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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年11月29日

青年団リンク 本広企画『演劇入門』11/27-12/13こまばアゴラ劇場

 ハイバイの岩井秀人さんの新作戯曲を映画監督の本広克行さんが演出、というだけで興味が惹かれます。そして原作が平田オリザさんの著書「演劇入門」だというのですから、小劇場ファンとしては必見ですよね。⇒公演公式サイト

 いったいどうやって「演劇入門」を演劇にするのかしら・・・と素直に疑問に思って劇場へ行き、当日パンフレットを開いてビックリ。どうぞ皆さんもビックリしてください(笑)。上演時間は約1時間40分。

 とても珍しい午前公演があります。お子様がいらっしゃる主婦の方にいい時間帯かも。
 ⇒12月2日(木)11:00~ 特別追加公演(特別価格2,000円)

演劇入門 (講談社現代新書)
平田 オリザ
講談社
売り上げランキング: 11983

 ⇒CoRich舞台芸術!『演劇入門

 あらすじは公式サイトに載ってます。観る前に読みたい方はどうぞ。

 青年団の公演も岩井秀人さんの作品も色々観てきた私は、いわゆる小劇場オタクですので、オタク視点でたいそう楽しませていただきました。でも演劇をよく知らない観客が演劇に触れるきっかけ(つまり演劇の入門)としても、楽しめるような導入になっています。実際、終演後のトークの時にわかったのですが、いつものアゴラ劇場の客層よりも小劇場フリークの観客が少なかったと思います。

 劇中劇が連続する構造になっていて、役者さんは複数の役を瞬時に切り替えながら、色んな種類の演技をします。上演される劇中劇のジャンルが多様で、演じる役も変わるし、観客に話しかけることもあります。また、最初から最後まで筋の通った1つの物語が、時おり劇中劇を浸食します。複雑で見ごたえがありますが、これは役者さんは、かなり、大変・・・。ジャンルの異なるお芝居をダイジェストで次々と演じることで、役者さんの技術や個性の差がよくわかる状態になっていると思います。見かたによっては俳優品評会ともいえる、サバイバルな作品じゃないでしょうか(笑)。

 出演者全員が青年団の劇団員ですが、それぞれに違った演技手法を持ってらっしゃるのだなと思いました。もちろん得意・不得意もありますよね。特に○○○○役は複数の方が順番に演じていきますので、比較せざるを得ないと思います。上手い下手ではなく、どの役者さんの演技が自分好みなのかがよくわかりました。私は鄭亜美(ちょん・あみ)さんの爆発力というか、感情と声が一体となったパワーに魅せられました。

 ここからネタバレします。

 岩井秀人さんが初めて演劇を体験してから、しゃべり言葉の演劇(=現代口語演劇)の作り手になるまでの実体験が、そのままストーリーになっています。“岩井秀人”が登場して、初めて出た市民劇の稽古場(七五調の翻訳劇)、大学の演劇学科の授業風景(清水邦夫作『朝に死す』)などを、外側から眺めながら解説するのです。岩井さんご自身にとっての“演劇入門”を見せつつ、古いスタイルの演劇から現在よく上演されている演劇への変遷としてとらえることもできます。色んな意味で“演劇入門”な公演になっているんですね。

 『東京ノート』の舞台が現れた時は演劇史の勉強をしている気分(笑)。『東京ノート』の家庭教師と元女子高生の「妊娠告白」場面を2種類(古屋隆太&中村真生、山内健司&荻野友里)観せてもらい、その後、平田オリザ人形(志賀廣太郎さんが操ります)がダメ出しをします。よくできた人形でした(笑)。平田さんが休憩15分の間にその場で寝るのも実話でしょう。

 まさか岩松了さんの『月光のつゝしみ』を青年団の役者さんで観られるとは!!岩井さんの処女作にして代表作の『ヒッキー・カンクーントルネード』は、兄を山本雅幸さん、妹を鄭亜美さんのペアで。そして最後はなんと、ハイバイ公演『』の家族全員が集合した修羅場をたっぷり上演。配役は父:古舘寛治、長男:島田曜蔵、長女:川隅奈保子、長女の夫:永井秀樹、次男:古屋隆太、次女:荻野友里。
 これらについては、私はどうしてもオリジナルと比べざるを得ず、真っ白な気持ちで観ることはできませんでした。初めてチャレンジするには手ごわい戯曲ばかりでしょうから、役者さんはとっては大きな挑戦ですよね。

 1本通った筋とは、岩井さんと実父(志賀廣太郎)との対立関係でした。『て』を観た父が「やっぱわかんないわ」と言って、2人は微笑みあって(?)終幕。あそこまで赤裸々に見せても通じ合うどころか、とりつくしまもない人間関係の絶望的な現実。でも作った舞台を観てひとことでも会話が交わせたことに、希望は見つけられると思いました。また、演劇を観て「わかんない」という感想を持ってもいいんだ、ということでもありますよね。


 ≪終演後のトークセッション≫
 出演:本広克行 君塚良一(映画監督、脚本家・放送作家/『踊る大捜査線』脚本)

 君塚さんは本広さんのお薦めの舞台をどんどん観に行かれているそうです。最近面白かったのはあいちトリエンナーレでのヤン・ファーブル作品、『自慢の息子』『葬送の教室『ガラスの葉』『異邦人』とのこと。通ですねー!

 君塚さんが色んなお話をされた中で、この作品を“役者殺し”の舞台だとおっしゃっていて、その言葉自体は色んな解釈ができると思いますが、私も同感でした。

出演:山内健司 志賀廣太郎 永井秀樹 川隅奈保子 島田曜蔵 古屋隆太 古舘寛治 山本雅幸 荻野友里 桜町元 鄭亜美 中村真生
原作:平田オリザ 脚本:岩井秀人(青年団演出部/ハイバイ) 演出:本広克行 美術:杉山至 照明:岩城保 音響:中村嘉宏 音響操作:井川佳代 舞台監督:中西隆雄 演出助手:鹿島将介 フライヤーデザイン:京 (kyo.designworks) 写真:momoko japan Web・広報協力:SAL Corporation Inc. (株)クロト 制作:野村政之 堤佳奈 仲田佳世 芸術監督:平田オリザ 企画制作:青年団/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 協力:(株)ロボット 主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 平成22年度文化庁芸術拠点形成事業
11月28日(日)19:00の回 ゲスト:君塚良一さん(映画監督、脚本家・放送作家/『踊る大捜査線』脚本)
11月29日(月)19:30の回 ゲスト:山内ケンジさん(CMディレクター/城山羊の会 主宰)
【発売日】2010/10/09【前売・予約・当日共に】一般:3500円 学生・シニア:2500円 高校生以下:1500円*全席自由・日時指定・整理番号付*学生・シニアの方、当日受付にて学籍・年齢を確認できる証明書をご提示ください。*本公演は芸術地域通貨ARTS(アーツ)をご利用頂けます。*未就学児童はご入場いただけません。
http://engeki.motohiro.com/
http://www.komaba-agora.com/line_up/2010/11/motohiro_kikaku/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年11月29日 02:11 | TrackBack (0)