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REVIEW

2011年10月16日

劇団ひまわり『カラフル』10/16-30シアター代官山

 森絵都著「カラフル」は1998年に出版され、実写映画にもアニメ映画にもなった小説です。ご縁があって劇団ひまわりによる舞台版再演を拝見しました。上演時間は約2時間。A、Bのダブルキャスト公演で、私が観たのはAキャストでした。

 “劇団ひまわりといえば子役”というイメージだったのもあり、最初は高校演劇っぽいな~と感じたのですが、中盤移以降のハードな展開に引き込まれました。主人公の秘密が明かされ、メッセージを受け取った時には感動しちゃいました。

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森 絵都
文藝春秋
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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 死んだはずの僕は、神様の気まぐれで再び生きることになってしまった。
 しかも中学生の小林真として甦り、その家族と一緒に生活をしながら、生前自分が犯した罪も見つけろという難題つきで。
 僕は生前の記憶をすっかり失っているというのに。
 家族はそれぞれに奇妙な問題を抱えているし、果たして僕は小林真として生きていけるのだろうか?
 ≪ここまで≫ 

 役者さんの説明過多な演技は私の好みではなかったですが、ダンスや身体表現を多用した演出が面白く、ストーリーにも引き込まれました。例えば満員電車に揺られる場面は動きのバリエーションもステージングも工夫されていて、直線的なストーリー・テリングに陥らない演劇的なふくらみがありました。中学生の少年の目を通して、きれいごとでは済まない日常を少々露悪的に、コミカルに描いているのも、今の時代にフィットする緊張感があったように思います。舞台化にあたり原作小説をカット・脚色したのであろうオリジナル台本は、きっとよく練られた末に完成したのだろうと思いました。

 10代の出演者の親御さんが大勢客席にいらっしゃるでしょうに、こんなに刺激のある内容でいいのかな・・・と思ったりもしたのですが、私が保守的すぎ、神経質すぎだったみたい。今の若者とそのご両親はもっとススンデルんでしょうね。

 シアター代官山に伺ったのは2005年以来、6年振りでした。長年存続している劇場ですから、劇団のゆりかごのような、温かい場所なのかもしれませんね。所属俳優のショーケース(発表会)のレベルに収まらないお芝居を観せていただけたので、美術や照明、衣装、小道具などのスタッフワークにあまりお金をかけていない(と明らかにわかる)のは、個人的にはもったいない気がしました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

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劇場入り口の看板

 死んでしまった主人公が生前に犯した罪を思い出すために、睡眠薬を大量摂取して自殺した14歳の少年、小林真の体を借りて現世に戻ってきます。真(まこと)の家庭で暮らし、彼の両親と兄をはじめ学校の先生や同級生らと接して、まずは真の生きる社会の現実と向き合うのですが、それがけっこう厳しい道のりでした。母親は不倫中だし、クラスではいじめられるし・・・自殺するだけの理由があるんですね。さらには好きな女の子が援助交際中と発覚。

 母が不倫相手のフラメンコ教師と踊る情熱的かつ官能的なダンスシーンは、周囲のアンサンブルもエロティックに踊りますので、それを見つめる主人公の姿が痛いです。でもフラメンコに罪はないんですよね。恋もセックスも人間ならではの営みで、フラメンコ同様に美しいもののはず。矛盾と複雑さをダンスで表現するのが素敵です。

 主人公が、思い寄せる女の子と援助交際相手のサラリーマンが入ったラブホテルの一室まで行ってしまうのも、痛い・・・しかもラブホでは、主人公が彼女にプレゼントした口紅で、むりやり唇を赤く塗られてしまいます。口元が赤く汚れたまま、公園で他のクラスメートの女子生徒を襲おうとする場面では、彼が自暴自棄になって欲の化け物に変身してしまった瞬間を描いていました。
 援助交際をしていた女の子は、後で本当に化け物となって登場します。おぼつかない足取りで、毛皮のコートにブランドもののバッグやスカーフなどを山盛りくっつけた大きな衣裳をまとい、公園の場面の主人公のように口元は大々的に汚く、赤く塗られていました。欲におぼれて体をお金と交換してしまった少女の成れの果ての姿を、衣裳で象徴的に示していました。口紅の使い方がうまいですよね。

 やがて主人公は、真が描いた深い海に泳ぐ馬の油絵を見つめる内に、自分こそがこの体の持ち主、真だったと気づきます。彼の罪とは真(=自分)を殺したことだったんですね。わかる人は最初からわかっていたかもしれませんが、私はこの時まで主人公の正体に全然気づかなかったので(笑)、すっかり心をつかまれてしまいました。主人公(=真)が馬の帽子を被って光に向かって駆けていく演出にも魅せられました。
 他人の家に“ホームステイ”していた主人公が、再び真として生きることを許された時、誘導役だった天使プラプラが「これからも“ステイしてる”と思って生きて行けばいい」とアドバイスします。私たちの体は、命は、天からいただいた借り物なのだという意識を持って、感謝して大切に生きて行くこと。ベタだとか教育的でダサイとか思われがちな、とても大事なことを、フィクションの魔法で力強く、ストレートに伝えてくださったと思います。
 
【Aキャスト出演】小林真:野本ほたる 天使プラプラ:近藤大介 唱子:内田千晶 ひろか:高宗歩未 真の父:齋藤秀貴 真の母:水野里香 真の兄:増田圭太 レポーター:孕石きよ 天使:岩崎あやめ、木内文香、栗山りさ、竹本実加 医者:福島靖夫 先生:石原智彦 フラメンコダンサー:豊田豪 愛人:青山義典 アンサンブル(通勤客など):依田賢矢 坂場元 小野晃義 本澤未来 渡部新 下垣内大介 野本蓉子 岩田麻衣子 山本あかね 石山あつ子 佐藤菜央
作:森絵都「カラフル」文春文庫刊 企画協力:文藝春秋 脚本:横山一真 演出:山下晃彦 音楽・音響:和田啓 振付・ステージング:KALAMA WAIOLI 美術:尼川ゆら 衣裳:関野公子 照明:重松希代子 演出助手:鬼ヶ原優 舞台監督:今野忠明 プロデューサー:砂岡不二夫 主催・製作:劇団ひまわり
8月27日(土)販売開始 前売・当日・全席指定 4,800円(税込)
http://www.himawari.net/stage/colorful/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年10月16日 22:53 | TrackBack (0)