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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2012年06月11日

世田谷パブリックシアター『南部高速道路』06/04-24シアタートラム

 ラテンアメリカの作家、フリオ・コルタサルの短篇小説『南部高速道路』を、長塚圭史さんが構成・演出されます。上演時間は約2時間5分。

 シアタートラムの四方に座席が設置されており、私は劇場入口から見て下手側のサイド席の2列目でした。舞台が近い!目の前にキャストの皆さんがあらわれて、あらためてすっごい豪華キャストだとわかりました。あーもー最初から最後までずっとスリリングで、めちゃくちゃ面白かった!

 当日パンフレット(800円)が写真集のようで中身も充実しています。野田秀樹さんと長塚さんの対談あり。
 原作が収録されているコルタサル短編集(岩波文庫)がロビーで販売されていました。原作も他の小説もとっても読んでみたくなったので購入。ありがたいです。

悪魔の涎・追い求める男 他八篇―コルタサル短篇集 (岩波文庫)
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 ⇒CoRich舞台芸術!『南部高速道路

 ≪あらすじ≫
 真夏。渋滞の高速道路。どうやら先の方で大きな事故があったらしい。それにしても動かなさ過ぎる。同じ場所でずっと停滞している者同士が声を掛け合い…。
 ≪ここまで≫

 傘を持って劇場内を歩く人たち。もうこの時点ですっごく楽しかったんです!役者さん同士がとても自然にコミュニケーションをしていて、お互いを無視せず、でも束縛もせず、自由に、舞台で生きていたから。何をやっていても、どこを見ても面白いんです。
 衣裳がおしゃれだったな~。空間をぐるぐると動いて行く音響もかっこ良かったです。

 ここからネタバレします。

 水や食料を探しに行き、平等に分け合う人々。ゆるやかな共同体はやがてひとつの村のように結束し、冬を迎え、春がやってきて、やがてまた夏が訪れます。冬が来た時にいわゆる「不条理劇」「幻想小説」であることがよりはっきりして、やがてこの「渋滞」というユートピアにも終わりが来るんだなと思いました。

 黒い床に小さな女の子が太陽や花の絵を描いていました。上から色を塗っていたのではなく、黒い床の表面を削って、その下にある赤、ピンク、青、緑などの色が出てくる仕掛けでした。やがてルノー(梶原善)も絵を描き始め、床はカラフルな絵でいっぱいになります。最後は渋滞が解消されて車がどんどん動き出し、一瞬にして皆バラバラに散って行ってしまい、共同体は消滅してしまいます。でもだいだいの木やトランプ、靴などはそのまま、カラフルな花の絵とともに地面に取り残されていました。
 昨日観たオリヴィエ・ピィさん演出の『≪完全版≫ロミオとジュリエット』と似ていると思いました。舞台には何もなくて、可動式の物体(=人間)を使って場面転換します。節操無く次々と新しい景色が生まれ、すぐに上書きされていくので、とても流動的で刹那的な印象があります。「一歩踏み出したその距離と時間の中に、すべてがある(入ってしまう)」というセリフがあるように、人生なんてひとときの幻想かもしれません。でも確実に何かは起こっていた、そこに確かに存在していた、という痕跡を、誰かと誰かがともに生きていたという証拠を、地面を削って描いた絵などの形あるもので残したんじゃないでしょうか。

 マーチのおじいさん(小林勝也)が消えて、ミニカのお母さん(梅沢昌代)が亡くなって、リーダー(菅原永二)がだいだいの木を移動させるようになってからは、私は「いつ終わるのかな~」と脳内予想を始めちゃいました。お料理上手なミニ(真木よう子)の腕時計が見つかった時は、もう、なんだか切なくなりました。だからもう少し早めに終わってくれても良かったかな~。バスの運転手(赤堀雅秋)が、彼の子を妊娠したグロリア(江口のりこ)を必死で探す時の表情がとても悲しかった。

出演:安藤聖、植野葉子、梅沢昌代、江口のりこ、黒沢あすか、真木よう子、赤堀雅秋、梶原善、加藤啓、小林勝也、菅原永二、裵ジョンミョン、横田栄司 少女役(ダブルキャスト):酒井美夢 瀧澤采愛 声の出演:クリス智子
[原作]フリオ・コルタサル『南部高速道路』(1966年刊)[構成・演出]長塚圭史[美術]二村周作[照明]小川幾雄[衣裳]前田文子[音響]加藤温[舞台監督]足立充章[演出助手]渡邊千穂[プロダクションマネージャー]勝康隆[技術監督]熊谷明人[プロデューサー]穂坂知恵子[宣伝美術]近藤一弥[宣伝写真]白井綾(上段)、Clicgauche/GNU Free Documantation Lisense(下段) [主催] 公益財団法人せたがや文化財団 [企画制作]世田谷パブリックシアター
【休演日】6/6,13,20【発売日】2012/04/21 一般 5,000円 ☆=プレビュー公演 4,000円(会員割引はございません) 高校生以下 一般・プレビュー料金の半額(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示) U24 一般・プレビュー料金の半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 4,500円 せたがやアーツカード会員割引 4,700円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2012/06/post_280.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年06月11日 22:48 | TrackBack (0)