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2013年09月14日

【写真レポート】フェスティバル/トーキョー13(F/T13)「記者懇談会」9月@都内某所

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F/T13記者懇談会

 今回で6回目を迎えるフェスティバル/トーキョー、通称「F/T13(エフティー・ジュウサン)」の記者懇談会に伺いました。
 これまでのF/T記者発表エントリー⇒

 11の国と地域から30演目が集まり、計240ステージが上演されます
 フェスティバル・ディレクターの相馬千秋さんが今年のコンセプト「物語を旅する」に込めた意図や、上演作品について詳しく語ってくださいました。

 ●フェスティバル/トーキョー(F/T13) ⇒公式サイト
  期間:2013年11月9日(土)~12月8日(日)の30日間。
  会場:東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、シアターグリーン、アサヒ・アートスクエア、池袋西口公園など。
  チケット発売開始:2013年10月5日(土)10:00~
  ※新設チケットが驚くほどお得!
   海外演目スペシャルパス:15,000円
   学生パス:10,000円(公募プログラム国内作品以外の全演目)

 ★アーティストが登壇する「F/T13アーティスト・フォーラム」が10月1日に開催されます。観客も参加可能ですので、ご興味ある方はご応募ください(締切:9月20日(金)24時)。※Ustreamにて生中継およびアーカイブ公開の予定あり。

 ■コンセプト「物語を旅する」

 相馬:フェスティバル/トーキョー(以下F/T)は今回で6回目になります。2009年から毎年開催しており、このフェスティバルの位置づけを再定義するような時期に差し掛かっているように思います。そこで、今までやってきたことを確認しつつ、これからどうやっていくかを「コンセプト」に明文化しました。

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相馬千秋さん

 F/Tは「新しい価値を創造・発信する」「多様な人々の出会いと対話の場」「アジアにおけるプラットフォーム」という3つのミッションのもとに設計されたフェスティバルです。それ自体をお客様、主催者、関係者、アーティストとともに議論していく回にしたいと思います。当然ながらフェスティバルは事務局や主催者だけのものではありません。集うすべての人々とともに、誰のものなのかを確認する機会として、議論の場を含めて用意していきますので、ぜひご参加いただければと思います。

 今回のコンセプトは「物語を旅する」としました。なぜ「物語」なのか。今回のF/Tでは、2011年に起こった震災以後の世界をどう語っていくのかを、中心的な問いにしていきたい。私がディレクターとして、それを問題にして語っていきたいと思いました。2011年のコンセプトは「私たちは何を語ることができるのか?」。語り得ないことも含めて、どうやって問いかけていけばいいのかをテーマにしました。去年は「ことばの彼方へ」。イエリネクの言葉を中心に、震災後の状況と向き合っていきました。今回はその2回に連なる形で、あえて「物語」を中心軸に持ってこようと考えました。

 人類が誕生してからあらゆる社会やコミュニティーに存在する物語とは、私たちにとって一体どういうものなのか。普段からあまりにも当たり前に身近にありますし、現代ではコマーシャル、漫画、アニメといった、いわゆるメディアの中にも入り込んでいて、敢えて意識することもありません。一方、私たち個人がこの地上のどこから来て、何者で、これからどうしていくのかという、「自分が自分である」という物語もあります。それすらもそんなに意識することはありません。ところがそのような物語が、あるきっかけで中断、断絶した時に、もう一度、自分は何者で、どこに行くのだろうと問いかけることになります。そういう営みとして、やはり物語というものは今、非常に重要なのではないかと考えました。
 とはいえ物語は非常に幅広い言葉で、さまざまな要素があり、ひとことで表すのは難しいものです。今回のラインナップでは、物語というもののさまざまな側面を、いくつもの切り口から光を当てる作業をしたいと思っています。


 ■フィクションの力

 相馬:物語の1つの側面として「フィクション」が考えられると思います。たとえば震災直後に想像を絶するようなことが起きた時、自然の猛威や語り得ないような状況に対しては、人間の想像力なんて無力だと、多くの表現者が感じていたと思います。我々もそうだったわけですけれど。そこからもう一度、人間の想像力というフィクションを生み出す力で、現実を乗り越えていこう。それが芸術には可能なのではないか。その問い、可能性への挑戦をしたいと思います。


 ●バック・トゥ・バック・シアター『ガネーシャ VS. 第三帝国』(オーストラリア)

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 相馬:インドのガネーシャ神(象)が、ヒットラーに奪われた幸福の象徴(卍)を奪い返しに、時空を超えて旅をします。そんな荒唐無稽だけれどもファンタジックな物語をベースに、その物語を演じている劇団の内紛も同時に描く、メタ構造の作品です。
 バック・トゥ・バック・シアターは国際的にも評価の高い劇団で、障害を持つ俳優さんも所属しています。『ガネーシャ VS. 第三帝国』は東京芸術劇場のプレイハウスで3回上演します。


 ●シアタースタジオ・インドネシア『オーバードーズ:サイコ・カタストロフィー』(インドネシア)

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 相馬:シアタースタジオ・インドネシアは昨年の公募プログラムのF/Tアワードで一位を取った劇団で、今回の主催プログラムに招かれました。今回も竹を使って、劇場空間そのものを作る野外劇になります。1883年にクラカタウ山の大噴火があり、その災害の記録が書かれたテキストからインスパイアされ劇作されます。災害がドラマトゥルギーを生むというアプローチです。池袋西口公園での世界初演となります。


 ●松田正隆×松本雄吉『石のような水』(日本)

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 相馬:松田正隆さんの脚本を松本雄吉さんが演出するという、非常にチャレンジングな企画となっています。今回お2人は映画監督タルコフスキーの世界からインスパイアされて、それをもとに戯曲を書き、作品を作るのですが、“SF的メロドラマ”になるそうです。タルコフスキー監督は「ストーカー」「サクリファイス」といった名作映画の中で、核の脅威を描いています。いったいどんなことになるのかとても楽しみです。会場はにしすがも創造舎です。


 ●チェルフィッチュ『現在地』(日本)

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 相馬:チェルフィッチュの岡田利規さんは意外にもF/T主催プログラム初登場になります。2012年に横浜で初演された『現在地』の再演です。私は岡田さんに、ぜひこの作品をやっていただきたいとオファーしました。フィクションの力を問うにあたり、この作品を欠かすことはできないであろうと思ったからです。岡田さんは震災後、不安定な現状を描くために、それまでのリアリズムをいったんカッコにくくって、新たにフィクショナルなアプローチを始められた。そういう記念碑的な作品だと私は思っています。


 ■古典戯曲を現代に読み解く

 相馬:物語を語るうえで欠かせないのは戯曲だと思います。戯曲は物語を継承していく装置、かつメディアであり、それを現代に読み解くことから、物語のひとつの側面にアプローチしていきたい。2つのグループに『四谷怪談』を演出していただきます。

 ●木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談 ―通し上演―』(日本)

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 相馬:木ノ下歌舞伎にはF/T09秋「演劇大学」という若手にフォーカスしたプログラムに一度来ていただき、主催プログラムへの参加は今回が初めてです。『四谷怪談』は実のところ、お上に忠義を尽くす『忠臣蔵』のような江戸時代の世界観に対する1つのアンチテーゼであり、今日にも通じるような群集劇として描きたいそうです。お岩さん等の主要な登場人物だけにしぼらず群集劇にするので、登場人物をカットしませんから、通し上演で6時間かかります。若者がどうしても6時間やりたいそうなので(笑)、皆様、お付き合いいただければと思います。


 ●中野成樹+長島確『四谷雑談集』+『四家の怪談』(日本)

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 相馬:中野成樹さんと長島確さんにも『四谷怪談』をやっていただきたいと、私からオファーしました。彼らには2パターンのツアー・パフォーマンスを創作していただきます。観客は『四谷怪談』にちなんだ都市空間を歩き、そこで何かしらの物語に出会っていきます。1つは四谷から新宿。つまり実際の『四谷怪談』が起こったエリアのひとつです。もう一方は足立から葛飾と、ちょっと遠いんですが、そちらも彼らとしては必然性のある場所だそうです。


 ●サンプル『永い遠足』(日本)

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 相馬:サンプルの松井周さんは今回3年ぶりのF/T登場です。私からはギリシア悲劇をやってくださいとオーダーしました。松井さんによると今回は「『オイディプス』の二次創作」で、生命倫理の問題や先端医療の状況などを織り込んだ意欲作になるとのことです。『オイディプス』をサンプルなりに現代的に読み替えて、さらにそこに松井さんならではの問いが含まれてくるだろうと思います。


 ■「大きな物語」に抗して

 相馬:「物語」というと、リオタールが提唱した「大きな物語」という概念があります(今となっては古臭い現代思想の話かもしれませんが)。それに対し、私たちは芸術表現としてどう向き合っていくのか。特に国家、イデオロギー、あるいは大きな歴史というものに対して、表現者が個人としてどういうアプローチができるのか、考えてみたいと思いました。

 ●ラビア・ムルエ連続上演(レバノン)
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 相馬:F/T09でお呼びした、ラビア・ムルエさんとリナ・サーネーさんの作品を連続上演(映像作品含む)という形で特集します。彼らは“アラブの春”の渦中にいるアーティストです。“アラブの春”にも光の部分と影の部分があって、どちらかというと今、レバノンはシリアの隣で、その影の部分を一身に背負っているような社会状況にあります。
 “アラブの春”という革命の表と裏、大きな歴史というマクロと、その渦中にいる個人の小さなミクロの現実を、彼らはどのように描いているのか。3つの作品を上演します。

 ・『ラビア・ムルエ連続上演「33rpmと数秒間」』

 相馬:私は昨年拝見しました。2010年ごろから“アラブの春”は始まっていて、2011年にエジプトの革命があり、ラビアさんがこの作品を作るまでには約1年の時間があったようです。
 facebookの画面がスクリーンに映されて、タイムライン上のやりとりが演劇化されていきます。舞台上には俳優が一人も登場しません。タイムラインの持ち主は、自殺してしまった革命家でありアーティストである実在の人物。その人のタイムラインに彼の死を悼むメッセージがどんどん書き込まれていき、ある種の演劇になっていく、非常に象徴的な作品です。“アラブの春”の光と影を巧妙に映し出していきます。

 ・『ラビア・ムルエ連続上演「ピクセル化された革命」』※入場無料

 相馬:ムルエさんはイメージの表象をテーマに創作をしてこられました。『ピクセル化された革命』は昨年、ドイツの美術展「ドキュメンタ」で発表された、シリアの内戦をテーマにした作品です。YouTubeなど、戦場に持ち込まれた様々なメディアが実際の戦争を撮っている際に、撮影者が銃弾を浴びて倒れてしまうんです。その瞬間を「撮る/写される」、「見る/見られる」という関係を扱っている作品です。

 ・『ラビア・ムルエ連続上演「雲に乗って」』

 相馬:ムルエさんの実の弟イェッサさんが出演します。イェッサさんはかなり若いころ(高校時代?)にレバノンで銃弾を受け、脳の一部を損傷しました。リハビリをしてなんとか普通の生活が送れるようになった、実際に過酷な内戦を生きた方です。その方が舞台で自分の人生を語ります。レバノン内戦という大きな歴史のフレームと、個人という小さな視点が拮抗します。
 

 ●F/T13イェリネク連続上演『光のない。(プロローグ?)』(日本)

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 相馬:「日本で今一番大きな物語」と敢えて言ってしまいますと、当然、福島の問題があります。去年もイエリネクを特集することで、F/Tなりに現実に向き合いましたが、今回はイエリネクの戯曲「光のない。」の一部分として、彼女が一番最後に書いた「プロローグ?」を上演します。
 最初に「光のない。」、次が「エピローグ?」、最後に「プロローグ?」の順で書かれたんですね。「プロローグ?」が発表されたのが去年のF/Tの最中だったので、その後、急きょ翻訳しました。最後だけど「プロローグ?(導入部)」と題された戯曲を、宮沢章夫さん(写真・上)と小沢剛さん(写真・下)に演出していただきます。

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 宮沢さんは能の形式を参照しながら、死者との対話をイエリネクの言葉を介在させて描きたいとおっしゃっています。小沢さんは現代美術家です。私の方から彼に「イエリネクを演出してください」とお願いしました。美術家なので演劇は作れないけれど、「イエリネクの言葉を何らかの形で視覚的に上演する道を探りたい」ということで、今はいろんなオブジェを製作しています。展示物がある中に、ある時間が流れているような、演劇的体験として受容していただける作品になると思います。


 ●フォースド・エンタテインメント『The Coming Storm─嵐が来た』(イギリス)

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 相馬:フォースド・エンタテインメントはティム・エッチェルスが演出するイギリスの有名な劇団です。『The Coming Storm─嵐が来た』は「物語を考える」というコンセプトにおいて、非常に重要な位置づけの作品だと思っています。物語を語るとはどういうことか、それは可能なのか、誰が物語を語る権利があるのか、という問いは同劇団の主軸のテーマで、それを脱臼、脱線、脱力のパフォーマンスで展開していきます。物語を語ることに対するメタ的な視点を、この劇団に担っていただこうと思います。


 ■都市の物語を可視化する

 ●リミニ・プロトコル『100%トーキョー』(ドイツ)

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 相馬:都市とは私たちが生きている東京の街。リミニ・プロトコルは今回が3度目のF/Tへの招聘になります。『100%トーキョー』という作品は、東京バージョンとしての上演です。出演者は東京都の統計に基づいて集められた100人で、たとえば東京都の男女比が51対49だったら、舞台上には51人の男性と49人の女性がいることになります。今回は東京23区を対象に出演者を選ぶので、豊島区の人口が東京23区の3%だとすると、100人のうち3人が豊島区在住の人で構成されることになります。そういうルールで集められた100人が舞台に上がり、リミニ・プロトコルが考えた質問に答えていきます。あえてイエスかノーかを選ばなければいけない質問に答えていくことで、人々の意識が可視化されていく試みです。


 ●Port B『東京ヘテロトピア』(日本)

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 相馬:構成・演出の高山明さんには、アジアをテーマにと私の方からオーダーしました。外国のアジアというより、東京の中に潜んでいるアジアを、さまざまな物語を媒介として可視化していこうという作品です。まずは東京にいるアジアからの留学生の足跡をたどり、そういった逸話のある場所にお客様に赴いていただきます。たどり着いた場所でアジアの物語の音源を聴き、お客様は現実と、過去の物語に出会い直していく。そういう仕掛けの演劇になるかと思います。


 ■F/Tオープン・プログラム

 相馬:「F/Tオープン・プログラム」は今回新設しました。F/Tという演劇の祭典を、演劇やアートという文脈を共有していない人にも強く発信していく、まさにオープンにフェスティバルを開いていくためのプログラムです。池袋エリアの商店街やさまざまなコミュニティーと協働し、非常に力を入れています。


 ●オープン・プログラム「F/Tモブ・スペシャル

 相馬:昨年好評だったF/Tモブを、今年はさらに拡大します。東はサンシャインシティから、西はホテルメトロポリタンの中まで、面白い場所を使ってモブ(一般参加型の群衆パフォーマンス)を行います。アーティストはコンドルズの近藤良平さん、プロジェクト大山の古家優里さん、口ロロの三浦康嗣さん、Nibrollの矢内原美邦さんです。


 ●オープン・プログラム「KEINE STIMME.-声のない。 inspired by EPILOG?

 相馬:東京芸術劇場のアトリウムに椿昇さんの現代美術の展示をします。椿さんは 「横浜トリエンナーレ2001」で、巨大なバッタをインターコンチネンタルホテルに貼り付けたという非常に有名な方です。今回はバッタではなくバッファローを設置し、そのインスタレーションと他のアーティストが呼応して、プロジェクトを起こしていきます。


 ■F/T13・公募プログラム(選出された9作品)

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 広報:公募プログラムは今年で4回目の開催となります。アジアに開かれてからは3回目です。今回の応募数は137件。そのうち9団体を選出しました。中国、台湾、韓国、シンガポール、インドから1組ずつで計5組、そして日本が計4組です。
 飴屋法水さんらを審査員に迎え、今年もF/Tアワードを実施します。結果発表は12月8日。Ustreamでの中継も予定しています。


≪フェスティバル/トーキョー13 (F/T13) ≫
会期:平成 25(2013)年11月9日(土)- 12月8日(日) 予定
会場:東京芸術劇場、あうるすぽっと、にしすがも創造舎、シアターグリーン、アサヒ・アートスクエア ほか
主催:フェスティバル/トーキョー実行委員会 / 東京都 / 豊島区 / アーツカウンシル東京・東京文化発信プロジェクト室・東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団) / 公益財団法人としま未来文化財団 / NPO 法人アートネットワーク・ジャパン
フェスティバル/トーキョー13:http://festival-tokyo.jp/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年09月14日 17:16 | TrackBack (0)