REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2011年09月15日

文学座『連結の子』09/09-23吉祥寺シアター

 ONEOR8の田村孝裕さんが文学座に初めて戯曲を書き下ろされました。演出は昨年1年間の英国留学をされていた上村聡史さん。帰国後第1作になるんですね。田村さんと上村さんのコンビだとこの公演を拝見しています。

 文学座に30代の劇作家が書き下ろして面白かった作品というと、すぐにこの公演を思い出します。こういう企画をぜひ継続して欲しいと思いました。上演時間は約2時間5分。⇒公演公式ツイッター

 ⇒産経新聞「文学座の若手演出家・上村聡史 僕たち世代を見つめ「連結の子」
 ⇒CoRich舞台芸術!『連結の子

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 とある地方都市の一軒家。
 高原直哉はすいとんを作っていた。
 すいとんは孫、由起夫の好物。
 今日は、服役していた由起夫の出所日だった。
 
 帰ってきた由起夫とのぎこちない会話が続く。
 
 閉鎖的な田舎。
 由起夫の身元引受を拒否していた両親。
 直哉を囲む怪しげな身内。
 そして、二人が抱えた心の闇とは……。
 ≪ここまで≫

 木造日本家屋の壁を取り払って、具象と抽象のバランスが取れた透け感のある装置です。閉鎖的な町の話ではありますが、風通しがよくて心地よいです。

 出所者差別をはじめ、介護、いじめ、ひきこもりなどの現代の深刻な問題が次々と出てきますが、笑いのネタが執拗なほどに盛り込まれているのが田村さんらしいですね(笑)。息苦しさばかりでひっぱらず、家族という近しい関係だからこそ生まれる温かみも描かれています。

 次男を演じた浅野雅博さんは期待通り。ボケもツッこみも鮮やか!真人間もダメ人間も自由自在の柔軟さに毎度惚れ惚れします。

 ここからネタバレします。

 完全暗転したり音楽を流したりすることなく、するりと時間を越えて転換をするのが良かったです。最初は驚きましたけど、慣れると次が楽しみになりました。次の場面の登場人物が前の場面から出ているところとか。

 父と2人の息子、長男の息子(孫)という三世代の男性の関係に焦点を当てているので、女性はその周囲に追いやられているかと思いきや、実はど真ん中に鎮座していたんですね。亡くなった母親は、父親と息子たちという“車両”をつなぐ“連結”だった。
 嘱託殺人の罪を犯した由紀夫(孫)が、仏壇(=祖母)に向かって「ごめんなさい」と謝るまでの無言の長い間が素晴らしかったです。

 電車好きの男性たちのはしゃぎっぷりは無邪気な子供時代の幸せを思い起こさせます。その夢をプツンとさえぎったのがヤクザ(であろう女)だったことにも納得。男は夢想し続け、女は現実を生きますよね。


 ≪終演後のトーク「70年代生まれの劇作家は今、何を切り取るか」≫
 ゲスト:前川知大(イキウメ/劇作家・演出家)、田村孝裕、上村聡史 司会:徳永京子(演劇ジャーナリスト)

 「“家族”“命”をテーマにするならどう切り取るか」という非常に大きな質問を投げかけられるのは、徳永京子さんならではだと思います。
 前川さんと田村さんの意外な共通点として「コンプレックス」が出てきたのに驚きました。勝手ながら同世代の人間として納得です。上村さんは自信満々でしたけど(笑)。

 80年代に活躍して今も第一線にいる演劇人と、現在20~30代の若手と呼ばれる演劇人の比較について、上村さんが「望遠鏡か顕微鏡かの違いであって、世界を描いているという意味では同じ」と指摘されました。私もつねづね感じていたことなので嬉しかったです。

 70年代生まれの劇作家について。具体的すぎますが、私は「仏壇」に何かしらの共通項があるような気がしました。例えば三浦大輔さんの劇団ポツドールでも、象徴的に仏壇が使われます。日常生活に欠かせないほどの親しみは持っていないけれど、いわゆる仏壇らしい仏壇に触れた経験(幼児期の記憶)はあり、そこに歴史、伝統、信仰などを見出すことができる、そのぐらいの距離感が似てるように思います。

 観客からの質問を受けて、最後に前川さんがおっしゃったことがとても重かったですね。
 70年代生まれの劇作家は「この毎日が永遠に続く」と信じて生きてきたから、社会に向かって強く意見を言ったり、政治的な活動に直結するような創作活動はしてこなかった。「四畳半以下のこじんまりとした世界を描く作品が多い」と批判されたこともあったけれど、それはすなわち演劇が社会とつながっているからこそだったんですね。でも今からは変わるだろう、社会と積極的に関わっていく芝居が多く生まれてくるだろう、ということでした。同感です。

出演:金内喜久夫、中村彰男、高橋克明、浅野雅博、木津誠之、亀田佳明 倉野章子、金沢映子、山崎美貴、片渕忍、上田桃子、吉野実紗
作:田村孝裕 演出:上村聡史 美術:乘峯雅寛 照明:阪口美和 音響効果:熊野大輔 衣裳:伊藤早苗 舞台監督:加瀬幸恵 演出補:五戸真理枝 制作:矢部修治 票券:最首志麻子 宣伝美術:奥定泰之 宣伝イラスト:宮尾和孝 宣伝写真:堀口宏明
【発売日】2011/08/06 一般 5,500円 ユースチケット 3,800円(25歳以下/文学座、イープラスのみ取扱い) 中・高校生 2,500円(文学座、イープラスのみ取扱い) アルテ友の会 会員 4,950円(武蔵野文化事業団にて前売のみ取扱い)
※1 9月9日、10日、13日の夜公演は一般の方「夜割」=4,500円(※アルテ友の会会員も含まれます)
http://www.bungakuza.com/ConnectedChild/index-top.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2011年09月15日 16:45 | TrackBack (0)