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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2012年06月03日

マームとジプシー『マームと誰かさん・ふたりめ 飴屋法水さん(演出家)とジプシー』06/01-03 SNAC

 先月に続き、マームとジプシーの藤田貴大さんがSNACで新作を発表されました。飴屋法水さんとのコラボレーションです。上演時間は約1時間。

 会場に着くなり、すごく驚きました。今、この場所で行われるパフォーマンスであることが、作品のアイデンティティーの大きな部分を占めています。こんな作品を観る(参加する)ことができて、本当にありがたいと思いました。2500円は安すぎる。贅沢すぎる。こんな公演を行ってくださったことに感謝します。⇒舞台写真「A life of 3 seconds. Mum-Gypsy.

 藤田さんの岸田國士戯曲賞受賞作が出版されています。物販コーナーで買いました。選評はいつもながら面白いです。

かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。
藤田 貴大
白水社
売り上げランキング: 161068

 ⇒Fishing on the beach「長音と転倒」(2012/06/08加筆)
 ⇒CoRich舞台芸術!『マームと誰かさん・ふたりめ 飴屋法水さん(演出家)とジプシー

 ≪あらすじ≫
 車がものすごいスピードでガードレールに突っ込み、彼は1秒目に飛んで、2秒目に地面に落ちて、3秒目に死にました。私はそれを歩道橋から見ていました。その3秒間の話をします。
 ≪ここまで≫

 会場に着くなり大破したスポーツカーの車体(スクラップ)が目に入り、驚きました。SNACの戸がすべて外され、窓(?)もおそらく外され、会場内が沿道側にすっかり開かれた状態になっています。開演の40分前には到着したのですが、半分ほどの席が埋まっていました。
 藤田さんや飴屋さん、青柳いづみさんら関係者の方々が会場内に居たり、沿道で話したり、もう作品が始まっているかのようです(始まっていませんが)。飴屋さんの実娘であるくるみちゃんも、青柳さんと一緒に会場のコンクリートの床にチョークで絵を描いたり、スタッフの人たちに抱きついたり、沿道に止めてある車に登ったり、自由に過ごされていました。
 終わってみると、それも全て作品に含まれていたな~と思います。1人の死んだ男性について語られる物語ですが、出演者や観客の日常と完全に地続きというか、一体であったと感じられたからです。

 「身をもって知る」という言葉の意味を考えました。勇気がなかったり機会がなかったりして、「身をもって」なんて、なかなかできないですよね。この作品は、それを私にさせてくれました。漠然としたまま、曖昧にしたまま、放置してきた事件について、自分のこととして感じ取って、再び考え直す機会になりました。やはりいくら想像しても想像が足りることはないんですね。

 写真↓は灰色の紙の封筒に入った当日パンフレット(無料配布)。前回からコンセプトが継続しているようです。
20120602_fujita_ameya.JPG

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。誰のセリフだったのかも曖昧です。すみません。

 会場の奥側をほぼ半円状に、壁に沿って客席がしつらえられており、沿道側が舞台になっています。いつものSNACとは反対側に客席があると言えばいいでしょうか。客席から見て中央に大破した車。その車の座席部分もしくは屋根の上に青柳いづみさんが居ます。下手に音響機材が載ったデスクとイスがあり、飴屋さんが座って音響操作をされます。上手は照明オペレーター(?)の席がありました。

 一番初めに、飴屋法水さんがマイクで「昨日、木の上で蝉が鳴いていたって。でも小娘は何でも昨日と言うから、本当に昨日のことなのかはわからない」という意味のセリフを言いました。
 次に車に乗っている青柳さんが語ります。「彼は1秒目に飛んで、2秒目に地面に落ちて、3秒目に死にました。私はそれを歩道橋から見ていました。その3秒間の話をします」。このフレーズが繰り返されます。

 青柳さんは実は歩道橋から飛び降り自殺をしようとしていて、自動車事故を目撃してしまったのです。彼女(青柳)は「死んだのはこの人です」と飴屋さんを指差します。飴屋さんは音響席に座りながら、なんとイスごと床に倒れました。ドス!という音が鳴りました。飴屋さんはそれを3度繰り返し、3度目に床に置かれていた車のフロントガラス(たぶん)がバリーン!と割れました。“地面に落ちて死んだ”ことをまさに身を持ってあらわされたのです。床はコンクリートですから当然痛いと思います。

 最初は自動車を運転していた男性(飴屋)が宙を舞って死んだと思っていたのですが、「車に轢かれて」という言葉から、対向車線の車に轢かれたのかも?、と考え直しました。やがて歩道を歩いていた女性2人(坂口真由美 村田麗薫)の目撃証言が始まり、ガードレールに突っ込んだ車が、歩道にいた男性をはねたことがわかります。

 飴屋さんは席を離れて外に出て、子供用のイスが前方に備え付けられた自転車を運転して、会場の外側の道を何度か通り過ぎたり、自転車に乗ったまま会場内をのぞき込んだりしていました。やがて自転車ごと会場内に入ってきて、リンゴが入った茶色い紙袋を後ろの籠に入れて、車の前方(車と観客の間)に自転車を置きます。後輪が地面から離れた状態の自転車に乗り、飴屋さんは運転を始めました。その間、青柳さんは車の天井に腰掛けて「彼は1秒目に飛んで、2秒目に…」と語り続けています。
 飴屋さんは今度は、自転車ごと観客の方に倒れました。ガシャン!ごろごろ…という音。自転車が真横に倒れて、飴屋さんはその下敷きです。りんごが床に転がります。飴屋さんはすぐに立ち上がり自転車をもとの位置に戻して、新しいりんごの紙袋を持ってきて、また後ろの籠に入れました。そしてまた自転車に乗り、倒れたのです。ガシャン!ごろごろ…。※財布に入っていた領収書を紙袋に入れる動作あり。説明省きます。

 私はショックで、涙が出てしまいました。きっとまた倒れる…見たくないけど、見なきゃいけない気がして、涙をこらえて見つめました。私の他にも泣いている方がいらっしゃいました。顔を伏せている方も。そして飴屋さんは、今度はたくさんのりんごの紙袋を前方の子供の座席に詰め込み、今までと同様に少し運転してからガシャン!と床に倒れました。りんごは当然、子供を連想させます。飴屋さんは立ち上がり、転がって傷んだりんごを1個拾ってむしゃむしゃと食べながら、自転車を押して外に出ました。
 男性(飴屋)は、歩道で自転車に乗っていた時に、車に跳ねられ宙を舞い、地面に打ちつけられて亡くなったんですね。この謎が気にかかり、解けるまでずっと集中して考えていられました。見事な構成だと思います。

 歩道を歩いていた2人の女性は、反対側の歩道に集団下校中の子供たちがいたと話します。そして「車がつっこんだのが子供たちの方じゃなくて良かった」という考えを匂わせます(はっきりとセリフでは言いません)。なぜ1人の大人の男性よりも、大勢の子供たちの命の方が大切だと、私たちは思いがちなのでしょうか。それは子供たちには大人よりも長い未来があるはずだから…なのかもしれません。

 飴屋さんは音響席に再びもどり、今度はマイクを使わずに冒頭のセリフを言いました。「昨日、木の上で蝉が鳴いていたって。でも小娘は何でも昨日と言うから、本当に昨日のことなのかはわからない」。その時、下手側の壁に映像が映されます。飴屋さんの娘のくるみちゃんの日常のようです。“小娘”とは、男性(飴屋)の子供(くるみ)のことだったのでしょう。小さな子供がいる成人男性が、突然車に轢かれて亡くなったのです。死者(飴屋)とその娘(くるみ)が目の前にいる中で、いねむり運転で大勢の命が失われた高速バス事故、保育園児の列に車が突っ込んだ事故などを思い返しました。

 理不尽に1つの命が失われた時、歩道の2人の女性は倒れた男性をそのまま放置してランチを食べに行きました。だって知らない人だから。でも歩道橋の上にいた自殺志望の女性(青柳)は、涙を流しながら彼に思いを馳せました。「彼は空を飛んだ時、何かを想像しているように見えたけど、何を想像したのかは私にはわからない」。彼(飴屋)は言います。「空を飛んだ時、私は何か想像していただろうか。私にはわからない。でも確かなのは、私が空を見ていたことだ」。
 
 女性5人の合唱隊カントゥスが車から登場したり、開演前にくるみちゃんが天井に乗っていた黄色い車に、飴屋さんも登ったり、会場の外側も存分に作品に組み入れた空間演出でした。しかもハイセンス。
 カントゥスの歌は、可愛らしいし美しいし、でも牧歌的な響きがコミカルでもあり、お芝居との妙なコンビネーションが面白かったです。青柳さんの「私、今日から生理なんですけど。生理の時に自殺するなんて痛々しい」といった自虐的なセリフも可笑しかったです。そういう笑いの要素が素頓狂に挟まれるのも、私は楽しかったですね。

出演:青柳いづみ 坂口真由美 村田麗薫 飴屋法水 カントゥス
作・演出:藤田貴大 照明:明石怜子 スタイリング:コロスケ 衣裳協力:折原陽子 アシスタント:西島亜紀 召田実子 パンフレット原稿:藤原ちから 制作:林香菜 主催:マームとジプシー 共催:SNAC/吾妻橋ダンスクロッシング
【発売日】2012/05/21 ご予約 2500円+ドリンク代/当日券 2700円+ドリンク代
http://mum-gypsy.com/next/5-7.php

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年06月03日 22:10 | TrackBack (0)