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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2011年07月17日

東京デスロック『再/生』07/16-24 STスポット

 キラリ☆ふじみの芸術監督である多田淳之介さん率いる劇団東京デスロックが、5年前の初演では途中退出者も出た問題作(私はとても感動したんです。⇒過去レビュー)を再演。全く違う作品になっていました。STスポットにぴったり。ツアーの地域ごとに違う印象になりそうですね。上演時間は約1時間10分強。

 いわゆる演劇というよりはコンテンポラリー・ダンスに近いと思います。演技、演出、照明デザインともに洗練されて、コンセプチュアル・アートようでした。現代アート作品(オブジェなど)だと思って観ていいのではないかと思います。

 横浜では中野成樹+フランケンズの俳優(=フランケンズ)が出演するタダフラ版も上演されます。東京デスロック版とは全然違うそうですので、ご興味ある方はご予約をお急ぎください(ステージ数が少ないので)。 

 ⇒CoRich舞台芸術!『再/生

 目の前で、生きて、息を弾ませて、動く、俳優たち。その揺らぎようのない現実を見せつけて、爆音の音楽とともに過去と現在を照射し、むき出しに対比させます。
 STスポットの床に白いシートを敷き詰めた、ほぼ真っ白の空間。カラフルな照明が映えます。白い壁が金属のような質感に見えたり、とても洗練されたデザインでした。

 ストーリーは全くないと言っていいと思います。説明のセリフなどもありませんので、観客一人ひとりがその人なりに感じ取って考えることになります。私の場合は今の日常に直結。そこから地球、宇宙、何千・何万年後の世界へと想像が広がりました。東京デスロックの作品はいつも、目の前の俳優の息づかいや汗といったミクロな視点から、無限の時空へとつながるんですよね。

 初演『再生』も斬新な演出・演技でしたが、ドロ臭さがいい意味で演劇らしかったんです。でも今回の『再/生』はポーンと1レベル上がったというか、違う次元に進んだように思いました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。曲の順番も曖昧です。

 間野さんが「今は幸せ。じゃあ昔に幸せじゃなかった時があったかなと考えてみる」といったセリフを3度繰り返します。他の役者さんも登場して、ダンスのようにあるポーズを取って静止し、倒れて、歩いて、また静止…といった動きの繰り返し。倒れておき上がるのは人間の生死と命の循環に見えます。

 サザンオールスターズの「TSUNAMI」(⇒Wikipedia)がかかり、一気に震災と原発事故に頭が直結。そこから最後までずっと震災以前と以降の日常を比較する視点で観ることになりました。放送自粛の理不尽について考える中、「TSUNAMI」は2回繰り返されました。相対性理論「ミス・パラレルワールド」でまさにパラレルに想起させられる過去と現在。

 なぜか役者さん皆で「夜に焼肉を食べに行って終電で帰る」という日常をセリフで表現。ちょうど福島県産の牛肉から暫定基準値以上のセシウムが検出されたばかりです。「ライス3個」と注文していましたが、この秋以降はお米の産地も気をつけなければなりません。ほんの4ヶ月前までは、何の心配もなしに気楽に焼肉屋さんに行けていたのに。

 浜田真理子「ラストダンスは私に」が流れて涙腺決壊。5年前の初演でも流れていたんです。あの時セーターを着て踊っていた石橋亜希子さんが、今日は半そでのTシャツで笑っている。口から血を流していた夏目慎也さんが、上手手前でジャンプしている。役者さんが激しく動くのは初演も再演も同じなんですが、世界は一変してしまっています。

 ダンス向きのポップな音楽(インストゥルメンタルの音楽については曲名わからず)にのって役者さんが激しく踊ります(静止のポーズも含めて)。1曲終わるごとに全員一緒に倒れますが、しばらくの無音の後、また同じ曲が流れだし、再び踊り始めます。陰鬱な気持ちにさせるニュースに疲れ、近い将来への希望を持ちづらい東京に暮らす私ですが、倒れても起き上がり、無心に立ち上がって全身を使って踊る人たちを見て、それでもここで生きる、命を燃やすという前向きな気持ちを、いや、本来どんな人間にも備わっているはずの生命力に気づかされました。3回目の繰り返しでは、フラフラになっても踊る役者さんのことを笑えるようにもなりました。

 音楽は毎度(たぶん)プッツリと切れ、無音の空虚な時間が訪れます。聴こえるのは役者さんの息切れ。音楽に気持ちよくさせられても、終わればその夢から覚まさせられます。それがとても良かった。連続するとどうしてもストーリーを見つけたくなっちゃうんですよね。事象ごとに点在させることで、現代アートのようになったのではないかと思います。

 最後は役者さんがてくてく歩いて上手客席奥へと退場。残ったのは舞台中央奥のラジカセ(※ラジカセではなくスピーカーでした。7/19加筆)です。無人の舞台で照明のパノラマ。暗転すると、スピーカーの青色の電源が2つ、とても小さく灯っていました。今から何万年も経って人類が滅亡しても、廃炉になった原発(=スピーカー)は放射性物質を垂れ流しながら残っているというイメージでした。

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 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:多田淳之介 大谷能生(批評家、音楽家)

 大谷さんは「もう1回巻き戻して繰り返してほしい」と強気の要望(笑)。

 多田さんによると焼肉のエピソードについては「(みんなの)幸せ」を表したとのこと。私の放射能汚染という想像とは全く無関係でしたね。感想はバラバラだと思います。

 上演中何度も時計を見て「早く帰りたい」と思ってそうな観客もいらっしゃれば、トークで「ずっと座ってるのが苦痛(自分も踊りたかった)」とおっしゃった観客もいらっしゃいました。

 劇中使用楽曲↓capsule「WORLD OF FANTASY」

≪神奈川、京都、静岡≫
出演:夏目慎也 佐山和泉 佐藤誠 間野律子(以上東京デスロック) 石橋亜希子(青年団) 坂本絢
演出:多田淳之介 照明:岩城保 舞台監督:中西隆雄 演出助手:橋本清 宣伝美術:宇野モンド 制作:服部悦子 助成:文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業) 財団法人アサヒビール芸術文化財団 
【休演日】7月20日(水)【発売日】2011/06/04 料金:(日時指定・全席自由・整理番号付) 〈東京デスロック ver./多田淳之介+フランケンズver.共〉 一般/前売(事前入金)…2,500円 予約(当日精算)…2,800円 当日…3,000円 学生・シニア(65歳以上)/前売(事前入金)…2,000円 予約(当日精算)…2,300円 当日…2,500円 お得な前売チケットをご用意いたしました。公演中止の場合に限り、チケット料金を払い戻しいたします。
http://deathlock.specters.net

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年07月17日 14:23 | TrackBack (0)