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2013年09月15日

【レポート】新国立劇場演劇「マンスリープロジェクト・トークセッション Try・Angle-三人の演出家の視点-」09/15新国立劇場小劇場

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トークセッションのパンフ

 新国立劇場演劇部門のシリーズ企画「Try・Angle」で演出をされる3人の演出家(小川絵梨子/森新太郎/上村聡史)と、芸術監督の宮田慶子さんという、プロパーの演出家4人によるトークセッションを拝聴しました。
 
 約1時間30分という長時間なので、上っ面だけでなく深いところまで突っ込んだお話になるんですよね。昨年の作・演出家のトークセッションもとても面白かったんです。新国立劇場演劇部門のマンスリープロジェクトは入場無料!事前申し込みが必要なので、ぜひ来月、再来月の予定もチェックしてみてください。

 以下、私がメモしたことをアップしました。語尾などに統一性はありませんし、正確性にも責任は持てませんので、どうぞご容赦ください。

 宮田:今回、新国立劇場で上演する演目について。「好きなものをやってください」とオファーしました。どうやって戯曲が選ばれたのかを教えてください。
 小川:いくつかの中から登場人物4人の会話劇『Insignificance』(テリー・ジョンソン作・映画「マリリンとアインシュタイン」)と『OPUS/作品』の2本にに絞られました。『Insignificance』は、本人とは明かされずにアインシュタインやマリリン・モンローらが登場する、原爆に関係する戯曲で、新国立劇場に合っていると思った。でもプロデューサーの茂木さんに「『Insignificance』は40~50代になってもやりたいと思うだろう。『OPUS/作品』は30代の今やるべき戯曲じゃないか」と言われて、背中を押された気がした。コメディックなモーメントのある戯曲に苦手意識があるので、挑戦したいという気持ちもあり。『OPUS/作品』は厳密にはコメディーではないのだけれど、品のいいコメディーができればと思いました。
 宮田:『OPUS/作品』はどうやって見つけたんですか?
 小川:アメリカでジャケ買いのように出会いました(笑)。400円ぐらいで買えるし、どんな本屋さんにも戯曲は置いてある。演劇専門の図書館も、演劇専門の本屋さんもあります。ニューヨークには劇作家が多いんです(日本のように劇作と演出を兼ねる人は少ない)。図書館に戯曲を置いておけるシステムもあって、戯曲が身近で手に入りやすい。
 宮田:日本では需要が少ないから戯曲が出版されることが少ないんです。


 :(所属している)演劇集団円ではエリザベス朝演劇をよく上演しているから、クリストファー・マーロウのことは知っていた。候補は3本あったのだけれど、ハイリスクだとわかっていながら、マーロウに身を投じてみようと思った。それに「若い内に骨太なのをやった方がいい」と宮田さんに言われました(宮田:そんなこと言ったかな~・笑)。
 『エドワード二世』は喜劇なのか悲劇なのか、読んでもよくわからない戯曲です。だから役者さんがオファーを受けてくれるかどうか心配だった。でも17人集まってくれて、今、ここで稽古しています。
 上村:新国立劇場ではいくつかの公演で演出助手をさせていただいて、自分にとっては文学座につづく第二の学び舎。よく勉強させていただきました。新国立劇場に似合うような、大きくて、鋭い視点があり、批評性の伴う芝居をつくりたい。
 サルトル作『アルトナの幽閉者』はサルトルの最後の創作劇。(年を取って死を意識しはじめたころに書かれたからか)死後の視点を感じました。人間にとって時間の永遠性とは何だろうと考えていた時期だったので、この戯曲を選びました。僕の文学座デビュー作は1950年代のイタリアの戯曲『焼けた花園』。『アルトナの幽閉者』もその時代の戯曲で、命からがら言葉を紡ぎだしていることに惹かれる。また、自分には主流じゃないものに目が行く癖がある。


 宮田:小川さんはアメリカで演劇を学んで、今はフリーですよね。森さんは演劇集団円、上村さんは文学座に所属されています。
 小川:仲間がいるといいなと思う。でもべったりするのも怖い。役者の人生を背負えないというのもある。自分が弱いことを知っているから、今はフリーでいることを選んでいる。生き方として、リスクを負っていきたい。
 上村:森さんは文学座にも受かったけど、蹴って(笑)、円に入ったんですよね。
 :文学座を受験したら演出家がズラリと並んでいて、これはデビューするのに10年はかかるんじゃないかと思った。円は(文学座に比べると演出家が少ないので)早く演出をやれるかもと思って。実際「じゃあやってみるか?」と軽く言われてデビューできた。でも上村くんが僕より1年早くデビューしてて(笑)、才能があれば早くデビューできるんだなと思った。
 上村:文学座に入って1年目は研究所、2、3年目は演出部に入り地方公演などの現場につく。4年目で準座員になって、ようやく演出家として座員に企画を出せるようになります。


 宮田:森さんは新国立劇場で『ゴドーを待ちながら』をやってくださいました。デビュー作はマクドナー作『ロンサム・ウエスト』。男優さんとよくお仕事してますね。
 :女優さんは…怖い(会場で笑いが起こる)。男優さんはケンカしても翌日にはケロっとしてたりするけど、女優さんに嫌われたら終わりじゃないですか! 特に文学座の女優さんが怖い…(会場で大笑いが起こる)。説得できたら一人前だと思っていいんじゃないか。上村くんは闘ってきたんですよね。
 上村:文学座は一つ一つの言葉に理屈付けをする。言葉についてのものの見方がねばっこい。場合によっては読み稽古を2週間やることもある。芝居が重くなるという弊害が生まれることもある。
 :(文学座の俳優は)戯曲について“こじつけ”の胆力があるんでしょうね。手ごわいベテラン相手に演出をするには、演出家だってこじつける力が必要。円は文学座から派生した劇団だけど、「俳優が好きなことをやる」のが地盤になっている。読み稽古に2週間とったことなんて(たぶん)ない。3日目には俳優が動きたくなって、(勝手に)立ちはじめたりする。


 宮田:30代半ばというと、演出家としては「若手」として扱われますね。
 上村:劇団の先輩俳優には正しいことを言ってもらえる。ドラマの立ち上がりには根拠が必要だし、ベテラン俳優は演技の根拠に敏感。ただ、文学座はこじつけの力が強すぎると感じることもある。プロデュース公演は新鮮で、知らなかった方法に出会える。外にも開いていくことは大切。
 :劇団昴に演出家として呼ばれたときに、とても大切にされた(笑)。こんなに言うことを聞いてくれるのか!と。(劇団の創作にも良さはあるが)演出家がすべてを掌握できることも大事だと思う。
 宮田:プロデュース公演ではお互いが職能として出会える。演出家は昔よりフィールドが広っている。20年前の劇団外部の仕事というと、明治座や三越劇場などでの商業演劇しかなかった。やっといろんなプロデュース公演が生まれてきて、劇団公演、自主公演など、演出家が自由に選んで行き来できる時代になった。


 宮田:劇作や俳優をしたことはありますか?
 小川:(戯曲を書くことより)どうやって作家の世界を舞台の上に広げるのかを考えるのが好き。自分は自意識満々なので俳優は無理。
 :脚本は一度書いて挫折しました。書く時は傑作が書けるような気がしてるんだけど(笑)、まったく書けなくて。作・演出をする公演だったのに稽古に3日しか出られなかった。これだと一生のうちに3本ぐらいしか戯曲は書けないだろうと思い、演出家一本にしぼった。先日、アイルランドに3か月間行ってきた時に、初めて(俳優として)ワークショップを受けた。先生に褒められた時にすごく嬉しくて、「俳優ってこんなに嬉しいのか!」と思った。それで調子に乗ったら捻挫をしてしまって(笑)、俳優にも挫折しました。(会場で笑いが起こりっぱなしでした)
 上村:自分が劇作をできないことにコンプレックスはあった。映画監督で脚本を書く人も多い。でも劇団に入って5年目ぐらいのときに、(脚本を生の舞台に立体化する演出の仕事の偉大さを再確認して)コンプレックスはなくなった。
 宮田:80年代の小劇場ブームの時、新劇の劇団は途方に暮れていた。お客さんは小劇場にしか入らないから。私も自分で戯曲を書いて、小劇場劇団の公演をした方がいいのかと悩んでいた。でも悩んだ結果、演出家プロパーになった。


 宮田:劇作家が書く言葉と演出家が書く言葉は全然違う。戯曲は過不足なく書かれている。演出家はいきさつの穴埋めしか書けない。演出家が書いたセリフは役者さんにバレる。役者さんの嗅覚はすごい。
 小川:『ピローマン』の稽古中にどうしても1つのセリフだけが引っかかっていた。ペンディングしていたんだけど、ネイティブの人に相談したら、やはり少しだけ意味が違っていた(自分の翻訳が間違っていた)。放置していた自分のせいだと反省した。でもそれが浮き彫りになる稽古ができていたのは、良かったと思う。
 上村:劇作家の戯曲は、体の温度、リズム、熱量も全部計算して書かれている。いい戯曲ほどカットできない。
 :でも『アルトナの幽閉者』は5時間あるんだよね?大変そう(笑)。
 宮田:絶対カットしないとだめよ、19時開演だと24時終演になっちゃう。


 宮田:将来やりたいこと、やりたい戯曲は?
 上村:実はまだシェイクスピアをやったことがない。イギリスでもフランスでも(演出家なら)必ず通る道だから、30代のうちにやっておきたい。
 :チェーホフがやりたい。だってベテランの演出家は「チェーホフがいい」って言うし(会場で笑いが起こる)。若い時は読んでも全然わからなかったけど、やっと面白いと思えてきた。でも、やるとしてもまだ先だと思います。
 小川:ベケットの『エンド・ゲーム』をやるまでは死ねないと思ってます。シェイクスピアは『夏の夜の夢』を。私はある意味、地味な演出をするタイプなので、わかってもらいづらいかもしれないけど、世界観の構築をリスクをしょってでもやりたい。日本の戯曲もやりたいです。長塚圭史さんがやりまくっちゃってるけど三好十郎を。実は岸田國士も好きです。お仕事ください!


 宮田:新作戯曲を書きおろしてもらうのはいかがですか?
 小川:イキウメの前川知大さんとKAATで作った時はとても良かったです。前川さんがずっと稽古場にいてくれたし。ともに作っている実感があった。それに、初日に居場所がなくて、緊張してるのが私だけじゃない(笑)。そして世界初演というのも魅力的。
 上村:言葉が俳優を動かす一番のタネ。一語をしぼりだす作業は面白い。劇作家と一緒に創作すると、ともに戦っている気持ちになる。新訳をやる時もそう。
 :僕はデビュー後は割と劇団で新作ばかり作ってました。劇作家って締め切りを守らないんですよね…。ラストがわからないのに舞台美術を決めたりすることに疑問もあった。すべてを演出したいから、今は翻訳劇をやっているんだと思う。でも新作を作る面白さもあるから、またやると思います。


 宮田:お客様へのメッセージをお願いします。
 小川:『OPUS/作品』は初日が開いてからも、役者と作り続けています。29日までやってますので、ぜひいらしてください。
 :『エドワード二世』はチラシのビジュアルとタイトルから、深刻で重そうだと思うかもしれませんが、全然そんなことありません。主演の柄本佑さんは志村けんのバカ殿みたいです(笑)。ばかばかしさや混乱っぷりが胸を打つといいなと思っています。
 上村:『アルトナの幽閉者』はそのままやると5時間はかかる戯曲です。上演する際は短くしますが、それでも重たくて、ヘトヘトになると思います。でも、観劇してから1日後、10日後、1年後と時を経て、心の栄養剤になる作品です。
 宮田:私が新国立劇場で演出する『ピグマリオン』は、映画にもなったミュージカル『マイ・フェア・レディー』の原作で、原作はバーナード・ショーです。でも、下町の女の子が幸せになる話ではありません。考えされられる恋愛物語です。ミュージカルとは違う結末があり、ショーのメッセージもたくさん入っています。
 新国立劇場で私が初めて演出したのは『ディア・ライアー』。これは『ピグマリオン』が出来上がるいきさつを芝居にしたもので、ショーと『ピグマリオン』初演の主演女優が登場する2人芝居です。ショーが女優に恋をしたから、『ピグマリオン』ができたんです。その『ディア・ライアー』を朗読劇にしてお届けしますので、マンスリー・プロジェクトにご期待ください。


9月15日(日)17:00~
出席者:小川絵梨子/森新太郎/上村聡史 聞き手:宮田慶子
無料(事前申込必要)
http://www.nntt.jac.go.jp/play/monthly/

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2013年09月15日 23:27 | TrackBack (0)