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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年03月05日

ホリプロ『ザ・シェイプ・オブ・シングス~モノノカタチ~』02/10-24青山円形劇場

 ポツドールの三浦大輔さんが初めて海外戯曲の演出に挑戦されました。男女のカップル2組が登場する、現代を舞台にした4人芝居です。原作はアメリカの劇作家ニール・ラビュートさん。映画脚本でも有名な方なんですね。
 主役は昨年の「NHKのドラマ「ゲゲゲの女房」で大ブレイクした向井理さん。ポツドールの米村亮太朗さんが出てるのが個人的に嬉しいです。上演時間は約2時間20分、休憩なし。

 向井理さんはものすごい人気なんですね。当日券は抽選販売のようですが、行列ができていました。パンフレットは後日、舞台写真入りのものが新しく販売されるそうで、劇場ロビーで予約を受け付けていました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ザ・シェイプ・オブ・シングス~モノノカタチ~

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。
 アダム(向井理)はさえない大学生。ずっと気になっていたジェニー(川村ゆきえ)にも結局告白はできず、彼女は自分の親友フィリップ(米村亮太朗)と婚約をするまでの仲となっていた。
ある日、美術館の警備のアルバイトをしていたアダムは、美しい芸術大学院生のイブリン(美波)に出会う。イブリンはペンキのスプレー缶を持ち、巨大な人物像にあるモノを描こうとしていた…。
 この出会いがきっかけでふたりは付き合い始め、アダムはイブリンから色々とアドバイスされるようになる。髪型を変えたら?もっと痩せて鍛えたら?アダムは愛ゆえの言葉と捉え、彼女の言う通りに実行していく。外見も振る舞いも垢抜け、洗練されていくアダム。いつしかそんな彼をとりまく周囲の環境までもが変化していた。
 しかし、イブリンにはある目的があったのだ・・・。
 ≪ここまで≫

 オープニングのアダムとイブリンの出会いの場面で、まずホっとしたというか、「スター目当てのファンへのサービスばかりが目立つ舞台」ではないことがはっきりとわかり、嬉しくなりした。
 翻訳戯曲ですが身近でリアルな生々しさがあって、ポツドール作品のような面白さもありました。三浦さんがポツドールでもしばしば描いている顔の美醜がテーマでもありますし、痛々しいぐらい滑稽な若者の痴態というか、みんなが無言で「タブー」にしていることを、次々にあらわにしていきます。ラブシーンもいっぱいあってドッキドキ! 

 あらすじにあるとおり、アダムは最初はかなりダサイ、キモイ大学生なんですが、徐々にスマートになっていきます。それでも姿勢は曲がったままで中身が「さえない」状態が保たれてるのがいいですね。向井理さんが向井さんとしてではなく、ちゃんとアダムとして舞台にいらしたのだと思います。
 結末は残酷で、衝撃的でもあって、「お前ならどうだ?(どう思う?どうする?)」と強く迫られているようにも感じました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 タイトルの「シングス(Things)」は日本語で「物」ですが、あきらかに「モノ(男性器)」を意味してるんですよね。「モノノカタチ」もそのまんまの意味。冒頭でイブリンは、ダビデ像のような全裸の男性の白い彫像の股間に、赤いスプレーで大きな男性器の絵を描きます。それが最初から最後までずっと舞台上にあります。「真実を覆う嘘」「当事者以外には見せることのない性行為」「本音とたてまえ」などを象徴しているように思いました。

 アダムを誘惑し、彼を自分の狙いどおりに変身させたイブリンの本当の目的は、彼を自分の芸術作品として発表すること。これまでに彼女がしたこと、彼に起こったことのすべてを300人の聴衆の前で発表する場面では、アダム、ジェニー、フィリップの3人ともが実際の客席に座っていました。ジェニーとフィリップは(あきれて・怒って)途中で退出。アダムは最後まで残って、発表を終えたイブリンのところに行き、2人の最後の会話が始まります。
 名前も、年齢も、星座も、リストカットの跡も、何もかも全部嘘だったと告白するイブリン。アダムは彼女にとって「素材(モノ)」だったとも。アダム(=モノ)のカタチ、つまり外見が変容していく様と、それによって中身(性格)も変わるのを実証する芸術作品なんですね。“芸術家”を自称するイブリンに怒りが沸きました。でもたしかに、非常に面白い発表でもある・・・んですよね。

 イブリンが去り、残されたアダムは2人のベッドでの行為を録画したビデオテープを、液晶テレビで再生しようとします。でも画像は出てこず(どうやら私が見た回にミスがあったようですが)。イブリンが「ベッドの中で、お互いの耳元でささやきあったことだけが本当(他は全部嘘)だった」と言ったのを信じて、その瞬間の映像を見たかったのだと思います。大音量の音楽が鳴っていた意味はよくわからなかったですが、唯一の真実(?)を探してアダムがもがき苦しむ姿が痛々しくて、胸が詰まりました。でもこの悩みって、古代から変わらないのかも。アダムとイブリンは「アダムとイブ」のことで、すなわち私たち人類という意味なのかな。彫刻が作られた昔から現在まで、そして男と女の闘いの歴史がこれから先もずっと続いていくイメージが浮かびました。

 天井から吊るされた大きなディスプレイが、ちょうど彫像の股間を隠す位置で止まるのが素晴らしいですね。葉っぱの形の石膏で隠されていた“モノ”を、イブリンが赤いスプレーで上書きして表側に露出させ、今度はテレビで隠します。テレビ局や新聞社など大手メディアによる事実の隠蔽なども思い浮かべました。また、テレビに映ったこと(ビデオも)が「本当」だと思ったら大間違いだよ、というメッセージとも。
 イブリンは「ささやきだけは本当だった」と言いましたが、それも嘘かもしれません。芸術だろうが恋愛だろうが、人間の行いはすべて「主観」によるもので、他人と共通するものなんて実は全くないのかもしれない。それでも人は、他人を信じ頼らざるを得ない。だったらもー「私ならどうするか」しかないんだと思います。突き詰めて自分で考えて、自分で決心して行動すること。私はアホでいいな。自分にとっての「本当」だけで突っ走りたいです(笑)。そこが甘いんでしょうけど。

 不満なく家路についたんですが、よーく考えてみると、アダムがイブリンのことをそんなに好きだとは思えなかったですね。彼女のイニシャルのアルファベットをお腹(腰?)に刺青しちゃうほどには。あと、フィリップとジェニーも婚約するほどには見えなかったな~。発せられたセリフそのもののリアリティーのおかげでふむふむと受け入れていましたが、体と感情はもっともっとホットになっても良かったんじゃないでしょうか。

"The shape of things" by Neil Labute
≪東京、茨城、新潟、大阪、広島、大分、福岡≫
出演/向井理、美波、米村亮太朗、川村ゆきえ
作/ニール・ラビュート 演出/三浦大輔(ポツドール) 主催:テレビ朝日/ホリプロ 提携:こどもの城 青山円形劇場
【発売日】2010/12/04 8,400円(全席指定・税込)
http://www.horipro.co.jp/usr/ticket/kouen.cgi?Detail=156
http://www.2011theshapeofthings-japan.com/
http://www.aoyama.org/schedule/s2011/enkei/2shape/shape.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年03月05日 14:13 | TrackBack (0)