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2012年11月22日

【インタビュー】韓国ミュージカル『ウェルテルの恋』主演キム・ダヒョンさん

 チョン・ドンソクさんに続いて、韓国ミュージカル『ウェルテルの恋』主演のキム・ダヒョンさんのインタビューです。ダヒョンさんの舞台写真が到着したので、取材時のものと合わせて掲載させていただきます♪

 プレスツアーでダヒョンさんが出演する公演初日を拝見し、インタビューでのご発言に全身で納得!ネタバレはありませんので、読んでから観ても大丈夫です。

 ダヒョンさん曰く「『ウェルテルの恋』は韓国が生み出した最高の創作ミュージカル」。2000年の初演から12回も再演されてきた、韓国製ミュージカルの最新版が来日します。

【舞台写真:キム・ダヒョンさん(c)ぴあ】
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 ●ミュージカル『ウェルテルの恋 原作:ゲーテ「若きウェルテルの悩み」』
  期間:2013年1月11日(金)~26日(土) 全20回公演
  会場:赤坂ACTシアター
  韓国語上演。日本語字幕付き。全席指定9,800円。
  ⇒公演公式サイト
  ⇒公演公式ツイッター

 ・しのぶの演劇レビュー内関連リンク
  ⇒『ウェルテルの恋』プレスツアー参加報告
  ⇒チョン・ドンソクさんインタビュー
  ⇒キム・ダヒョンさんインタビュー(このページです)
  ⇒演出家キム・ミンジョンさんインタビュー
  ⇒韓国公演初日レビュー

■2度目の『ウェルテルの恋』では、愛の多面性を見せたい

―9年振りのウェルテル役への挑戦ですね。
ダヒョン:出演が決まった時はまず嬉しかったですね。ぜひもう一度挑戦したかったんです。2003年の『ウェルテルの恋』はデビュー作だったので、慣れていないのもありましたし、演出の先生に言われたことをそのまま踏襲している状態でした。この9年でさまざまな役を演じてきましたので、今回は蓄積して来たノウハウや演技を出せると思います。当時は20代だったんですが、今は30代。30代のウェルテルをお見せしたい。

―2度目のウェルテルを、どのように演じたいと思っていますか?
ダヒョン:まず僕が表現したいのは湧き立つような愛に対する気持ち、情熱です。私のファン・クラブは「純粋な情熱のキム・ダヒョン」という名前で、2003年の『ウェルテルの恋』を観たファンの方々がネーミングしてくれたんですね。でも今回は純粋さを超えた何か、たとえば怒り、嫉妬などの、愛の持つ複合的な多面さを見せたいです。ウェルテルはロッテに初めて会った瞬間、人生を変える恋をします。恋のときめきは美しいのですが、やがて怒り、嫉妬が生まれ、そして悲劇になります。そんなさまざまな側面を、表情の演技や動作の細かい部分で表現できればと思っています。

―一番好きなシーンはどこですか?
ダヒョン:すごくたくさんあるんですけどね…。先ほどもお話ししましたが、ロッテには完璧な婚約者アルベルトがいて、ウェルテルはそれを知り衝撃を受けます。その直後のウェルテルの独白が好きです。ロッテを石のような存在だと表現するので、座組みでは「石のシーン」と呼んでいます。そこが一番好きですね。

【写真:キム・ダヒョンさん(c)ぴあ】
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■ミュージカル俳優が夢だった

―歌手としてデビューされましたが(⇒プロフィール[韓国])、今ではテレビドラマやミュージカル出演など幅広い活躍をされています。
ダヒョン:もともと私の夢はミュージカル俳優になることだったんです。ミュージカルは歌、踊り、演技の総合芸術として一番の頂点に立つものだと思います。毎回、新しいお客様に演技を見せるというライブ芸術の醍醐味もあります。
 
―昔は歌手は歌手、俳優は俳優だとジャンル分けされて、2つ以上のことをするのは好まれませんでした。今はいい時代になりましたね。
ダヒョン:本当におっしゃるとおりです。私は演技専攻だったんですが、歌手としてデビューして、今はテレビやミュージカルの俳優をしています。デビュー当時はタレントがCDデビューしたり、歌手がドラマに出たりすることがとても嫌われる傾向にあったんですが、今では時代も変わって、ひとつだけに執着するのではなく、色んな事にチャレンジできるようになりました。多種多様な時代になって本当に良かったと思っています。

―ミュージカル俳優になりたいと思ったきっかけは?
ダヒョン:私は芸術高校の出身で(芸術高校は韓国テレビドラマ「ドリームハイ」でもお馴染み)、演技の勉強をしていました。演技の基礎となるのは演劇ですから、学校では四大悲劇などの名作を学んでいたのですが、ある時、『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』『ミス・サイゴン』『ジーザス・クライスト・スーパー・スター』などのミュージカル音楽を聴いて、戦慄が走ったんです。それ以来、他の高校生は歌謡曲を聴いてたんですが、僕はミュージカル音楽をずっと聴いていました。

―また歌手をやりたいという気持ちはありますか?
ダヒョン:どんな形になるかはわかりませんが、将来的に歌手としての活動をしたいという思いはもちろんあります。以前は「ヤダ」という名前のロックグループにいて、J-POPの音楽もたくさん聴いていましたし、日本でもコンサートやライブをぜひやりたいと思っていました。歌手とミュージカルの表現方法は異なりますが、舞台に立って表現するという意味では同じです。


■芸術高校と大学で演技を学ぶ/現場が実習

―役作りに緻密な準備をされてきたそうですね。方法論は芸術高校で学んだのですか?
ダヒョン:そうです。芸術高校時代に学んだ技法はとても役立っています。ミュージカルをやっていく中でも、基本が重要だと再認識しています。私は歌も踊りも専攻していませんでしたが、ミュージカルでは両方やらなければならない。高校時代に習ったターン(回転)の方法を、今もミュージカルの舞台で実践しています。体を動かすことだけでなく、戯曲読解や作品分析、役柄の年齢や性格をもとにしたキャラクターづくりなど、基本の技術は高校で勉強しました。

―高校卒業後に、専門の学校に行かれましたか?
ダヒョン:大学の演劇科を出ました。演劇科でも演技は勉強しましたが、やはり現場です。作品が演技を教えてくれることが、とても多かった。「現場が実習である」という言葉も、自分にとってすごく大事な言葉です。作品を作りながらノウハウを獲得し、演技の研究をすることができたんです。

―どなたかに師事されたことはありますか?
ダヒョン:師匠と呼んでいる方が一人いらっしゃいます。韓国ミュージカル界の第一世代の、ナム・キョンオプ先生から非常にたくさんのことを学びました。有名な俳優で、今では指導者としても有名です。

【写真:キム・ダヒョンさん(c)ぴあ】
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■韓国の創作ミュージカルの独自性

―ロンドン・ミュージカル、ブロードウェイ・ミュージカルなど、ありとあらゆる作品を経験してこられたダヒョンさんから見た、韓国の創作ミュージカルの特徴、魅力を教えてください。
ダヒョン:たとえば『キャッツ』や『オペラ座の怪人』などのブロードウェイ・ミュージカルは、豪華な見せ場があって、ドラマティカルで、アンサンブルの踊りなどの魅力があります。韓国の創作ミュージカルの魅力は、そこが強みでもあり改善が必要な点でもあるのですが、韓国独自の情緒が大いに反映されているところです。作品の構成やキャラクター相関図にも、韓国っぽいところがたくさんあります。あとは俳優ひとりひとりが持っている感性や情緒的な部分ですね。
 私は創作ミュージカル以外にも『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』、『ラ・カージュ・オ・フォール』、『プロデューサーズ』など、日本の観客にも知名度のあるライセンス・ミュージカルに出演してきました。日本から海を渡って観に来て下さるファンの方々がおっしゃるには、やっぱり感性(エモーション)の部分で、韓国の俳優は非常に優れた部分を持っているそうです。今回の『ウェルテルの恋』で、日本の方々がどのように受け取られるのか、自分も知りたいと思っています。

―“韓国っぽい”創作ミュージカルというと、具体的にはどの作品でしょう?
ダヒョン:昨年私が主演した『西便制』という、映画『風の丘を越えて』をミュージカル化した作品がそうですね。パンソリ(⇒Wikipedia)で韓国独自の「ハン(恨)」を表現したんです。

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―『ウェルテルの恋』にも“韓国っぽい”ところはありますか?
ダヒョン:『ウェルテルの恋』の原作はドイツですが、韓国人独自の情緒はもちろん入っています。外国の物語を韓国のクリエイター達がミュージカルにしたということが、面白いポイントであり、醍醐味だと思います。韓国の創作ミュージカルにも色々あるんですが、外国を舞台にしたものは、そんなに多くはないんですよ。


■ニックネームは“ミュージカル界のウォン・ビン”、“花ざかりのキム・ダヒョン”

―ダヒョンさんはデビュー当時から“ミュージカル界のウォン・ビン”と呼ばれているんですが、日本進出にあたって、どのようなニックネームで呼ばれたいですか?
ダヒョン:自分からは言いにくいんですが…2003年の『ウェルテルの恋』で韓国のファンたちが、私の名前に「花」をつけるようになったんです。「花ざかりの」とか「花びらの」とか、「花」の形容詞がついたニックネームが多かったんですね。今は…「花」をつけるのは勘弁してもらいたいかな…(笑)。最近は細かい(ディテールの)演技をする俳優だと認識してくださって、“ディテール・キム”というニックネームもあります。でも、日本の観客の皆さまが実際に私の舞台を観て、新しいニックネームをつけていただければ、一番嬉しいです!

―『王と私』や『1年に12人の男』などのテレビドラマで、ダヒョンさんを知った日本人ファンも多いと思います。そのファンにメッセージをお願いします。
ダヒョン:ドラマとミュージカルは、本当に違うんですよね。たとえばドラマではスピーディーな演技や、自分のイメージと全然違った演技もしますが、舞台では、私一人で劇場空間をいっぱいにするような演技も見せます。舞台での歌と演技は、ドラマとは全く違った魅力がありますから、是非期待して頂きたいです。
 何より私は日本のファンの皆さんに、とてもとても会いたかったんです。『ウェルテルの恋』は韓国が生み出した最高の創作ミュージカルだと思っているので、この作品で日本に行くことができて非常に嬉しいですし、感慨深いです。

【写真:キム・ダヒョンさん(c)ぴあ】
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■主演舞台が連続する超多忙スケジュール/作品選びの基準

―主演ミュージカルの初日にもかかわらず、他のお仕事もあって、とてもお忙しいですね。作品に追われる日々をどう思ってらっしゃいますか?
ダヒョン:まず、この生活が幸せだと思うようにしています。肉体的には非常にハードなんですが、僕が忙しいのは、ミュージカルのファンや観客の皆さんが望んでくださっているから。その分がんばろうという気持ちになります。観客の皆さんのために、より良いコンディションで作品をお届けしたいと思っています。

―ストレスの解消法は?
ダヒョン:ご存じのように、『ウェルテルの恋』のストーリーは憂鬱にさせられるものでもあるので、演じるのも結構つらいんですね。でも来年は、トム・クルーズ主演の映画にもなったミュージカル『ロック・オブ・エイジズ』に主演することになっています。私が演じるグリュー役は飛んだり跳ねたりする明るい役なんです。こうやって、全く違う役を演じることで気分転換をしています。

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―出演作のバラエティーの豊かさに驚かされます。作品を選ぶ基準はありますか?
ダヒョン:さまざまな役を演じてきましたが、既存の作品選びの基準になったのは、そのキャラクターが自分の中にあるかどうかです。昨年は日本を舞台にした演劇『恋愛時代』(関連ページ[韓国]⇒)に挑戦したんですが、演じるにあたって自分の中にある可愛らしさ、純粋さ、情熱的な部分を出すようにしました。今後も色んな役を演じていきたいですが、その中でも自己投影ができるような役柄に挑戦したいです。


■チョン・ドンソクさんと演出家が語る、ダヒョンさんの魅力

ドンソク:ダヒョンさんは非常に男性的な方です。過去に一回ウェルテルを演じていて、今回は違った面を見せようと、努力して新しい試みをされています。ミュージカルの舞台は多数経験していらっしゃるんですよね。たとえば舞台のセットと俳優が一緒になった時の、動きの把握が早くてすごいと思いました。

演出家:ダヒョンさんは美しくて、繊細で、几帳面という印象があります。でも彼は一瞬にして燃えるように情熱的になるんです。そういった部分で、ダヒョンさんもウェルテルっぽいと言えるのではないでしょうか。ドンソクさんとの共通点は、2人ともすごく美しいということ。一番大切なことですね。


【しのぶよりひとこと】
 スラリと細くて、ちょっと華奢にも見えるダヒョンさんですが、さすがは10年もの実績があるミュージカル俳優。たたずまいに余裕があって、ご自身の中に揺るがない芯があるのがわかります。誠実で、礼節をわきまえていて、質問への返答も大人!プロの舞台俳優の知性と矜持が静かに漂うようでした。

 地方でドラマ撮影があったため、ダヒョンさんは予定の時刻より遅れて劇場に到着されました。自分が主演するミュージカルの初日(10月25日)に別の仕事があり、取材の予定も複数入っているなんて!超過密スケジュールですよね…。韓国の大規模ミュージカルの現場がいかに成熟しているかを、少し感じ取れたように思います。⇒ダヒョンさんは10月31日に次回主演作のイベントにも出演。

 質問終了とのアナウンスがあっても、「他にも何かご質問がありまたら答えますよ、大丈夫ですか?」と記者に向かって気さくに、優しく声をかけてくださいました。とうとうインタビュー終了になると、「こうして韓国まで来ていただいて本当にありがとうございます。撮影のためにちょっと遅れたのでとても申し訳なく思っています。待ってくださって本当にありがとうございました」とのお心づかい。私は「何をおっしゃいます!とんでもない!」と脳内で口走り(もちろん日本語で)、「大人なダヒョンさんに甘えっぱなしになってしまったなぁ…」と反省するやら、ありがたいやら…すっかり“舞台人キム・ダヒョン”の虜になってしまいました。

 その日の20時からダヒョンさん主演の『ウェルテルの恋』が開幕。初めて登場した時、ダヒョンさんは柔らかな微笑みをたたえた、何も知らない少年のようでした。私は「これが“ディテール・キム”なのか!」と衝撃を受けて、椅子の背もたれから少し身を乗り出して、見入ってしまったんです(後ろの席の迷惑にならないよう心がけました)。韓国のファンが“花”をニックネームにするのにも納得。花は花でも豪奢なバラというより、白ゆりかしら。桔梗でもいいかもしれません。どんな花を咲かせるのかも、自身でコントロールする俳優なのだと思います。

【舞台写真:キム・ダヒョンさん(c)ぴあ】
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韓国題名『뮤지컬(musical)젊은 베르테르의 슬픔(Die Leiden des jungen』
出演(※主演Wキャスト):キム・ダヒョン(김다현)、チョン・ドンソク(전동석) ほか ※出演者、配役は変更になる場合がございます。
原作:J.W.Goethe(ゲーテ) 演出:キム・ミンジョン 音楽監督:イ・ソンジュン  振り付け:ホン・セジョン 芸術監督:シム・サンテ 劇作/歌詞 :コ・ソンウン 作曲:チョン・ミンソン 脚色:ソン・ジョンワン、キム・ソンミ  編曲:イ・ソンジュン 主催:ぴあ 制作:CJ E&M、劇団カッカジ(韓国)
11月9日(金)10:00より、チケット一般発売
早割指定 9,000円(税込) ※11/8(木)までの先行期間のみ適用料金となります。
全席指定 9,800円(税込) ※未就学児童のご入場はご遠慮ください。
http://wakaki-w.jp/


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2012年11月22日 16:00 | TrackBack (0)