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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年07月03日

クリスティーヌ・ルタイユール演出『ヒロシマ・モナムール』07/02-03舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」

 SPAC「ふじのくに⇔せかい演劇祭2011」もとうとう最終週(⇒記者発表)。私は会期中3回通いました。先々週の公演のレビューはアップできてません・・・すみません。

 『ヒロシマ・モナムール』はフランスの女流作家マルグリット・デュラス(1996年没)の映画台本を舞台化した作品です(⇒デュラス作品のレビュー)。2009年9月にスイスで初演。青年団の太田宏さんが日本人男性役で主演されています。

 演技も演出も言葉もあまりに素晴らしくて、上演時間の半分以上は涙流れっぱなしだったかも・・・。カーテンコールで「ブラボー」の声が上がりました。当然ですね。上演時間は約1時間45分。

 ※映画は『二十四時間の情事』(1959年、監督:アラン・レネ)という題名で日本でも公開されています。

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 ⇒CoRich舞台芸術!『ヒロシマ・モナムール

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 「彼女」は32歳のフランス人女優。平和についての映画の撮影のために来日する。映画は完成間近で、彼女はもうすぐフランスに帰ることになっている。フランスでは結婚しており、子どもも二人いる。「彼」は日本人の建築家。やはり結婚していて、40代。二人がどんな状況で出会ったのかは分からないが、お互いをとても強く、本当に心から求め合った。しかし、24時間後には別れを迎えることになる……。
 ≪ここまで≫

 まず演技が(私的に)パーフェクト。「彼」と「彼女」はそこに生きて、愛して、苦しんでいました。だまって立っている、歩いている姿を見つめるだけで胸が詰まります。例えば太田さんが無言で客席に向かって舞台中央を真っすぐ歩いてくるだけで、涙があふれてきました。そんな調子でずーっとダダ泣き。

 いくら両思いでも結ばれ得ない、不可能な恋はあります。でも体を焼き尽くすような思いは一瞬でも本物。その美しさは言葉にあらわせないほどです。だから燃え上がるのを無理して抑えなくてもいいと私は思います。ただし、どんなに激しい恋も必ず人間は忘れるんですよね。忘れることができるし、思い出すこともできる。そんな心と体の自由を、私たち誰もが持つ権利があるはずです。それを禁じる、ふみにじる、なきものにする力と闘わなければならない。

 デュラスさんの言葉のひとつひとつが、突き刺さるように届きました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 暗闇にうっすら浮かび上がる全裸の男女。完璧に愛し合ってることがわかります。そして男が第一声。「君はヒロシマで何も見なかった」女が答えて「いいえ、ヒロシマで全てを見たわ」・・・もー冒頭でいきなり涙ポロポロですよ・・・。私たちはどんなに努力しても他人のことを完全にわかることは絶対にできない。しかも原子爆弾を落とされた広島の町、広島の人々のことを、フランス人女性にわかるわけがない。それを覚悟の上で、出来る限りの勉強と想像をして、互いにつながろうとする姿。尊いです。

 ヌヴェール(女の故郷の地名だが女の呼称となる)は若い頃の初恋の人を思い出します。彼はドイツ兵で、若くして戦死しました。敵国の兵隊を愛したために家族は村八分にされ、自分は地下室に閉じ込められます。やがて母の勧め(というか命令)でヌヴェールを出てパリへと移り、彼女は故郷には全く帰っていません(おそらく10年以上)。
 でも映画撮影のために訪れた広島で、ヒロシマ(男の名字)との激しい愛を得て、ヌヴェールは封印していた記憶の蓋を開け、いつか故郷に帰ってみようという気持ちになるのです。もちろんドイツ兵への愛も復活します。そして「あの恋がなかったら、ヒロシマを愛することもなかった」と。
 ヌヴェール役のヴァレリー・ラングさんの独白ですべて説明されます。凄かった。ラングさんご本人だし、ヌヴェールだし、詩人だし。俳優の体が入れ物になるってこういうことなのかと思いました。

 日本に残ってくれと懇願するヒロシマに、ヌヴェールは「ノン(いいえ)」と何度も拒絶。でも最後は、本当に彼女は去ったのか、2人が結局どうなったのかがわからない演出になっていました。

 特に印象にのこったセリフ。 
 女「狂気は英知に似ている」
 女「(フランスに戻ったら子供たちを)他人の故郷を愛するように育てるわ」

 太田宏さん、めちゃくちゃかっこいいしセクシーだし。2001年のreset-N『キリエ』を思い出しました。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ メモ程度です。
 出演(左から):宮城聰 ヴァレリー・ラング、太田宏、ピエール・ラマンデ 通訳:芳野まい

 ラング「紆余曲折ありましたが、こうして日本でこの作品を上演出来たことに感謝します。SPACのスタッフは、なんと15時間連続で働いてくれた。私の俳優人生の中で、こんなによく働く、高い技術力のあるスタッフに会ったことはありません。」

 ラマンデ「広島、戦争を描いてはいますが、大事なのは男女の恋物語であること。」
 ラング「この舞台はヴァレリーと宏の出会いなのです。正確な時代考証が重要なのではなく。」

 ラング「この作品では、俳優は空間や光そのものになる。俳優として登場人物を演じるのではない。言葉を通じて、1つの経験を生きること。デュラスの言葉を。」
 ラマンデ「言葉が大切なのです。」

 ラング「演出家のクリスティーヌと長らく『ヒロシマ・モナムール』を舞台化したいと考えていた。クリスティーヌがある舞台で太田さんを見た時、彼がヒロシマ(←役名)だと確信した。つまり俳優あっての演目です。」※しかも太田宏さんの名前は偶然にもオオタ・ヒロシ(太田川とヒロシマ)。

 観客「こんなに深く誰かを愛した経験はありますか?」
 太田「あります。この舞台でラングさんを本気で愛しています。」
 ラング「はい、本当です!彼は私を愛しています。」

 ラング「デュラスは文学的な面においても新しい言語を作った重要な作家。映画はフランスでは大ヒットして非常に有名。日本でももっと知られてほしい。」

 太田「劇中で歌う“椰子の実”は演出家に『ここで歌を歌って!』と言われてとっさに出てきた歌です。歌ううちに、この作品に合っているなと思いました。」

 ※えらそうな言い方ですみませんが、通訳さんがとても優秀な方だと思いました。ありがとうございました。

SPAC「ふじのくに⇔せかい演劇祭2011」6/4(土)~7/3(日)
"Hirosima mon amour"
出演:ヴァレリー・ラング(Valerie Lang) 太田宏(Hiroshi Ota) ピエール・ラマンデ(Pier Lamande)
演出・装置:クリスティーヌ・ルタイユール(Christine Letaileur) 作:マルグリット・デュラス(Marguerite Duras) 演出助手:ピエール・ラマンデ 舞台:マチュー・ペゴラロ 照明:ステファン・コラン 音響:フレッド・モリエ 映像製作:ジェローム・ヴェルネ ツアーコーディネーター・通訳:横山優 字幕:奥平敦子 翻訳:清岡卓行 トーク通訳:芳野まい 舞台監督:浜村修司 照明:川島幸子 神谷伶奈 音響:青木亮介 音響機材コーディネーター:水村良 舞台:市川一弥 映像機材:武石進衛 衣裳:岡村英子 制作:河尻桂子 高林利衣
一般大人4,000円/大学生・専門学校生2,000円
http://www.spac.or.jp/11_fujinokuni/hiroshima

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年07月03日 01:16 | TrackBack (0)