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2011年12月23日

新国立劇場演劇研修所第5期生試演会②『牛山ホテル』12/22-24新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇研修所第5期生の第2回目の試演会です。岸田國士作『牛山ホテル』を、文学座の西川信廣さんが演出。上演時間は約1時間50分休憩なし。

 5期生は試演会①、②と修了公演の会場がすべて新国立劇場小劇場なんですね。贅沢! 修了公演『The Art of Success』は来年2/24-26に栗山民也さんの演出で上演されます。

 ⇒CoRich舞台芸術!『牛山ホテル

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 仏領印度支那の港町にある牛山よねの経営するホテルは日本人のたまり場。そこに出入りする、外国人女性との結婚に破れた商社マンと娼婦との純日本的な自己犠牲の愛の姿を主軸に、外地の活路を求めた日本人群像を浮き彫りにする。
 ≪ここまで≫

 舞台中央奥にきれいな空の絵があります。それ以外には何もなかったステージに、次々と大道具のパーツが並べられて場面転換していきます。
 『牛山ホテル』を拝見するのは初めてで、とても面白かったです。“外地の日本人”が登場するので、4期生の試演会②『マニラ瑞穂記』がすぐに思い浮かびました。娼婦が登場するのも同じですね。

 1929年に書かれたお芝居で、日本語とはいえ、どこの方言だかわからない上に、何を言っているのかもわからない難解なセリフが多いです。でも役者さんは、舞台上で無理をせず(余計に目立とうとせず、嘘をつかず)、自分だけの世界に閉じこもることもなく、周囲とともに自然に存在して、相手の言葉をちゃんと聞いて言葉を発されていて、最初から最後まで集中して観られました。ただ、全体的に大人しいというか、客席の方に向いたベクトルが小さい(細い?)ようにも感じました。修了公演に期待、ですね。

 ホテルの女将よねを演じた山崎薫さんが印象に残りました。舞台で楽に(自由に?)に女将として存在していたように感じました。『ゼブラ』では一番下の四女を演じてらっしゃいましたから、かなり年齢差のある2役に挑戦されたんですね。
 
 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 真壁(片桐レイメイ)と三谷夫人(井上沙耶香)が対決する第四場が良かったです。海外に出て日本人としての一線を超えた男と、日本人としての誇り、常識、身分といったものを守る女。広義では男と女の闘いでもあるんでしょうね。
 娼婦と正妻との立場(地位)の差がこれほどはっきりしているのは、『マニラ瑞穂記』でも描かれていました。三谷夫人の「(日本に戻れば、たとえ不幸になるとしても)さとは普通に戻れる」という言葉は重いですね。今の日本だと・・・「売春婦」と「それ以外」の差は、“暗黙の了解”的な範囲では、この戯曲と同じぐらいはっきりと残っているんじゃないかしら・・・。人間の「体を売る(性的な意味で)」行為をどう受け取ればいいのか、私自身がまだわかっていません。

 年季が明けたさと(岩田結)は、「ここに留まった方がいい」という真壁の助言を聞かずに、(ひどい)父親のいる日本に帰る決心をします。朝早く、彼女は別れの挨拶をしようとホテルで眠る真壁を何度も起こしますが、彼は起きませんでした。重要な時に彼はすっかり寝過してしまうのです。
 さとがホテルの女中と鵜瀞(藤本強)に見送られて出発した後、島内(林田航平)、三谷夫人、真壁の3人がそれぞれ別々に、2階から降りてきて、さとがすでに発ったことを知って、再び階段を上って自室に戻ります。これで終幕。見事な期待外れと言いますか、うまい具合に三段落ちになっていました(笑)。真壁はみじめで不格好です。さとは不憫です(帰国の判断は正解かもしれないですが)。これこそ現実ですよね。真壁がパジャマのまま外に出てさとを追いかけたり、さとが走ってホテルに戻ってきたりして、2人が奇跡的に再会して抱き合ったりしないのです。安っぽいお涙ちょうだいのエンディングでないのが素晴らしいと思いました。

出演:新国立劇場演劇研修所第5期生【三谷夫人(お上品でお高くとまっている):井上沙耶香 藤本さと(真壁の妾):岩田結 石倉やす(フランス人の妾・お行儀が悪い):菊池夏野 牛山とみ(よねの養女・最後にアオザイで登場);北澤小枝子 牛山よね(ホテルの女将):山崎薫 写真師(さとを愛している・片足が不自由):大里秀一郎 三谷(真壁のあとがま):梶原航 真壁(さとを妾にしている・ロオラに襲われる):片桐レイメイ 納富(剣道教師・酒の席で演説):川口高志 島内(商社社員・お人好しでよく殴られる):林田航平 鵜瀞(うのとろ・商社社員・酒の席で暴れる):藤本強】 真壁の妻の仏人女性ロオラ:滝香織(第2期修了生) 金田(袴の日本人男性):宇井春雄(第2期修了生)  新国立劇場演劇研修所第6期生【杉山みどり 石井裕美 森川由樹 横山友香 田部圭介 細川慶太 森下康之 頼田昴治】
作:岸田國士 演出:西川信廣 美術:横田あつみ 照明:鈴木武人 音響:河原田健児 衣裳:中村洋一 舞台監督:野口岳大 方言指導:藤木久美子 所作指導:樋田慶子 ヘアメイク指導:我妻淳子 演出部:飛鳥有紀 岩澤侑生子(第7期生) 制作助手:内山容理子 長川原秀美 大道具:俳優座劇場舞台美術部 森島靖明 小道具:高津美術装飾 宮澤洋行 衣裳:東京衣裳 阿久津真弓 舞台・照明・音響:新国立劇場技術部シアターコミュニケーションシステムズレンズ【米倉幸雄(舞台) 麻生輝樹(照明) 河原田健児(音響) 照沼隆広(大道具) 久村泰代(調整)】 研修所長:栗山民也 制作:新国立劇場
文化庁委託事業 平成23年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業
一般発売日:2011年11月24日(木)10:00~ A席3,000円 B席2,000円 Z席1,500円 学生割引(高校生以下)1,000円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/20000575_play.html
http://www.facebook.com/nnt.dramastudio.tokyo

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年12月23日 23:37 | TrackBack (0)