2011年09月17日
世田谷パブリックシアター『現代能楽集Ⅵ「奇ッ怪 其ノ弐」』08/19-09/01世田谷パブリックシアター
能・狂言をもとにした前川知大さんの新作です。2009年に大好評だった『奇ッ怪』の第2弾ですね。前作ではメルマガ号外を発行しました。上演時間は約1時間40分。
爆笑につぐ爆笑の内に、じんわりと冷たい空気が流れ込んできます。おこがましい言い方ですが、今、このような作品を上演してくださったことに感謝したい気持ちになりました。
⇒CoRich舞台芸術!『現代能楽集Ⅵ「奇ッ怪 其ノ弐」』
≪あらすじ≫
実家の神社に帰ってきた矢口(山内圭哉)。誰もいないガランとした境内…のはずが、勝手に住みついている男(仲村トオル)がいた。
≪ここまで≫
前回より笑いは多い目、怖さは控え目。短編集の構成は前回と似ていますが、このお芝居が感動的なのは、劇場は神社の機能も果たすのだと示したことだと思います。
お能には死者が主人公となって語る「夢幻能」があります。俳優が死者を演じ、集まった観客(=生者)とともに死者に思いを馳せること。それが演劇の重要な役割の1つなんですよね。笑いが普段よりも尊いものに感じました。
ここからネタバレします。
硫化水素ガスの噴出事故で住人のほぼ全員が亡くなってしまった過疎の農村。
山田(仲村トオル)はおそらく神社にまつられている神様でしょう。山であり田であると名乗ったのは彼が自然そのもの(=神)だという意味に受け取りました。既に死んでいた再開発の業者たち(池田成志&小松和重)をはじめ、矢口には白い面をつけた幽霊たちの姿も見えていました。彼もきっと亡くなっていた(もうすぐ亡くなる)のだろうと想像。
この度の震災であまりに多くの人命が、突然に失われました。『奇ッ怪 其ノ弐』は亡くなった方々そして残された方々の鎮魂の場だったのだと思います。生身の人間が死者とともに祭ること。それが劇場なんですね。
最後は神社が船に見えました。津波に飲みこまれた船、あの世へと旅立つ死者を乗せた船、私たちが乗っている地球という船。
≪東京、新潟、福岡、兵庫≫
出演:仲村トオル/池田成志/小松和重/山内圭哉/内田慈/浜田信也/岩本幸子/金子岳憲
脚本・演出:前川知大 美術:堀尾幸男 照明:原田保 音楽:寺田英一 音響:青木タクヘイ 衣裳:伊藤早苗 振付・ステージング:平原慎太郎 ヘアメイク:宮内宏明 演出助手:谷澤拓巳 舞台監督:福田純平 プロダクションマネージャー:勝康隆 技術監督:熊谷明人 企画・監修:野村萬斎
【発売日】2011/07/02 全席指定 一般 S席6,500円/A席4,500円 高校生以下 一般料金の半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターのみ取扱い、年齢確認できるものを要提示) U24 一般料金の半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定)友の会会員割引 S席6,000円 世田谷区民割引 S席6,200円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2011/08/post_242.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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日本劇団協議会『父が燃える日』09/14-19青年座劇場
日本劇団協議会の「日本の演劇人を育てるプロジェクト・新進演劇人育成公演【劇作家部門】」です。⇒公演公式ツイッター
箱庭円舞曲の古川貴義さんが新劇系のプロデュース公演に新作を提供。演出は青年座の磯村純さんです。出演者にも青年座の方が多いですね。
前日に観た公演とコンセプト(小劇場劇団若手劇作家と老舗劇団若手演出家のタッグ)が似てるので、公演自体を比較する気持ちもありつつ拝見。笑いが絶えない初日でした。装置に驚かされた・・・!(笑)上演時間は約2時間15分休憩なし。
⇒CoRich舞台芸術!『父が燃える日』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
来年、田舎に住む父が還暦を迎える。
不肖の兄弟三人で、定年退職祝いと称し、三泊四日の東京観光家族旅行を企画した。
父の大好きな野球と映画とラーメンを、存分に味わって貰おうというものだ。
森鴎外が寄宿したというホテルの五人部屋に、父、兄、姉、そして僕、あと祖母、
家族水入らずで宿泊する。
母が居ないのは、僕が大学生の時に何も言わず出て行ってしまったからだ。
祖母は誘ってもいないのについてきた。
別に嫌っているわけではないけれど、こういう風に空気が読めないところは苦手だ。
三日目の夜が父の誕生日。
大好きな巨人戦を観た後、ホテルで祝う予定。
ケーキと60本のロウソクとプレゼント、そしてもちろん、赤いちゃんちゃんこも用意した。
思い返してみれば、父からは貰う一方で、何かを返したことはなかった。
尊敬しているというほどでもないけれど、恨んでいるわけでもない。何でもない。
あくまで、ただの、父親だ。
兄が父をどう思っているのか、姉が父をどう思っているのか。
そんなこと聞く機会は無かったし、聞くつもりも無かった。
多分、僕と同じように、「ただの父親」程度の認識だったのではないかと思う。
父は、僕らのことをどう思っていたのだろうか。
実家に帰らず東京で働いている兄と姉。
去年、三度の留年の後に大学を卒業し、そのままプー太郎を気取っている僕。
父は、この旅を喜んでくれるだろうか・・・。
≪ここまで≫
旅行中の家族に次々と降りかかる珍騒動。予想に反して明るいドタバタ喜劇になっていました。装置の工夫もさることながら、王道の笑いを着実に成就させて、いかにも老舗新劇劇団らしい、安心・安定のクオリティーでした。
でも父が全く燃えなかったんですよね。ずっと浮いてる感じ。タイトルロールとも言える父役はテアトルエコーの安原義人さんです。やはり安原さんありきというか、安原に合わせた演出になっちゃったのかな~と想像。安原さんは愛嬌があってコメディーのセンスが光ってて、さすがの貫禄です。でもこの戯曲に描かれていることを深く濃くあらわす方法は取られなかったようです。
次男“僕”を演じた宇宙(たかおき)さんがいつもながらの自然かつ鮮やかな存在感で良かったです。
ここからネタバレします。
森鴎外ゆかりの老舗温泉旅館の客室、が、なんと回り舞台だった・・・!まるでテーマパークのアトラクションみたい!!前から3列目ぐらいだったので、至近距離に壁が来るのがスリリング。舞台になっているのは広い客室の一部分だけなので、役者さんは床が切れた先にも部屋が続いていることを観客に想像させる演技をします。床の切れ目に敷かれ、まっぷたつになって綿が露出してる布団が面白い!仲居さんが半分になった枕を布団の上に置いたのがツボでした(笑)。モンティー・パイソンのごときナンセンスの世界に巻き込まれた感覚でしたね。
長男は「父のために」と言いながら自分の旅行計画を家族全員にむりやり押し付けるタイプで、現在妻が行方不明(つまり逃げられた)。長女はいきなり訪ねてきた恋人(妻子持ちの獣医)を家族に紹介し、妊娠したので結婚すると報告。次男は大学を4年以上かけて卒業したけれど就職先が決まっていません。みんなお世辞にも順風満帆な人生を歩んでいるわけではないんですね。父もまた妻(=母)に逃げられ、浮気もしていましたから血は争えない。
父の還暦祝いとして、長男は母との再会をサプライズのプレゼントにしようとしていました。結果的にそれは大失敗に終わるのですが、最後には父と母が2人きりでじっくり話し合う場面がありました。
息子2人と娘1人が実家から出て行って、母が突然ふらりと失踪したのが8年前。母はなぜか佐渡島にいました。家出の理由は姑(父の実母)の叱責だったとわかります。なるほど子供たちが居なくなって、夫と姑との3人暮らしになるのはキツイよね、しかもあのゴーイング・マイ・ウェイなおばあさんと同居じゃ・・・と、母に同情的な気持ちになりました。
また、公務員事務職の父がかつては医者を目指していたこともわかります。そりゃ娘の恋人の獣医に対して対抗心がわきますよね。自分が昔の浮気相手(=仲居)との間にできた子供を堕胎させたことだけじゃなく、若いころの挫折も思い出すことになりますから。・・・という風に裏事情がわかってくると、ますます疑問に思ったのはこのお芝居全体の軽快さです。あまりに軽すぎやしないかと。いつか古川さんの演出で観てみたいです。
自称コンシェルジュのバイト君(前田一世)が布団に思いっきりジャンプして飛び込んだのに爆笑!あれはありえないって!(褒め言葉です・笑)。そして支配人じゃなくバイトだとばらされた時の気まずい演技が良かったです。あの時ぐらいかな~、じりじりしたシュールな笑いがあったのは。
出演:安原義人(テアトル・エコー)、小豆畑雅一(劇団青年座)、宇宙(劇団青年座)、山本与志恵(劇団青年)、松熊つる松(劇団青年座)、万善香織(劇団青年座)、石橋祐(フリー)、前田一世(青年座映画放送)、名塚佳織(フリー)、塩田朋子(文学座)
作:古川貴義(箱庭円舞曲) 演出:磯村純(劇団青年座) 装置:根来美咲、照明:中川隆一、音響:オフィス新音、衣裳:鎌田絵里奈、舞台監督:川上祥爾、舞台監督助手:尾花真、プロデューサー:森正敏 文化庁委託事業「平成23年度次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」 制作:(社)日本劇団協議会
日時指定・全自由席一般 4,000円、学生3,000円(学生は劇団青年座・日本劇団協議会の取扱)
http://gekidankyo.blog59.fc2.com/blog-entry-20.html
http://seinenza.com/performance/gekidankyo/110914.html
http://blog.goo.ne.jp/chichiga_moeruhi
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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ヨーロッパ企画『ロベルトの操縦』09/08-18本多劇場
京都の劇団ヨーロッパ企画の新作ツアーです。昨年と同様今年も面白かったー!上演時間は約1時間30分。
いつもどおり、ヨーロッパ企画の劇団員ならではのあ・うんの呼吸で次々と笑いを生みつつ、常にその裏の意味も示してます。日本の今を爆笑コメディーで風刺したのは『奥様お尻をどうぞ』と同じだと思います。やはりヨーロッパ企画は見逃せないですね。
⇒CoRich舞台芸術!『ロベルトの操縦』※CoRichでカンタン予約!
≪あらすじ≫
ある砂漠の中の駐屯地。出動命令を待ち続けて、無為に過ごした2週間。とうとう兵士たちは…。
≪ここまで≫
スピードの出る乗り物に乗ってみんなで遊びに行く。それだけで気分は高揚します。でもそれが致命的な危険と隣合わせだったら?
阿佐ヶ谷スパイダースの中山祐一朗さんが客演されています。中山さん、コメディーにぴったり!表情も動きも良かったな~。
ここからネタバレします。
ロベルトとは舞台中央に鎮座するメタリックな乗り物のこと。近未来の戦車みたいです。バイクのように運転するのが可笑しいし、戦車なのになぜサイドカーのデザイン!?つっこみどころだらけです(笑)。
「2キロ先にあるかもしれない自動販売機でコーラを買いに行こう」から「海に遊びに行こう」に目的が変化し、ついには仕事を捨てて現実から逃げる方向へと突進していきます。賛成派・反対派の議論は“移動会議”という前進したまま話し合う方法で無理やり行われ、なしくずし的に反対派は押し切られます。そこには多数派の暴力も。
「2週間呼び出されなかったんだから、まさか今日に限ってラッパは鳴らないよ」なんて、「まさか原発が爆発するわけがない」「あんな大きな地震が再び起こるわけがない」と同じです。かっこいい兵器へのあこがれは男子らしいマッチョな発想。原子力発電に夢を見た科学者とも重なりますね。でも実際ロベルトはフォルムも魅力的なんだよな~。
最後にまさかスターウォーズ的展開になるとは(笑)。海への移動中に出会った“エンペラー”とその守護兵は、事故で地球に不時着したのでロベルトで水の惑星まで乗せて行って欲しいと言います。「銀河法で守られてます」「シャチに乗れます」「トロピカルドリンクもあります」と、守護兵は嘘八百。でも全て信じて宇宙へと飛び立ってしまう兵士たち。あり得ない(約束は絶対果たされない)設定でも、やはりかっこいい乗り物で空を飛ぶのは素敵。星空に光る兵器ロベルトとその乗組員たちは愚かで滑稽ですが、勢いにまかせて夢を見ようとする姿は人間らしいし、可愛らしいと思ってしまう私がいました。
≪京都、愛知、東京、大阪、福岡、広島≫
出演:石田剛太、酒井善史、角田貴志、諏訪雅、土佐和成、中川晴樹、永野宗典、西村直子、本多力、山脇唯、山本真由美、中山祐一朗
作・演出:上田誠 音楽:木暮晋也 美術:長田佳代子 照明:葛西健一 音響:宮田充規 衣装:中嶋佑一(artburt) ヘアメイク:松村妙子 映像:大見康裕 演出助手:山田翠 舞台監督:筒井昭善×大鹿展明 宣伝美術=井上能之 制作= 井神拓也・諏訪雅・本多力・吉田和睦・吉永祐子 WEB=樫木由子・柏敏行・片岡二郎・中路まり絵 京都芸術センター制作支援事業 助成:文化芸術振興費補助金(トップレベルの舞台芸術創造事業) 企画・製作=ヨーロッパ企画/株式会社オポス
【発売日】2011/07/24 前売4,000円 当日4,500円 学生シート(前売のみ)3,500円未就学時入場不可
http://www.europe-kikaku.com/projects/e30/main.htm
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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