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2010年12月05日

新国立劇場演劇研修所第4期生試演会②『かもめ』12/03-05新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇研修所第4期生の試演会②はチェーホフの『かもめ』を西川信廣さんが演出されます。上演時間は約2時間45分(途中休憩15分を含む)。4期生関連エントリー⇒1、

 『かもめ』は色んな演出で拝見してきましたので、いつもそれらと比較して観ることになりますが、大好きな戯曲だし、何度観ても発見があります。ダブルキャストですので初日(Aバージョン)と千秋楽(Bバージョン)を拝見。

 俳優学校の生徒の発表会ですが、スタッフワークが豪華で、演技も真摯で正直で好感が持てるものでした。新国立劇場小劇場での『かもめ』がA席2,500円 B席1,500円ならお得だと言える公演だったと思います。

【4期生の出演予定】
 試演会③:『マニラ瑞穂記』作:秋元松代 演出:栗山民也
  2011年1月9日(日)~11日(火)
 修了公演:『美しい日々』作:松田正隆 演出:宮田慶子
  2011年2月25日(金)~27日(日) 

 ⇒CoRich舞台芸術!『かもめ

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 ロシアの静かな湖のほとり。裕福な地主の娘で女優志願のニーナ(佐藤真希)は、芸術の革新を夢見て作家を志す恋人トレープレフ(扇田森也)の舞台に立つ。そこには彼の母親であるアルカージナたちが集っている。そのなかのひとり、アルカージナ(斉藤麻理絵or田島真弓)の愛人トリゴーリン(趙栄昊)と出会うニーナ。やがて人気作家の彼を慕い始めたニーナは、その後を追ってモスクワへと旅立つのだった。そして2年の時間が流れる-。
 ≪ここまで≫

 灰色を基調とした抽象美術。色調は灰色、白、銀色、ところどころ薄い蛍光の黄色。部屋の壁やドアに見立てられる四角い木枠(板状ではない)を移動させて場面転換します。舞台上部には銀色の棒で数枚の紙を突き刺した形状のオブジェ(?)が、天井から何本もつり下がっています。紙にはアルファベットのような文字が書かれていて、どれもクシャクシャッと折り目がついています。

 開場時間からビートルズなどの有名ポップスのロシア語版などが元気に流れて、ものすごく意外というか、奇抜な選曲。若い俳優と等身大の『かもめ』を目指すという演出意図でしょうか。音楽は私の好みではありませんでしたが、全体的には戯曲に忠実で、会話を大切にし、正統派のストレート・プレイの演技を重要視した演出だったと思います。
 初日はさすがに演技がこわばったような場面も多かったですが、千秋楽は作品として全体が充実。カーテンコールでは拍手がなかなか鳴りやまず。第4幕では(感情移入して)涙している観客も多数いらしたようです。

 長い、長いセリフを1人でずっとしゃべり続ける時は、一つ一つの言葉の意味をしっかり伝えずに上滑りしながら流れてしまいがち。でも研修生はそうはならず、言葉を大事に、細やかに、意味と気持ちを伝えてくださいました。初日は小さいことを大事にしすぎて、大きな流れがプツプツと止まっているように感じたところもありましたが、千秋楽では気にならなかったです。

 ダブルキャストなので仕方がないことですが、やはり1つの役をずっと続けて演じられた方々の演技が、ずいぶんと良くなっていたように思います。4ステージみっちり出られると変わるものですね。男性は2役(シャムラーエフとヤーコフ)を交互に演じる2人(白川哲司さんと原一登さん)だけがダブルキャストで、女性は1人(ニーナ役の佐藤真希さん)を除いて全員がダブルキャストでした。

 ここからネタバレします。セリフは不正確です。

 致し方ないことではありますが、年配の男性役(ソーリンとドールン)は無理をしてるように見えてしまいました。ソーリンはリューマチなので杖を突いており、たまに車椅子が必要になるお年寄で、ドールンは女性にモテまくりの人生を送ってきた50代の産婦人科医です。体の動き、立ち姿、居住まいなどにもう一工夫欲しかったですね。初日に比べると千秋楽では改善が見られました。

 第3幕の終わり、アルカージナがトレープレフと再び決裂、そしてトリゴーリンを尻に敷いた後、ニーナとトリゴーリンが最後に会う場面で、情緒的なK-popっぽい曲がけっこうな大音量で流れました。トリゴーリンが思いっきり恰好をつけて髪を右手でかきあげ、笑いを誘います。千秋楽では爆笑でした。ここは音楽と演技がバッチリ合っていました。東京デスロックの演出みたい。トリゴーリン役の趙栄昊さんは無駄にゆらゆらと動いたりせず、堂々としていて安定感抜群。相手の言葉を聞いて、受け取って、考えてから自分の言葉を発するのが自然で説得力があります。

 アルカージナを演じたのは斉藤麻理絵さん(A) と田島真弓さん(B)。斉藤さんはロビーでの一人芝居朗読劇での“花江さん”役の印象も強く残っています。試演会①も今回も、ユーモアのセンスが光りました。観客と大らかにコミュニケーションできる方ですね。田島真弓さんは斉藤さんほどパワフルではなかったですが、“国立劇場の舞台に立ったことのある女優”の気品が感じられました。

 ニーナが実家を出てから2年後を描いた第4幕が両日とも素晴らしかったです。第3幕までに嘘のない細やかな感情をコツコツと積み上げてきたから、様変わりした2年後の場面に重みがあるんですよね。特にトレープレフ(扇田森也)とニーナ(佐藤真希)の再会と別れの場面は出色でした。ニーナに「鍵を閉めて!」と言われて全速力で鍵を閉めてまわるトレープレフが可愛らしくて、可笑しくって仕方なかったです。真っ正直な行動が滑稽に見えるのが、お芝居のだいご味だと思います。

 改めて戯曲から発見できたこともありました。トリゴーリンは自分が「情景描写しか書けない」ことをわかっていたし、トレープレフは「大事なのは形式じゃない」と気づきながら「自分は何がしたいのかわかっていない」ことも自覚していました。2人の作家の対比をじっくり味わえました。

 ニーナがすがすがしい顔つきで「あの人(トリゴーリン)を愛してるの」「私は女優。やりたいこともわかってる」と言います。千秋楽では佐藤真希さん演じるニーナの将来が明るいものに見えて、“佐藤さんのニーナ”が誕生したように思いました。
 トレープレフはニーナの愛を勝ち取れなかったから自殺したのだろうと思っていたのですが、何をやるべきかわかっていない自分にも絶望したんでしょうね。というか、何もかも彼女のためだったのでしょう。みすぼらしい姿になったニーナが既に自分を追い越してしまっていることも、ショックだったんだろうと思いました。第1幕から4幕まで、さまざまに変化し続けるトレープレフを演じたのは扇田森也さん。特に作家になった後(第4幕)の落ち着きと静かな闇を感じさせる演技に引きつけられました。

【出演:演劇研修所第4期生 Aキャスト:3日6時半&4日1時 Bキャスト:4日6時&5日1時】アルカージナ:斉藤麻理絵(A) 田島真弓(B) トレープレフ:扇田森也 ソーリン:竹田雄大 ニーナ:佐藤真希 シャムラーエフ:白川哲司(A) 原一登(B)  ポリーナ: 仙崎貴子(A) 土井真波(B) マーシャ:木原梨里子(A) 日沼さくら (B) トリゴーリン:趙栄昊 ドールン:今井聡 メドヴェヂェンコ:安藤大悟 ヤーコフ:原一登(A) 白川哲司(B) 料理人:土井真波(A) 仙崎貴子(B) 小間使:田島真弓(A) 木原梨里子(B) 小間使:日沼さくら(A) 斉藤麻理絵(B) 歌:山田大智(オペラ研修所第12期生)
【作】A.チェーホフ【翻訳】池田健太郎【演出】西川信廣【美術】長谷川未和【照明】立田雄士【衣裳】中村洋一【音響】福澤裕之【舞台監督】梅山茂【研修所長】栗山民也 演出部:野口岳大 制作助手:井上舞子 大道具:俳優座劇場舞台美術部(安藤宣弘) 小道具:高津映画装飾美術(中村エリト) 衣裳:東京衣裳(阿久津真与) 制作:新国立劇場
A席2,500円 B席1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000407_play.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年12月05日 22:02 | TrackBack (0)