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2011年07月08日

サンプル+三鷹市芸術文化センター『ゲヘナにて』07/01-10三鷹市芸術文化センター 星のホール

 三鷹市芸術文化センター“太宰治作品をモチーフにした演劇”の第8回は、松井周さん率いるサンプルの新作です。上演時間は約1時間45分。

 本当に、「ゲヘナ(地獄)」でした…最後の5分はもう、どう言っていいやら…おおげさでなく開いた口がふさがらなくて、終演後しばらくは劇場内を見回しながら、席から動けず。これは褒め言葉です。

 8月のワークショップや来年2月の新作公演のオーディションを受けようと思ってる方は、サンプルおよび松井さんはこんな作品を発表する団体だってことを知っておく必要があると思います。7月10日が千秋楽ですのでお見逃しなく。いや「見る」というより「体験」ですね。※刺激の強い表現が多々ありますので、R18以上だと思います。

 ロビーで岸田戯曲賞受賞作の『自慢の息子』が販売されています。私は以前の松井さんのトーク企画にて購入。

自慢の息子
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松井 周
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 ⇒CoRich舞台芸術!『ゲヘナにて

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 自分を太宰治の生まれ変わりだと信じている男がいる。
 男は無理心中で一人だけ死なせてしまった恋人、母、妻の渾然一体となった「女神」の復活が近いことを周囲に訴えて旅に出る。
 男は、友人の幸福な家庭で、ゴミ捨て場で、墓場で、人や物や死体に話しかけながら「女神」のしるしを目の当たりにする。
 しかし、誰も男の言うことを信じてはいない。
 
 やがて、男はしるしに導かれるようにゲヘナ(地獄)に到着する。
 ≪ここまで≫

 今回も劇団名サンプルにふさわしい、さまざまな例示だったような。全体の印象は展示、見本市、博物館、テーマパークなどなど・・・。何もかも開ききって裏返しになるほど剥き出しの、世界?「世界」と漢字にするより、記号的で本質が曖昧な「セカイ」の方がしっくり来るかも。

 太宰関連のキーワードもちらほら見つけられましたが、あまり自分にひきつけて考える気分にはならず。ストーリーが気にならないので(というより、もう頭しっちゃかめっちゃかで理解不能)、劇場全体で起こる事象をただただ体感しました。

 星のホールの演劇作品では、これまでにも色んな劇団が創意をこらした空間演出を見せてくれていますが、この『ゲヘナにて』ほどに使い切った作品を私は観たことがありません(それほど本数は観ていませんが)。照明や壁などの劇場機構を、その機構に備わった機能ごと利用しているのが凄い。どんなにアブノーマルな行為が舞台上で繰り広げられても、“星のホール”がドンと鎮座し続けるので、いやがおうにも現実から離れられません。でもその現実が、虚構と一体になるのです。

 ここからネタバレします。

 途中で客電が点灯していきなり演技中断。「続行します」の声で次の場面へ。ちゃんと4幕劇になっていたのかな。このせいで観客は物語の虚構に没頭しつづけられない。

 男と女も、生者も死者も、この世もあの世も合体するように同時に重なって、同じものとして存在。混在というより合体なんですよね。キメラみたい。

 劇場備え付けの立派な照明も、床置きの可愛らしいランプも、ゆらりと点滅を繰り返します。空間がズルリとゆがむような錯覚が何度もありました。自分が全く経験・目撃したことのないような化学反応が起こり、重なるはずのない空間(たとえば現実と死後の世界)がぶつかって交わって燃えて消滅し、またよみがえる。その繰り返しのような・・・でも時間は断絶します。
 急勾配の舞台の裏側から糸のついた風船がふわ~と上がる、そのゆっくりとしたスピードが恐ろしくってシビれました。何もない、のに、ある。何もかもあるのに、何もない、地獄。

 牧神の衣装のニジンシキーが踊る最後の場面は、ニジンスキーの最期と重ねているそうです。真正面に近い席だったので、真ん前で刺激が強かったです・・・。もー唖然、です(苦笑)。

太宰治作品をモチーフにした演劇 第8回
出演:辻美奈子(サンプル・青年団) 古舘寛治(サンプル・青年団) 古屋隆太(サンプル・青年団) 奥田洋平(サンプル・青年団) 野津あおい(サンプル) 渡辺香奈(青年団) 岩瀬亮 羽場睦子
脚本・演出/松井周 舞台美術/杉山至(+鴉屋)  照明/木藤歩  音響/牛川紀政  衣装/小松陽佳留(une chrysantheme) 舞台監督/谷澤拓巳 演出助手/郷淳子  ドラマターグ/野村政之 英語字幕/門田美和  宣伝写真/momoko matsumoto(BEAM×10inc.) 宣伝美術/京(kyo.designworks) WEB・総務/macky 制作:三好佐智子(quinada)、森川健太(三鷹市芸術文化振興財団) 企画:森元隆樹(三鷹市芸術文化振興財団) 製作:サンプル・quinada 協力/青年団、レトル、マッシュ 至福団  助成/アサヒビール芸術文化財団、公益法人セゾン文化財団 主催/ (公財)三鷹市芸術文化振興財団
【休演日】7/4(月)【発売日】2011/04/17【料金・全席自由席・日時指定・整理番号付】一般前売:3000円/一般当日:3500円/高校生以下:1000円(前売・当日共/当日要学生証)
http://www.samplenet.org/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年07月08日 11:33 | TrackBack (0)