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REVIEW

2011年12月27日

アトリエ春風舎プロデュースvol.1『若手演出家サミット2011・成果発表会+トークセッション』12/24-25アトリエ春風舎

 ワークショップ・観覧情報として当サイトでご紹介しておりました『若手演出家サミット2011』の、「成果発表会+トークセッション」の3ステージ目(12/25マチネ)を拝見。5人の演出家それぞれの持ち時間は20分。発表終了後に短い休憩をはさんで、演出家5人とサミットディレクターの谷賢一さんによるトークがありました。すべて込みで上演時間は約2時間30分。

 “発表会”なので、個々の作品についてではなく、1つの企画として面白く拝見しました。発表後は演出家の皆さんが率直に語ってくださり、内容にも密度にも満足。5種類の演劇作品、その創作方法を垣間見ることができました。
 ただ、私個人としては悶々とした帰り路でした。俳優って、わかっていたつもりだったんですが、本当に、難しい職業だと思います。

 作品にもその創作手法にも正解なんてないので、私自身が求める演劇を手に入れるために何をすればいいのかを、もっと考えなければと思いました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『若手演出家サミット2011

 5人それぞれに全く違うアプローチの発表を見せてくださいました。演出家およびその仕事を見るという点では満足以上。ありがとうございました。

 役者さんは2チームへの参加が必須なので、2種類の演出を受け、その両方の発表会に出演することになります。「あの作品であんな役だった人が、この作品ではこんな役」と比較できるので、観客は役者さんの変貌ぶりも楽しめます。各作品につき10時間しかお稽古できないので、演技の上手い下手とか、魅力のあるなしの判断をするのは早計だと思います。必ずしもその役者さん(の個性や技能)に合った演出を受けられているわけでもないですしね。それでも合計30人の中で際立って目立つ役者さん、印象に残る役者さんというのはいるわけで・・・俳優業って厳しいですよね。 

 あと、これこそ私の早とちりかもしれませんが、5人の演出家に比べると、役者さんは基本的な演劇の知識が足りていないんじゃないかと思いました。実技における共通言語がなくても、せめて知識を共有できていたら、もっと違ったものになるんじゃないかと。自分のことを棚に上げた発言ですが、自戒も込めて、ここに書いておこうと思います。

 ■柴幸男(ままごと)『来年の新作の練習』

 タイトル通り新作の稽古を見せて下さったようです。俳優が、そのからだ1つで、一瞬で、多くのこと・ものを、作り出していきます。手、脚首、視線のちょっとした動きだけで、こんなにも・・・!あぁ素敵だわぁ演劇って。
 柴さんは俳優と一緒に(=俳優という特殊な技能を持つ人間を使って)、演劇の実験をし続けている研究者なのだなぁと、勝手に感慨深い気持ちになりました。


 ■藤田貴大(マームとジプシー)『まいにちを朗読する』

 電車の路線を示す白いビニールテープを床に貼って、出演者それぞれがアトリエ春風舎までの行き方を説明します。描かれるのは家(滞在場所)から目的地に往復する日常で、共通するのはおばあさんの遺体が東京湾に打ち上げられたという3ヵ月前のニュース。誰かが死んでいなくなっても、平和に、何の影響も受けず暮らしている東京の人々の群像劇となりました。
 最後に全員で5つのポーズ(立ち位置)を何度も繰り返すのが良かった。どんどんスピードが早くなって、次の立ち位置まで行けなかったり、途中で他の人とぶつかったり。予定通りに動いて決めポーズをとるはずが、全然うまくいかないし、同じ動作の繰り返しなのに1度たりとも全く同じようには実行できないなど、たった数分の汗だくの場面で、多くのことを教えてくれました。

 俳優(の人生がつまった身体)に向ける、藤田さんの眼差しの優しさと、それゆえの貪欲さから生まれる厳しさ。トークセッションでも藤田さんのお話に引き込まれました。


 ■船岩祐太(演劇集団砂地)『シーンスタディx12』

 船岩さんが参加俳優に向けて20分間の講義をされました。身ぶりが大きくサービストーク(?)過多なのは観客へのサービスだったのだろうと思います。私は話された内容に大いに納得だったので、そういった装飾なしで聞きたいな~と思いました。
 近代能楽集『班女』を使って稽古されていたんですね。役者さんの演技が変化するのを観たかったな~。
 船岩さんが提案する「演じる役の“設定”を勝手に作ってしまう」ことについて、柴さんはトークで「衝動をねつ造する」とおっしゃっていました。大事なことだと思います。


 ■中屋敷法仁(柿喰う客)『圧倒的なフィクションを求めて』

 ポーズをとりながら元気に歌を歌います。特に意味はないので、お楽しみ会の出し物のようでしたね。演技中にゲームもするので不確定要素が多く、役者さんは笑いをこらえるのが大変・・・というか、そういう仕掛けでした。どうやら毎回振付なども変えているようです。突然「フッキー!」というセリフ(?)を言うのが可笑しかった。
 中屋敷さんは役者さんに「『(観客に向かって)お前、今日俺に会えて超ラッキーだな!』という気持ちでやってください」とおっしゃっていました。私は役者さんのそういう姿勢、大歓迎です。体現できていた方は実際、魅力的でした。

 終了直後に、出演もされていた中屋敷さんが「すみません!」と謝っていたので、私が観た回の完成度は高くなかった模様。「圧倒的なフィクション」を見せてお客さんを「キョトン」とさせるという目的が達成できなかったんでしょうね。たしかに誰も素で笑うことなく最後まで徹底できた方が、良かっただろうと思います。ただ、もし目的達成できたとしても、私はハプニングを観たい観客ではないので、面白いと思わなかったかもしれません。


 ■奥山雄太(ろりえ)『「恩名野(おんなの))中学綱引き部の練習@キャプテンジュンの自宅の居間」の練習』

 奥山さんが過去に上演した作品の一部を上演。衣裳も小道具も揃えて、役者さんはセリフも覚えて演技されていました。ある中学校の綱引き部の部員たちのコメディーですが、私の笑いのツボは刺激されず。私が“笑いたい観客”でないだけなんですけどね。他のチームとの違いを楽しみました。


 ≪トーク・セッション≫ メモ程度です。※以下は私のコメント。

 2日目の3ステージ目となり、演出家の関心事は「演技の鮮度」に向いていました。

 「通すことを大切(=おおごと)にしない。早く慣れるようにする。何度も繰り返して、たるくなってくる状態を、稽古中に通り過ぎる。俳優が寝ててもできるぐらいにしたい。自動再生するぐらいに。80分の芝居を(俳優の)体の中に持つようにする。」
 藤田「この5人の中で自分が一番厳しいと思います。俳優を追い詰めることを常にやる。体のドキュメントのレベルを上げる。体が切実になっていく。(略)とにかく稽古する。本番中も楽日の最後まで稽古する。ダメ出しをこちゃこちゃ言うのは好きじゃない。」
 「僕もダメ出しをするのはやめました。セリフのミスなど小さいことを気にするより、稽古をする。」

 観客からの質問「藤田さんのおっしゃった“体のドキュメントのレベルを上げる”の意味は?」
 藤田「僕の作品の場合、役者がセリフをしゃべるとお客さんは“藤田のセリフをしゃべっている”と最初は思う。でも体に負荷をかけられた役者が息切れをしはじめると(僕は息が好きなんだけど)、その俳優の声が僕のテキストから離れて、オリジナルの声になっていく。だから東京デスロックの多田さんの手法とは違うんです。多田さんは“疲れた俳優の体を見せる”んだけど、僕は俳優に負荷をかけることで、僕のテキストから離れた俳優のオリジナルの声をきかせたい。」

 観客からの質問「将来の夢、野望は?」
 藤田「スパイダーマンになりたい。彼がなぜスパイダーマンになったかというと、蜘蛛に噛まれただけなんです。それ(スパイダーマンに変身する原因)が血液に入っちゃったから。だから絶対に逃れられない。」
 中屋敷「幼稚園をつくりたい。いまの日本人が不幸なのは、演劇との出会い方が間違っているから。たとえば学芸会が面白ければいい。だから僕は学芸会を面白くする。」 ※他の演出家より「今でもできるじゃん!」とのつっこみあり。
 「宇宙の果てまで通用するような作品を作りたい。たとえば数学の公式のようなもの。自分の中から作り出すのではない。それを発見したい。」
 船岩「演劇鑑賞会を復活させたい。自分は下関出身で演鑑で育ったから。」
 奥山「より多くの人に自分の作品を観てもらいたい。自分は“笑い”や“物語”をやっていて、これからもそれは変わらないと思う。たとえば80代になっても、その時代の若者に“古い”と言われない、面白いおじいさんでいたい。」

 観客からの質問「何に最も影響を受けましたか?」
 中屋敷「少女漫画(姉の影響で)」
 藤田「自分の経験」
 「姉」 ※だったような・・・
 船岩「出会った人すべて(さまざまな演出家や俳優など)」
 ※奥山さんの発言はメモしそびれました。すみません。


出演(倍率約4倍の選考を経て選ばれたワークショップ参加者):伊東沙保、今井彩、岩尾祥太朗、上原用子、大石憲、大石貴也、小田尚稔、尾場瀬華子、川島佳帆里、木下毅人、小鶴璃奈(ラフメーカー)、小見波結希、坂井宏充(M・M・P)、菅野智(劇団13月のエレファント)、高橋ちづ、田内康介(オイスターズ)、寺田未来、遠山悠介、中野麻衣(tsumazuki no ishi)、中村梨那(DULL-COLORED POP)、NIWA(ワニモール)、根本大介、藤井咲有里、古木将也、細谷貴宏(ばけもの)、諸江翔大朗、柳内佑介、湯舟すぴか、李そじん、和田冬美
参加アーティスト:奥山雄太(ろりえ)、柴幸男(ままごと)、中屋敷法仁(柿喰う客)、藤田貴大(マームとジプシー)、船岩祐太(演劇集団砂地)サミットディレクター:谷賢一(アトリエ春風舎芸術監督/DULL-COLORED POP) 制作:木元太郎(アトリエ春風舎支配人)/事務局員:おさださちえ(みきかせプロジェクト)、斉藤麻美、成川明生、福岡克彦、南慎介(Minami Produce)、井ノ上羽葉、加藤陽子、菅井新葉、栗田藍/宣伝美術:南裕子(milleu design) 総合プロデューサー:平田オリザ
キックオフミーティング@青山小劇場:1,000円(全席自由・前売のみ) ワークショップの参加費用:6,000円 1コマ見学券:1,000円(全席自由・要事前予約) 10コマ通し券(計10回のWS、すべてをご見学頂ける通し券):5,000円(全席自由・要事前予約) 成果発表会+トークセッション:前売2,000円 当日2,500円 (全席自由)
http://bit.ly/wes2011

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年12月27日 13:25 | TrackBack (0)