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2013年07月26日

イキウメ『カタルシツ「地下室の手記」』07/25-08/05赤坂RED/THEATER

 前川知大さん率いる劇団イキウメの“別館”公演。ドストエフスキー作「地下室の手記」を、舞台を現代日本に置き換えて2人芝居に。とっても面白かったです!上演時間は約1時間40分。

 主役で語り部でもある安井順平さんは、観客を含む周囲の世界と柔軟にコミュニケートされていて、1人芝居であることを忘れさせてくれるほどでした。

 【舞台写真(撮影・田中亜紀)左から、安井順平、小野ゆり子】
katarushitsu_chikashitsunoshuki_stage.JPG

 ⇒「地下室の手記」前川知大
 ⇒CoRich舞台芸術!『カタルシツ「地下室の手記」

 ≪あらすじ≫
 地下室に閉じこもる40代の男が、ニコニコ動画の生放送で持論を吐きちらかす。「一人で生きていける」「誰ともかかわりたくない」と豪語した後に、どうしても忘れられない、ふんぎりがつけられない、ある女との出来事について語り出した。
 ≪ここまで≫

 主人公の男(安井順平)が俳優本人として、そして登場人物としても観客に語りかける手法で異化効果を生み、さらには彼がニコニコ動画のストリーミング生放送をする設定もあるため、2重の入れ子構造になります。主人公が自分の経験を語る劇中劇を、匿名のニコ動ユーザーが見てコメントをし、その全体を客席の観客が見守る状態です。

 男はイタイ発言を連発し、部屋の外に出て他人とかかわるごとに失敗し続けます。そんな彼を観て笑ったりハラハラしたり、娯楽演劇のように大いに楽しめるのですが、どっぷりと感情移入はできない演出になっているんですね。おかげで私は、男とある女のエピソードを鏡にして、自分のこれまでの人生や現在について考えることができました。人間の幸せって何だろう、私は何のために、誰のおかげで生きているのかしら、とか。
 劇中で起こる出来事は原作と変わらないそうです。こんな風に楽しく、興味深く古典と出会える機会をもらえて幸せです。

 2人芝居ではありますが、ほぼ1人芝居と言ってもいいほど、主役の安井順平さんの独壇場でした。安井さんは人を不快にさせるひどいセリフをたくさん吐き出しますが、嫌いになれないどころか、可愛らしいなと思わせる魅力があります。ちょっと悔しい気持ちになるほど(笑)、微笑ましい存在感でした。オープニングで観客と柔らかいコミュニケーションを取ってくださった時から、「このお芝居は当たりだ」と思いました。

 小野ゆり子さん拝見したのはたぶん初めてです。手と足が細長い!それでいて胸元豊か!きれーだわー。“女”の芯の強い部分がはっきりと出てくるところが好印象でした。

 引きこもり男性の自意識問答というと、岩井秀人さんの作風がすぐに思い浮かびました(⇒過去レビュー)。そういえば岩井さんが出演されている映画「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE」は、テレビの番組収録現場(即興の劇中劇)の中継を見ながらコメントするお笑い芸人たちを、映画館の観客が観る構造でした。偶然ですが、この物語の終盤には岩井さんの岸田賞受賞作『ある女』と通じる展開もあって興味深かったです。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。後ほど加筆予定。

 安井さんは出てくるなり「こんにちは~」と観客にフレンドリーに語りかけて、アドリブ風のしゃべりで大いに観客を沸かせておいて、「言っときますけどこれ全部セリフですから」と突き放します(それもまたウケてました)。このお芝居はニコ生も含め、全体が主人公の妄想(ファンタジー)だとも受け取れると思いました。


≪東京、大阪≫
出演:安井順平、小野ゆり子
原作:ドストエフスキー(光文社古典新訳文庫「地下室の手記」安岡治子訳) 脚本・演出:前川知大 舞台監督:谷澤拓巳 美術:土岐研一 照明:松本大介 音楽:かみむら周平 音響:鏑木知宏 衣裳:今村あずさ ヘアメイク:西川直子 映像:ムーチョ村松 演出部:渡邉亜紗子 大道具制作:C-COM 小道具:高津装飾美術 運搬:マイド 宣伝写真:神藤剛 宣伝美術:鈴木成一デザイン室 制作:湯川麦子 プロデューサー:中島隆裕 主催:イキウメ / エッチビイ
【休演日】7/30【発売日】2013/06/22 前売 \3,800/ 当日 \4,000(全席指定)
http://www.ikiume.jp/katarushitsu_gaiyou.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年07月26日 13:54 | TrackBack (0)