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2010年12月31日

【稽古場レポート】新国立劇場演劇研修所4期生試演会③『マニラ瑞穂記』12/21新国立劇場Dリハーサル室

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マニラ瑞穂記

 新国立劇場演劇研修所の4期生試演会③の稽古場に伺いました。試演会②が今月初旬に上演されたばかりで、修了公演が2月に上演されますので、4期生は毎月連続で3公演に出演することになりますね。

 『マニラ瑞穂記』は1964年に発表された秋元松代さんの戯曲。俳優養成所の発表会などではよく上演されているそうですが、一般公演はあまりなかったとのこと。入場無料ですので、この機会にぜひ!演出は研修所長の栗山民也さんです。

 ■新国立劇場演劇研修所4期生試演会③『マニラ瑞穂記』
  2011年1月9日~11日@新国立劇場Aリハーサル室
  ⇒ご予約はこちら。入場無料(要事前申し込み、先着順)。
  ⇒CoRich舞台芸術!『マニラ瑞穂記

 ≪作品・公演紹介≫ チラシより
 演劇研修所第4期生の三回目の試演会は、秋元松代作の「マニラ瑞穂記」を上演します。演出は、研修所長でもある栗山民也。
 本戯曲は、戦後三好十郎の戯曲研究会に入り、底辺の民衆の魂の救済を民間伝示に仮託して描いた『常陸坊海尊』や『かさぶた式部考』などの代表作で知られる作者が一九六四年に発表した作品です。ここには、重厚な作風、テーマであると同時に、研修生が舞台を通じて学ぶのにふさわしい方言を含めた美しくも説得力を必要とする言葉遣い、台詞が散りばめられています。また、明治三十一年から三十二年、独立革命に揺れるマニラの大日本帝国領事館を舞台に、日本人青年とからゆきさんが悲しい物語を展開、あの時代を生き扶いた人々のエネルギーを、まさに時代を超えて同世代の研修生が正面から向き合い、どう感じ、舞台で表現するのか、試演会ならではの舞台です。
 ≪ここまで≫

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左から吉田さん、栗山さん、坪井さん

 私が伺ったのは12/21(火)の14:00から18時10分頃まで。最初に第3幕、次に第1幕(その1)を2度通しました。演技が中断されることはなく、役者さんはシーンの最初から最後までを演じます。演技中に栗山さんが気になったこと、変更すること等を演出助手の坪井彰宏さんに小声で伝え、坪井さんがそれをノートに書き留めておきます。そして演じ終わったところでまとめてダメ出し(フィードバック)をするという流れ。演出助手は2人体制で、もう1人は修了生(2期生)で女優の吉田妙子さん。私が観た日はプロンプターをされていました。研修所の先輩として研修生の演技の相談などにも対応されているそうです。
 演出家の言葉を聴いている研修生の皆さんは、つま先から頭のてっぺんまでの全身が耳になったように集中しており、一直線に演出席に向かう何かが目に見えるようでした。

 『マニラ…』の舞台は明治31年、1898年のフィリピンの首都マニラにある大日本帝国領事館。スペインの植民地支配に対する独立革命が起こっており、マニラは3年越しの内乱状態にあります。ドイツがスペインを後押しし、アメリカがフィリピン側に付いて、フィリピンがアメリカの属領になることを防ぐために(建前かもしれませんが)、日本もその中に入ろうとしている一触即発の状況です。
 四方から客席が囲む正方形のステージで、出演者は360度さらされることになります。衣裳や家具などは具象ですが出はけ口が多数ありますので、おのずと抽象的な世界も開かれていきそうです。
 
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 『かもめ』を観たばかりだったので、まず4期生の皆さんの変身っぷりにわくわくしました。カタカナのロシア名で呼びあっていた若者たちが日本人として登場し、着物を着て方言を話します。稽古見学の前に台本を読んで伺ったところ、配役は背格好などの外見と演技の個性から想像していたのとピッタリでした(特に男性)。ダブルキャストも1組だけですから、発表会というよりは本格上演向きのキャスティングになっているのではないでしょうか。
 栗山「僕は演技の上手い下手では選ばないんですよ。(配役の判断材料は)見た目や演技の質感、声とかでね。」

 役者さんは自由に動いているように見えますが、出はけ口や立ち位置、その他の重要なポイントで、いつ、どのタイミングで立つのか、座るのかなどが決められています。また、栗山さんは台本にはない動作、しぐさを細かく追加されていました。例えばあくびをする、机を叩く、「エイ!」と声に出して蹴りを入れる、袖をつかまれたら、それを力づくで離すなど。登場人物の性格や経験が視覚的にわかりやすくなったり、その場で起こっていることの厚みを増す効果があるように思います。あらかじめ決まっている動きをなぞっているように(振付のように)見えてはいけませんから、微調整にも余念がありません。
 栗山「日常生活でも“なんとなく”動くことなんてないでしょう。それじゃ夢遊病だよ(笑)。行動には必ず何か目的がある。」
 栗山「入ってから見る、という動作だと(わざとらしい)芝居になっちゃう。入りながら、見て。」

【写真↓左から:今井聡さん、竹田雄大さん、佐藤真希さん】
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 日本からフィリピンに渡った“からゆきさん”(⇒こちらが詳しいです)が多数登場し、女性のほとんどは娼婦役です。娼婦はま役を演じる斉藤麻理絵さんは、爆発力満点だった『かもめ』のアルカージナ役をさらに上回る迫力!ニーナ役だった佐藤真希さんは、おそらくアルコール中毒なのであろう、少々おつむの弱い娼婦いち役。涙をほろほろと流しながら、罵声を放ち、床を転がる姿に目が釘付けになりました。嘘のない悩みっぷり、取り乱しっぷりにもらい泣きしそうになります。でもそこに栗山さんのダメ出しが。
 栗山「彼女は(この場面では)泣かないでしょう。(ここにいる娼婦は)泣こうと思ったも、歯を食いしばるんじゃないかな。すでに涙が枯れるほどに泣いた女たちなんだから。」
 む~・・・やはり厳しいですね。その場に生きている人間として存在することと、戯曲の世界を背負った特定の人物であることが、両立されなければなりません。栗山さんは各登場人物についてはっきりとした解釈を持ってらっしゃるようです。

 男性が演じる役は、出自や立場が全く異なる、非常に複雑な関係にある男たちです。フィリピン独立軍に加勢をしにやってきた岸本(竹田雄大)と平戸(今井聡)、大勢の女性を娼婦として売りさばいてきた女衒(ぜげん)の秋岡(趙栄昊)、そして領事館に駐在する高崎領事(原一登)や古賀中尉(白川哲司)をはじめとするエリートたち。特に秋岡と高崎は天と地ほどに地位が離れていますが、海外で長年生き伸びてきた者同士、何でも言い合える親友のような間柄です。
 栗山「秋岡と高崎の2人の場面は最高の会話だよね。2人ともが豪快で、互いに深いところまで入っていく。男同士の気持ち良さがあるんだな。」
 栗山「10倍ぐらい豪快に!声を大きくするんじゃないよ、精神的にだよ。野望の大きさを見せて。」
 栗山「その演技はテレビの大河ドラマみたいだよ。相手に伝わってない。現代劇だから、会話がしたいんだ。」

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 演じるのは同じ日本人ですが、それぞれに明確な使命や目的を持って外国に渡ってきて、人生のがけっぷちで必死に生きています。個性がはっきりしていて強い主張もありますので、きっと今の日本の普段の生活ではあまり見かけないタイプの人々でしょう。役を自分のものにするまでに、内面的に大きな飛躍が必要かもしれません。
 栗山「さっきの演技には信念がない。セリフが説明になってるよ。フィリピン独立運動に参加する日本人には『国は自国の力によって立ち上がらなければ。外国が介入することじゃない』という主張がある。オウム真理教だって信者は正しいと思って行動したんだよね。だから(ここで活動している)彼らにも、迷いがないんだよ。」

 ただ、100年以上前の外国が舞台とはいえ、強国が弱国を食い物にしようとし、国同士のいさかいに庶民が巻き込まれる構図は今も同じです。
 栗山「ここで起こっていることは沖縄の米軍基地問題と同じ。基地の場所を辺野古だ、普天間だなどと、沖縄に住んでない人たちが言ってるでしょう。」
 激しくぶつかり合う明治の日本人を、平成の20代の俳優が生き生きと体現してくれたら、100年前のマニラと現在の東京がつながる気がします。またこの戯曲には男と女の根源的な対立も描かれていますから、物語の設定や人物像を超えたところにある闘いも見せてくれることと思います。

【写真↓左から:白川哲司さん、日沼さくらさん】
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【出演:新国立劇場演劇研修所(台本順)】秋岡伝次郎:趙栄昊 高崎碌郎:原一登 古賀中尉:白川哲司 岸本繁:竹田雄大 平戸健三:今井聡 梶川弥一:扇田森也 もん:日沼さくら はま:斉藤麻理絵 いち:佐藤真希 タキ:田島真弓 くに:仙崎貴子 シズ:木原梨里子(9日15:00&10日18:00)/土井真波(10日13:00&11日13:00) さく:土井真波(9日15:00&10日18:00)/木原梨里子(10日13:00&11日13:00) 淡路書記官:安藤大悟 斉藤多賀次郎:梶原航(5期生) ウィルソン大尉:片桐レイメイ(5期生) 長七:藤本強(5期生) 米兵ジミー:林田航平(5期生)
脚本:秋元松代 演出:栗山民也 美術:伊藤雅子 照明:田中弘子 音響:吉澤真 衣裳:中村洋一 ヘアメイク:鎌田直樹 方言指導:藤木久美子 演出助手:坪井彰宏 吉田妙子 舞台監督:三上司 製作助手:井上舞子 山田智恵 研修所所長:栗山民也 制作:新国立劇場演劇研修所
入場無料(要・事前申し込み、先着順)
「マニラ瑞穂記」チケットお申し込み:http://www.e-get.jp/enquete/AnswerClt?KID=nntt&KCD=81
http://www.nntt.jac.go.jp/training/drama/

稽古場写真撮影:mao
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2010年12月31日 18:42 | TrackBack (0)