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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年02月03日

チェルフィッチュ『ゾウガメのソニックライフ』02/02-15神奈川芸術劇場・大スタジオ

 新作が発表される度に世界ツアーになる、岡田利規さん率いるチェルフィッチュの新作初日に伺いました。上演時間は約1時間30分。全席自由で整理番号順の入場になりますので、劇場へはお早めにどうぞ。

 この作品が一般¥3500なのかー・・・高校生以下割引¥1,000、U24チケット¥1,750、シルバー割引¥3,000。チケット代はかなり安いと思います。やっぱり公共ホールの企画だからなんでしょうか。ありがたいですね。
 技術のある俳優と、試みの意味でも演劇空間の面でも洗練された演出には、お金で等価交換できるはずのない芸術的な価値があると思います。

 ツイッターでプレイガイドは完売という情報が流れていましたが、イープラスでは買えるようです。
 劇場会員に登録すればこちらでもネット購入可能。セブンイレブン発券です。⇒神奈川公演のタイムテーブル

 ⇒CoRich舞台芸術!『ゾウガメのソニックライフ

 前半しばらくはどう見ていいのかわからなくて、暖房も強く効いた場内で寝不足もあってウトウトしてしまったりもしたんですが、中盤以降に持ち直しました(←私が)。
 普段着の若い役者さん5人が、飾らない存在感で舞台上にいます。普通に歩いたり座ったり、じーっとただ立っていたり、観客に「今私は~~しています」と語りかけたり。わかりやすい定型的な動きや派手な演出は取り立てて見つけられないのですが、最後には5人の男女が壁画に描かれた太古の人類に見えました。おとぎ話のファンタジーもありましたし、ギリシア悲劇の荘厳さも香りました。

 心身が一致したいわゆる対話場面はなかったと思います。観客への直接会話や動画生中継、演じる役人物がすり変わって行って、時間と空間が自在に伸張・収縮、拡大・縮小します。宇宙にも飛んだし、地中深くにももぐりました。自分の細胞の中まで、遠い遠い祖先まで、おのずと想像力がおよびます。それでいて、おどけた劇中劇もありました。演劇でやれることの百貨店みたい。百貨だと少なすぎるかな。
 照明や音響はいつもながらハイセンスです。変化のさじ加減がものすごくさりげなくて、じわじわと体に効いてきて官能的なほど。

 ゾウガメはのろまな動物でソニックというと音速ですから、岡田さんご自身がおっしゃるように(チラシかどこかで読みました)タイトルに遅さと速さが含まれています。ゾウガメは大昔から存在していますので古代、歴史をイメージします。つまりタイトルには気が遠くなるほど長期にわたる時間の蓄積と、今その瞬間に感じる時間の経過(速度)、そして生活・日常(=ライフ)が示されているんですね。まさにそれがあらわされた舞台だったと思います。「昔はよかった」とか「未来に期待する」とか、そんな気持ちも具体的な過去も未来も、すべてが現在にある、と思わされました。

 ここからネタバレします。

 現代の若い男女のカップルの話ではあるのですが、男性が女性になったり(その逆も)、男性を演じてたはずが突然女性に戻ったり、本人だったのが他人になったり。

 旅行に行きたいと何度も言っていた女性(佐々木幸子)は、地中深くもぐっていく電車の中で、パーティーに誘われます。クラブで出会った男性(山縣太一)との話が面白かった。もともとは男性(足立智充)が通勤電車に乗ってたはずなのに、女性に変わってたのも凄かったです。
 女性が部屋に帰ったら彼氏が250歳になっていて、しばらく介護をしますが亡くなります。床に転がったイスを年老いた彼氏に見立てていました。イスが可動式の木製ベンチの上に乗せられてスーっと上手から下手へと動いたのは、遺体が霊柩車で運ばれたんですよね。シビれるわ。

 白いダイニングテーブルとイス2脚を、役者さんが少し離れた場所から見つめるだけで、無数の家族の食卓が想起されました。250歳の彼氏が死んだ後、女性(佐々木幸子)は右手のひとさし指と中指を柱の上に乗せて、2本の足で細い金属の棒をつなわたりするように、指を進めていきます。人生の歩みを示しているようでした。棒の行き止まりまで来ると、違う女優さん(松村翔子)が天井を見つめます。あぁこの人(指)は死んで天国に行ったんだなと思いました。

 ラグビーのゴールが舞台の床にグサっとつきささったような形で、金属(?)の柱が立っています。柱に赤い(オレンジの?)照明がぬぼーっと当たって、舞台全体が赤く染まったとき、人類が地獄の業火に焼かれているように感じました。劇場付属のオレンジ色の細い柱も一緒に赤くなり、もとある空間を生かした照明でした。ロフト裏にも照明が仕込まれていて、うす~く光って動く電車をあらわしていたのも素晴らしいですね。さりげなさが尋常じゃない精度だと思います。

≪神奈川、茨城、埼玉、山口、ほか≫ 
出演:山縣太一、松村翔子、足立智充、武田力、佐々木幸子
脚本・演出:岡田利規 舞台美術 : トラフ建築設計事務所 照明 : 大平智己 音響:牛川紀政、大久保歩 (山口情報芸術センター[YCAM]のみ) 舞台監督 : 鈴木康郎、弘光哲也、尾崎聡 (山口情報芸術センター[YCAM]のみ) 企画 : precog 企画制作 : 神奈川芸術劇場、水戸芸術館ACM劇場、山口情報芸術センター[YCAM] 宣伝美術 : 菊地敦己 (bluemark)、小金沢健人 特設ウェブデザイン : 石黒宇宙 (gm projects) 特設ウェブ編集 : 中島良平
【発売日】2010/11/13 全席自由・入場整理番号付3,500円 高校生以下割引¥1,000 U24チケット ¥1,750 シルバー割引 ¥3,000
http://zougame.chelfitsch.net/
http://www.kaat.jp/pf/zougame.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年02月03日 12:03 | TrackBack (0)