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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2010年12月19日

はえぎわ『ガラパコスパコス』12/17-29こまばアゴラ劇場

 ノゾエ征爾さんが作・演出・出演される劇団はえぎわの新作です。ノゾエさんのことは舞台や映画に出演されているのをよく拝見していますが、劇団公演は初見。副題は「進化してんのかしてないのか」です。※タイトルが『ガラパコス』から『ガラパコスパコス』に変わったそうです(当日パンフレットより)。

 面白かった~!!役者さんに魅せられて声を出して笑って、壮大なテーマに引きこまれて。私的にはメルマガ号外発行まであと1歩、でした!
 The Japan Timesの記事を読んで感じたんですが、『ガラパコスパコス』は海外でも通用する作品だと思います。上演時間は約1時間50分。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ガラパコスパコス

 ≪あらすじ≫
 遊園地などで派遣ピエロの仕事をしている太郎(坂口辰平)は、ものすごく冴えない若者。ある日、太郎は腰のまがった老婆(井内ミワク)と出会った。2人は太郎が一人暮らしをしているアパートで共同生活を始めるが、老婆は老人ホームから勝手に抜け出してきており、家族やホームの職員が捜索中だった。
 ≪ここまで≫

 おそらく開演後10分ぐらいで、ホロリと涙が出そうになったんです(早すぎやろ私)。演出にしてやられた、というか・・・どうぞ劇場でお確かめ下さい。

 こまばアゴラ劇場には珍しい大人数の群像劇で、狭い空間に次々と個性的な人物が登場します。職場の上司の横暴、老人介護の実態、夫婦の不仲など、登場する市井の人々の日常はシビアですが、ちょっとしたコンテンポラリー・ダンスのような身体表現や自立した役者さんの知的な演技で、わははと笑える悲喜劇になっています。ノゾエさんの笑いのセンスはすごいな~。

 本筋には関係のない(関係させる必要はない)、無駄と言ってしまってもいい人物やエピソードがけっこうあるのですが、その無駄さがむしろ人間らしくて、愛らしくて。最後には作品全体が人類の進化、生命の循環を表すような、壮大な世界になりました。

 ここからネタバレします。

 緑色の板に囲まれた何もない舞台。上手には下から上に引き上げて開くタイプの、倉庫にあるような扉。壁、柱、床が黒板になっていて、役者さんがチョークで絵や文字を描き、描かれたものから意味や空気、風景が立ち上がります。最初はメルヘンチックなオルゴールの音楽が流れる無言劇でした。太郎がチョークで書いた線を少しだけ消して、線の内側(=家)にまちこを入れた時、涙が出そうになりました。すっかり演出の術中にはまって、すさんだ現代のおとぎ話に入り込みました。

 太郎は周囲の反対を押しきって、認知症が進行していくまちこを介護しますが、まちこは徐々に太郎のこともわからなくなり、結局ホームに引き取られます。2人だけの隔離されたユートピアは崩壊。
 「ボレロ」が流れる中、太郎はまちこにピエロのメイクを拭ってもらいます。やがてピエロの衣裳も脱ぎ、背広を着て、外の世界へと出ていきます。彼の背後ではそれまでに登場した人々が、人間の一生や人類の進化をあらわす無言劇(マイム?)やダンスをしていました。人間の誕生、老い、そして死。グルグルと回り、繰り返す命。太郎もまちこも、なぜか決してバスに乗れない女も、“無駄な登場人物”も、全員がこの世界の参加者です。

 「ボレロ」で十分にメッセージは受け取れたので、「We are the world」はなくても良かったな~。面白かったですけど(笑)、説明過多に感じました。「ボレロ」(全員がバスに乗ったところ)で終わっていたら、メルマガ号外を出していたと思います。

 “無駄な登場人物”の代表格は英語しか話せない隣人(竹口龍茶)でしょう。ネットオークションで買ったドライヤーをすごく気に入ってたんだけど、そのコンセントから感電して死んで(?)しまいます。あんなに「誰かの役に立ちたい!」と言ってたのに、結局なんの役にも立たずに。てかそもそも英語しか話せないようには絶対に見えないし!(笑)

 英会話だけで字幕もマイムもないシーン、最近よく遭遇します。演じる側も観客も英語能力が上がってきたのかしら。初日もかなりウケてました。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:ノゾエ征爾(作・演出・出演) 斎藤拓(ドラマターグ) 徳永京子(演劇ジャーナリスト)

 けっこう辛口の徳永京子さんが、感動のあまり息が上がっているようなご様子!
 徳永「ノゾエさん、凄いものを作っちゃったなと。」

 脚本が完成したのが本番2週間前ぐらいだったようで、ノゾエさんもドラマターグの齋藤拓さんも初日はまだ完成作品ではないという認識だったようです。でも私は十分満足でしたね。部分的にはおぼつかなさもあったと思いますが、役者さんがしっかり舞台上で自立して、劇の世界を立ち上げて見せてくれました。

出演:町田水城(派遣会社の上司) 鈴真紀史(太郎の同級生の柱谷緑) 滝寛式(特別養護老人ホームスタッフ) 竹口龍茶(英語しか話せない隣人) 踊り子あり(まちこの孫) 川上友里(まちこの娘/バスにいつも乗れない女) 鳥島明(特別養護老人ホームスタッフ) 井内ミワク(“まっちゃん”こと徳盛まちこ) ノゾエ征爾(太郎の兄) 富川一人(太郎の兄についてまわる耕介) 山口航太(緑の夫、柱谷先生) 星野美穂(太郎の兄の嫁) 金珠代(バスの運転手) 笠木泉(新入社員・渡) 坂口辰平(ハイバイ)(木村太郎) *チラシ掲載キャストの鈴木雄大は諸事情により降板。
作・演出:ノゾエ征爾 舞台監督:田中翼 舞台美術:袴田長武(+鴉屋) 音響:井上直裕(at Sound) 照明プラン:関塚千鶴(ライオンパーマ)  照明オペ:田畑智 衣裳:セオキョウコ(bodyscape theatre) 小道具:田中県 宣伝美術:康舜香 WEB:いのくちあきこ ドラマターグ:斎藤拓(青年団制作部) 演出助手:磯崎珠奈 制作:Little giants 企画・製作:蝿極 提携:(有)アゴラ企画/こまばアゴラ劇場
一般発売開始:2010年11月13日(土)AM10:00 全席自由 前売3,000円/当日3,300円 高校生以下:1,500円 学生・65歳以上:2,000円
24日、25日は、番外公演「ガラパコス~退化してんのか?~」を上演
終演後のトークのゲスト:17日19時:徳永京子さん(演劇ジャーナリスト)/18日19時:宮城聡さん(演出家、ク・ナウカ シアターカンパニー理事長、静岡県舞台芸術センター芸術総監督、アジア舞台芸術祭プロデューサー)/19日14時:吉田恵輔さん(映画監督。「机のなかみ」「純喫茶磯辺」「さんかく」)
http://haegiwa.net/next/22/


※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年12月19日 14:46 | TrackBack (0)