りたいと思ったからです。規模拡大した再演を希望。

 戯曲が劇場ロビーで販売されていたそうです。買えばよかった!

 ⇒劇団昴公式ツイッター
 ⇒CoRich舞台芸術!『イノセント・ピープル

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 アメリカ、ニューメキシコ州ロスアラモス。
 原子爆弾開発に従事した科学者ブライアン・ウッド。
 ヒロシマ・ナガサキに落とされた2発の原子爆弾を作り上げた5人の若者たち。
 第二次世界大戦が終わり。その後65年間を彼らはどう生きたのか。
 ≪ここまで≫

 原爆開発中の科学者の青春から第二次世界大戦、その後アメリカが参戦してきたベトナム戦争、湾岸戦争に続くイラク戦争まで、時代は進みます。ついには原子力発電にまで言及する大作です。詳細な調査を経て、強い信念のもとにまとめられた戯曲だと思いました。

 当時のアメリカ人が原爆および戦争について軽い気持ちでおしゃべりしますので、(今となっては)胸が悪くなるような差別発言が連発されます。思慮のかけらもない悪らつな言葉の数々。でも自分だってあの時代に生きてたら「鬼畜米英」と言ってたかもしれません。アメリカ人の姿に日本人を見出すことができました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 アメリカ人ばかりの集まりにやってきた日本人は、なんと黒い仮面をかぶっていました(関係者に伺ったところ、脚本の指定だそうです)。「英語が話せない者は人間じゃない」という(当時の)アメリカ人の心情を反映したものではないかと思いました。というのも、英語を話す日本人は仮面をつけない(脱ぐ)からです。

 建国200年のお祭りのシーンで、「早いもので我々も50代になり、わが国の歴史の4分の1を生きてきたわけですが~」という乾杯前のスピーチがありました。なんて、なんて・・・歴史の短い国!!数字で知ってはいたけれど、セリフを耳にして改めて愕然とました。
 1945年8月の原爆投下の前に行われた原爆投下実験は「トリニティ」と呼ばれるんですね。「地球が滅びる」可能性さえあったのに実行したなんて、もう、悔しいやら悲しいやら・・・でもアメリカをここまで追い詰めたのは日本のせいでもあるんですよね。

 科学者ブライアン(遠藤純一)の娘シェリル(矢島祐果)はバークレー大学に進学し、広島出身の被爆二世タカハシ(高草量平)と出会い結婚します。数十年後、娘のお葬式に参列するため、90歳になったブライアンははじめて日本を、広島を訪れます。原爆をつくったアメリカ人が、広島の被爆者と出会い、言葉を交わすことになるのです。タカハシ以外は全員黒い仮面をかぶっていました。

 観客が固唾をのんで見守った、緊張感みなぎる場面でした。私は涙が止まらなくて大変でした。日本人の率直な質問に対して、ウィリアムは歯切れの悪い言葉しか出てきません。ヘルパーのベロニカ(江川泰子)は、自分の祖先はネイティブ・アメリカンで、彼女の祖父のいた村で原爆用のウランが採取されたという驚愕の告白をします。ベトナムで負傷し半身不随となった息子ウィリアム(大島大次郎)の「(戦争で)みな傷ついた。父を許してあげてほしい」という重い言葉もありました。最後はシェリルの娘ハルカ(槙乃萌美)が登場。彼女は黒い面をかぶっていませんでした。英語が話せるからです。祖父と孫娘がはじめて出会い英語で会話し、終幕。最後のセリフが聴こえなかったのはちょっと残念でした。

 もっともっと加筆して、2時間半~3時間(休憩あり)の戯曲になってほしいと思いました。

【出演】ブライアン・ウッド:遠藤純一 ジョン・マッケラン:平林弘太郎 キース・ジョンソン:山中誠也 グレッグ・シウバ:石田博英 カール・コワルスキー: 福山廉士 ジェシカ:要田禎子 ウィリアム:大島大次郎 シェリル:矢島祐果 タカハシ:高草量平 リンダ:市川奈央子 ニナ:新野美知 マーシャ:田村真紀 リチャード:高木裕平 ベロニカ:江川泰子 ルーシー:あんどうさくら  ハルカ:槙乃萌美
作=畑澤聖悟(劇団「渡辺源四郎商店」店主) 演出=黒岩亮(劇団青年座) 美術=柴田秀子 照明=古宮俊昭 音響=藤平美保子 衣装=竹原典子 演出助手=河田園子 舞台監督=DDR 制作=劇団昴 ザ・サード・ステージ 磯辺万沙子
前売開始=7月14日(水) 料金(全席指定)一般 4000円/高校生以下 2500円 ※高校生料金は当日入場時に学生証をご提示ください。 ※未就学の児童の入場はご遠慮ください。
http://www.theatercompany-subaru.com/3rd.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年09月01日 11:07 | TrackBack (0)